【シネマで社会勉強】No.11~こんなおジイちゃんになってみたい! 心あたたまるロード・ムービー『ハリーとトント』
【1】
超高齢化社会に向かいつつある日本。お年寄りをめぐるさまざまな問題をニュースなどで聞くたび、つい自分の老後にも不安を感じてしまいます。
先日、政府から定年後の第二の人生の資金として最低でも2000万円が必要というショッキングな発表がありました。
人生の最終ラウンド、お金はもちろん精神的な面でもどのような気持ちで臨めばいいかは大切な問題です。
そんな難問に、ひとつの回答となりそうな作品を今回は紹介しましょう。1974年のポール・マザースキー監督作品『ハリーとトント』です。
同時期にヒットしたスティーブン・スピルバーグ監督『ジョーズ』の陰に隠れ、残念ながらそれほど話題にならなかった作品です。
40年以上も前の映画でなかなか観る機会はないと思いますが、当時の世の中でお年寄りがどんな立場にあったのかが伝わってくる作品です。
【2】
大都会ニューヨークで一人、愛猫のトントと暮らす年老いたハリー。
市の再開発によって住んでいるアパートが取り壊されることになり、住みかを失った彼は息子夫婦の家に同居することになりますが、そこでも気づまりを感じ、みずから出ていきます。
トントと一緒に旅するハリーが、途中さまざまな人に会っては分かれる姿が淡々と描かれるロードムービーです。
映画の全編をとおして伝わってくるのは、ものすごく肯定的な空気。
けして豊かではないけど、ハリーはこれまでの生きかたにじゅうぶん満足しているのでしょう。
常に穏やかさを失わないハリーの態度の裏には深い知性も感じられます。こういう人を老賢者というのかもしれません。ハリーの人生に対する肯定的態度は、ぜひ模範としたいところです。
考え方が柔軟で、どんな人間でも受け入れるハリーの前には、彼の人徳のせいか、さまざまな人物が入れかわり立ちかわり現われます。
なかには法に触れるような人間、社会から虐げられた人間もいるのですが、監督のポール・マザースキーは誰ひとり根っからの悪人には描いていません。
誰とでも分け隔てなくつきあうハリーですが、もちろん時代や社会の変化は無視できず、若い世代の言動に戸惑う場面もでてきます。
世代を越えたコミュニケーションの姿は、同じころテレビで放映された『男たちの旅路』など、一連の山田太一脚本のドラマを連想します。
ニューヨークを出発したハリーの旅はアメリカ大陸の反対側、西海岸で終わります。ラストシーン、海辺にたたずむハリー。穏やかに広がる太平洋が人生のフィナーレのようです。
【3】
考えてみれば若いころは「こんないい大人になってみたい」と思わせる人物が現実の世界にも、フィクションの世界にも大勢いたような気がします。
そんな、人生のモデルにしたい人物が、自分が年をとるにつれてしだいに少なくなっていくように思うのはなぜでしょう。
この先の人生で指標とすべき人物を考えると、どうしても老人しか浮かんできません。体は弱り、見た目も衰えた老人を、将来の自分の姿に重ねたいとはなかなか思えないものですが、この映画のハリーなら将来の姿としてみてもいい気がします。まちがいなく理想のタイプの老人の一人でしょう。
超高齢化社会という言葉を聞くと不安しかありませんが、せめてこの映画のハリーのような老後を送ることを人生の最終目標としたいものです。
(2019/06/28)
written by 塩こーじ
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