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史上最高のアニメ『キルラキル』、その第一話を多角的に掘り下げる 〜所信表明とアバン解説【第一回】〜

はじめに

こんにちは、しおめっしです。
突然ですが”最高のアニメ”を聞かれたら何選びますか?

僕ならキルラキルを挙げます。誇張抜きにテレビアニメとしてトップの面白さだと思ってます。

初めて見た高校1年の僕をオタクにしたのはこの作品だし、青春を彩ったのは間違いなくTRIGGER。「オススメのアニメある?」と聞かれれば誰であれ有無を言わさずキルラキルを見ろと叫ぶ高校生でした。それから月日は流れましたが、未だキルラキルの第一話は僕の中で最高であり続けています。

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なぜ好きか。それは面白いということの裏側まで考えさせうる作りであるからです。この作品は僕に『アニメに真剣に向き合う』ということを教えてくれた。しかし、その感動を共有しようと多くの人に勧めるも今ひとつ理解してもらえないようなのです。

キルラキルを見て浮かぶ感想として熱い・燃える・エモいなど色々あると思います。でも僕がこの作品に感じた魅力はそんなざっくりとした感情ではない。もっともっと細かく分解した果ての深い位置にある。それを言語化することこそが本企画の趣旨であります。

中でも第一話は25分足らずの尺に詰め込まれた面白さは群を抜いています。キルラキル全体を見通してもこの第一話は特に面白く、様々な要素がそれを支えています(いきなりシリーズ全体は大変、というのもありますが)。

ということで今回初記事として選んだテーマはキルラキル第一話『あざみのごとく棘あれば』について。どこが面白いか、なぜ面白いのか、そしてそれはどこから来ているのかについて分析します。あなたがもう一度見た時に多くの発見があるように。そしてあわよくばその視点で他のアニメを見てもらえるように。

それでは服を着た豚の皆さん、しばしお付き合いください。

【注意】
この記事はキルラキル視聴済みの方を対象にもっともっと掘り下げる記事です。ネタバレを含むので未視聴の方はとりあえず見てきてください。最高に面白い作品であると約束します。色んなところで配信してますのでぜひ。

面白さを構成する2つの軸

キルラキルは面白い、それは間違いない。ではどこが魅力でしょうか。

エモい、熱い、展開が早くて気持ち良い、文字の使い方が強すぎる、はさみが武器で斬新、服が喋っていておもしろい、激しいアクション、服装が破廉恥、音楽がかっこいい、色づかいがノスタルジック、、、

おそらく要素はいくらでも挙がるし、すべて正しいでしょう。ですが、ここでは全体を掴むためざっくり2つに分類すると以下のようになります。

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キルラキルに限らず、アニメはお話として進行する面白さ画によって牽引される面白さの2軸によって成立させていると言えるのではないでしょうか。そしてそれら2軸は、完全に独立しているというよりはむしろ相互に絡み合って魅力的に映ると私は感じています。ここからはその両面について、横断的に語っていきます。

ところで少しずれますが、世間のアニメ評として語られるとき、お話としての切り口で語られることが非常に多いと感じるのは気のせいでしょうか。その切り口だけでは、脚本であったりボイスドラマであったり映像を伴わない媒体でも成立しうるとも言えないだろうか?と思ってしまうのです。

強調したいのは、それがわざわざアニメとして作られていることにもっと目を向けるべきではないかということです。お話は重要、ですが同じくらい映像についての評価をしていくことが大切なんじゃないかと考えます。本記事を読んで少しでも興味を持ってもらえると嬉しいです。

わずか4分、圧倒的密度のアバン

アバンとはオープニングが流れるまでのプロローグの時間のこと。キルラキル第一話では流子の「これが、本能字学園か———」までにあたります。その間4分20秒。全体の20%にも満たない尺ですが、しかしここまでで既に初見の方は普通のアニメの1話分くらい入り込み、中には疲れてしまう人もいるでしょう。では、まずはアバンで何が起こっていたのか振り返ってみましょう。

①0'00" テロップと先生の声。2年甲組は授業中のようだ
②0'20" 蟇郡がド派手に突入、先生平伏。”牙むく者”がいるらしい
③1'07" 何かを胸に抱える生徒が逃亡。しかし不敵な笑い声と不気味な気配
④1'16" 逃げた先には蟇郡がいた。生徒は投げ飛ばされボコボコに
⑤1'30" 盗み出したのは”一つ星極制服”だった!促され着用し、効果を実感
⑥2'01" 思い切りパンチをするも蟇郡は”三つ星”。瞬殺、制服も剥がされる
⑦2'55" 蟇郡が生徒へ宣言、生徒会長鬼龍院皐月について言及
⑧3'10" 後光が強まる中、皐月様が登場。「敬礼〜〜〜!」
⑨3'31" 靴を鳴らして名演説「服を着た豚ども!その真実に屈服せよ!」
⑩3'50" カメラ高速かつ立体的動きで引きながらテロップ、流子に向かう
⑪4'11" 正面向きテロップ。見上げて「これが〜」、タイトルへ

文字にするとすごい情報量ですね。しかし見てる時はハイテンションで気づかず持ってかれるのでそんな感じしないので不思議。ここでキルラキルの特徴がここで一つ明らかになりました。それは尺に対して膨大すぎる情報量を盛り込む点です。しかもそれがただの情報の羅列ではなく”お話”として成立している(ナレーションではない)点にも注目でしょう。受け手としては極めて自然に、しかし尋常ではない量の情報の波に圧倒されます。

では、何がそれを可能にしているのでしょうか。もっと深く掘り下げてみましょう。

①導入、私達は何を見せられたのか

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冒頭、いきなり”あの”力強いテロップで「本能字学園」「2年甲組」とそれぞれ4秒かけてこちらに迫ってくるように物語は始まります。しかし、キルラキル内でも他の多くのテロップの使い方と異なる点があるのにお気づきでしょうか。

それは黒背景に白字であることです。仮にここが次のシーンのように赤で画面に被せて行われていた場合、美木杉と状況説明が同時に行われることになります。”キルラキルの文脈”に慣れた皆さんならなんともないでしょうが、おそらく初見さんには刺激が強すぎるという配慮ではないかと私は見ています。

逆に言えば、この段階で視聴者に説明のときはこのフォントでどーーんと押し出していくぞ、というルールのみ示されます。そして同時進行で補強するように裏で美木杉のお決まりのヒトラー内閣誕生について聞かせ、授業中であることとテロップの意味や用法を関連付ける演出ではないでしょうか。

強すぎるテロップはこのアニメのアイデンティティともいうべき存在ですが、もとを辿れば導入の使い方は極めて細やかな配慮によって行われていることがわかります。

②蟇郡登場!その演出の妙に迫る

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さて、開始から20秒経ち受け手が授業中であることが伝わったとみるやいなやドアから怪しい音が聞こえてきました。蹴破り現れたのはご存知蟇郡苛。美木杉は登場してわずか30秒で土下座です。まずはその立場の変化について映像的に見ていきましょう。

先程みたように、美木杉はいかにも気の抜けた声で登場します(だからこそ後にギャップでやられるのですが)。それでも教師として教壇に立ち正面にフレーミングされ、一応面目が保たれています。ところが次のこのシーン、扉が蹴破られてから美木杉は蟇郡に圧倒されて視聴者に背中を向け、平伏し、しまいには左隅に追い出されていくのです。言い換えると美木杉は上手から下手に追い落とされ、上手に蟇郡が収まるということです。そもそも、上手・下手の概念はすごーくざっくり説明すると以下のようになります。

(観客から見て)
左=下手:弱い、小さい、挑む人
右=上手:強い、大きい、挑まれる人

この原則のすごいところは聞いたことがなくても慣れ親しんでいること。多くの人が積み重ねてきた映像や絵の経験が、無意識にこの感覚をわかっているのですんなりと”画”のみで力関係が伝わるのです。

これを踏まえてもう一度見ていきます。

右から蹴破った蟇郡はその行為だけでなく立ち位置が上手であることによってより強さが際立ちます。そしてカメラは扉に正面に向くことで美木杉を左手前という下手に追い込みます。さらに追い打ちをかけるように画面いっぱいに蟇郡を写し、仰角(アオリ)で見せることでかなりの重圧が美木杉=視聴者にかかります。授業中だったはずがもはや教師としての立場もなく、土下座をしながら左にフレームアウトする。本能字学園は教師の上に一生徒である蟇郡が圧倒的存在として君臨するとんでもない学校であると伝わる、極めて原則に忠実かつ効果的なシーンであることがわかりますね。

その後も正面にどアップかつ傾いた厳つい表情で名乗り圧迫感を与え、ここで”風紀部”というエロ漫画でしか見ないような団体を明かし視聴者の興味を誘います。そして間髪入れず左に動いてまた右に戻るまさにその瞬間、”牙むく者”の存在を明かし物語はさらに転がっていくのです。忘れてはいけないこのテンポ。アクションを終える前にすでにセリフが先行していることで、受け手に一段落させないままこのテンションを次のシーンに引き継がせるのは流石でしょう。

そして別の見方をすれば生徒たちは風圧で吹き飛んだのに、ケロリとしている美木杉は只者ではないという発見も。今後の展開を暗示していたのかもしれません。

さらにさらに、声優の演技に注目するとまた別のことが見えてきます。というのも、美木杉があえて抜いていることで、蟇郡はその太い声をよりコントラストを効かせて僕らの耳に届くのです。抜いた演技もキメた演技もできる三木眞一郎氏と圧倒的声量と演技力の稲田徹氏の配役の上手さも感じられるのではないでしょうか。

おまけ 〜新中野フラッシュについて〜

話は変わりますが蟇郡の出てくる瞬間、極制服がキラキラ光っているのはお気づきでしょうか。

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これ、めちゃくちゃかっこよくないですか?名前を中野フラッシュ/クロス(透過)光と言います(キルラキル公式ガイドブック神衣万象では新中野フラッシュとされています)。キラキラってなる現象を前者、十字の模様そのものは後者になりますのでおそらく混ざったものを”新”ということなんですかね、でも十字でフラッシュしても中野フラッシュのような... 有識者の方、ぜひコメントいただけると嬉しいです

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中野フラッシュとは光学的にはアナモルフィックレンズフレアと呼ばれるものの応用で、アナモルフィックレンズフレアはJJエイブラムスのスタートレックなんかを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。同書にてそのエフェクトはJJ光と呼ばれているほどです。ざっくり原理について説明すると、映画用の特殊なレンズに対して点光源が入ると横に伸びたフレアが映るというもの。そして中野フラッシュとは、中野昭慶氏という往年の特撮スタッフが爆発エフェクトの前によく使っていた謎の光のことです。

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こちらはゴジラ対メカゴジラ (1974)。爆発前の特徴的なきらめきが確認できるかと思います。以下参考。

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続いてクロス光、画像はケンコー公式から拝借。本来は夜景など強い光源を強調する目的で使われる写真や映像の技法で、アニメでも光源の強さやかっこよさを演出する昔からある手法です。目がキラッと光る、とか。

本当は金田光と呼ばれるエフェクトについても言及したいんですがおまけのおまけになってしますので泣く泣くカットです... コアなファンのあなたならきっとそっちも踏まえろとお叱りになるでしょうが、ここは一つご勘弁ください。なんのこっちゃという方はぜひ金田伊功で検索してみてください。今石監督も彼のフォロワーであり、今石作品では度々見られるエフェクトです。

さて、ここまでを踏まえた上で、アニメでの中野フラッシュの歴史について見ていきます。

特撮としての中野フラッシュはアニメに持ち込まれ、80年代にガイナックスが開発した手法でありトップやナディアなどからヱヴァンゲリヲン:Qなどでも使われていることが確認できます。

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以下参考。

上記の以外の最近の例としてFGOのカルナさんの宝具(モーション改修後)なんかも挙げられます。これはクロス光も併用した例。新中野フラッシュ?金田系とも言えるか?ともかく遠くから爆発に先行してエフェクトが迫ってくるのがわかりやすいかと思います。CCCからの流れを踏まえたあのストーリーも相まって宝具が一番好きなキャラクターでもあります。

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少し話が逸れました。ここまで参考事例を見渡した上で、ではなぜ今回ここで中野フラッシュがキルラキルで使われたのか考えてみましょう。

まず演出的な視点から。このフラッシュは教室に入るとき”三つ星”が光る強調です。多くの無星など一般生徒にとって”三つ星”なんて存在は支配の象徴であり恐怖の対象です。それまで寝たりサボったり緊張感のない暗い教室が、突如扉を蹴破られフラッシュで視線を持っていきます。この蹴破られてから教室に蟇郡がはいるまでのタメを作るのがフラッシュであるとも言えます。この"間"がその後の威圧感へ画面に緩急をもたらすとも見ることができ、その重要性は大きいと言えるでしょう。

もう一つ大事な視点は、伝統的演出としての記号性です。参考事例を見てきたように、この技法はガイナックスの十八番にしてかつ常に発展し続けてきた伝統芸です。ガイナックスで育った今石洋之監督もその薫陶は受けているわけで、例えば以下のものが挙げられます。

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グレンラガン4話の合体シーン。これは金田っぽさもあるけど額周りはフラッシュ?縦の光跡はスミア現象。凝ってます。

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11話の魚雷着弾シーン。これはまごうことなき中野フラッシュ。画面動や爆発に先行して光っていますね。

などと色々見てきましたが、ここで最初に見た蟇郡のフラッシュを思い出してみてください。フラッシュがさっきより歴史の重みを感じられるようになったのではないでしょうか。そして今石監督のガイナックスとしてのの系譜、そしてそのエフェクトのオマージュとしてよりオリジナルな先鋭的表現になっていることがつかめたかと思います。

手書きっぽく見えるエフェクトや、見終わった方ならわかるそれが3つ光る意味。これは今石監督の伝統をリスペクトしつつ下敷きにした、新たなチャレンジという決意表明ではないでしょうか。1話のアバンの序盤で行われるからこその決意表明。脈々と受け継がれてきた伝統を継ぎつつさらに新たな次元へと引き上げるという意思。この伝統技法を取り入れつつ付加価値に昇華するという、型をしっかり取り入れた「型破り」感はガイナックスからの”血”であり、TRIGGERの哲学であると言えるでしょう。


そしてそれが"新”中野フラッシュという名前の意味の本質なのかもしれません(これに関しては違ってたらマジですみません。遠慮なく指摘していただけるとありがたいです)

また、この先キルラキルでは他にも名作や名手法へのリスペクトが多く登場しますので、また紹介できればと思います。

まとめ

ここまで見てきたことから以下のことが言えます。

キルラキルは尺に対して膨大な情報量を盛り込むことで、お話のテンションを高めている。テンションを高めるための工夫は随所に見られる。
最初にテロップの使い方を示し、早速「風紀部委員長」から画面と音で圧力をかける。
左右の上手・下手の原則に則った画作りで力関係を説明台詞などを使わずにわかりやすく示している。
かつての記号を取り込んだ新しいエフェクトを使い、アニメの歴史に連なりつつ新たな作品を作るという決意表明が行われた。

唐突な次回予告

アバン序盤とおまけでエフェクトについて語ってきましたがいかがでしょうか?長々と語りましたがなんと本編の尺で言えばわずか1分!しかしちょうど切りが良いので一旦のシメとさせていただきます。

こんなにおまけに本気を出すなんて思ってなかったんだ。

というわけで次回はアバン解説中編。③〜⑦について分析し、皐月様登場までまとめていきます。そして残りの⑧〜⑪を後編とする予定です。あといつか金田伊功については何かしらまとめるぞ。

【1/25追記】
このペースでは書く事が多く記事一本一本が長くなってしまうのでもっと分けます...

ではまた次回お会いしましょう。ご意見ご感想もお待ちしています、ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回↓



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