見出し画像

イギリス冒険記4

新しい週になった。そろそろ慣れてきたといってもいいのではないかしら。

2週目の学校はChelsea Art&Design Collageというところ、その名の通り南西ロンドン・チェルシーにある。滞在先からすぐのバス停で行けていたセントラル・マーチンズとは違い、15分ほど歩いた先にあるバス停から向かわねばならない。しかしこの道にはリバティがあり、シェイクスピアズ・ヘッドというパブがあり面白かったので、それほど苦痛ではなかった。さすがソーホー。

先週の、ハキハキチャキチャキしたクラスを予想していた身としては、この週のクラスは少し拍子抜けするものだった。案内された席に座っていたのはおばあちゃんが2人、おばさまが2人、彼女らが談笑するそばで心を閉ざしたように暗い表情を浮かべる女の子が1人。ここに同じくらいの女子学生が2人、少し上くらいの女性が1人、遅れてやってきた。これがクラスメートの全貌である。その後やってきた先生は、グレーのカーリーヘアと目力が印象的な初老女性。また一味違った1週間が始まった。


チェルシーカレッジの窓から 古い建物


聞けばおばあちゃんたちはデンマークのグラフィックデザイナー、おばさまはリウマチ科のドクター、学生たちは芸大を探していたり、子ども教育に関心があったりと多彩である。初めおばあちゃんたちに対して抱いてしまった(いわばここは高級なカルチャー教室かな)という思いを密かに改める。自分のこういうところがあまり好きではない。

授業はBook Illustration、絵本を作るというのが最終的なゴールである。私が期待していたのはアナログな作り方で本を作るという経験を得ること、そこから「本の形にとらわれない本を作ること」であった。今までPCでデータを作り、印刷会社に入稿し、同じ形の本ばかり作ってきたので、いろんな工夫のある本を作ってみたいと思ったのだ。それによりもっと本が面白くなればいいと思った。
授業の最終的なゴールが絵本を作ることであるというのはもちろん知っていたし、承知の上で受講したのだけど、結論から言えば思っていたより「絵本」が目標になっていた。
初日からの3.5日の内容は、キャラクターの作り方やそれをより魅力的にする方法、ストーリーの立て方、クロッキー練習など。楽しいが絶妙に手応えのない時間が続く。


もちろん楽しくはあるんだけどね



私は焦り出す。この授業、気軽に受講できるほど安価じゃないんだよな。先週はしんどいながらも何か知らないことを学んだという達成感はあったのだが、今週は何を吸収して帰れるのだろう。そんな時に限って母から「授業はどう?たくさん吸収してきてね」などのLINEが届く。そうだよな…何がなんでも何かを持ち帰らなければという使命感に駆られ始める。

結論から言えば、「何か学んで持ち帰る」というミッションは達成した。ページにギミックがある絵本を作り、その動きがお話の広がりに影響する、みたいなものを作りかけるところまでいって時間切れになった。「あなたこれ完成させなさいね」という先生の声。ええきっと完成させます。
確かになんとなくだけども、アナログの、手を動かして作る冊子制作というものに抵抗がなくなったような気はする。プロトタイプみたいな。これはまあまあ大きい。
単純な作りではない本、インタラクティブな本については考え始めたところだけど、どうにかやっていけたらいいなあ。

もちろんこの週も、放課後クラブは発動していた。というかこの週の方が活発だった。
というのも月曜火曜は、現地に住んでいる友人に(日本で知り合った)、水曜は現地でデザイナーをやっている、自分の教授の先輩に会っていたから。

月曜はその友人とテート・モダンで待ち合わせて鑑賞した後、テムズ川周辺をぶらぶらして屋上庭園に登り、ギリシャ料理を食べた。彼女曰く、イギリス料理というものは明確にはあまりないけど、こういった世界の料理を食べられることがイギリス(というか、ロンドン)らしさであるらしい。特に歴史的にも地理的にも関わりのあるユニークな料理、ギリシャとかインドとかエチオピアとかの料理が「ぽい」そうだ。確かにギリシャ料理とかエチオピア料理って全然馴染みない。


ピタパンで包まれた食べ物 うまい


楽しい人に連れられて歩くロンドンは昨日までとだいぶ違っていた。それまでももちろん楽しかったのだが1人に疲れていた街並みが、一気に息を吹き返す。その街に住む人があれはこれはと教えてくれるロンドンと、私が1人でガイドブックを抱えてみていたロンドンとでは光が当たる場所が違った。

火曜は、月曜のうちに決めていたこと、ライオンキングのミュージカルを見に行く、を実行した。学校が終わってすぐライセウム・シアターに向かう。クラスのおばさまが「ライオンキング行くの、いいわね!」と送り出してくれた。ちなみにネイティブ発音では「ライオン・キング」よりも「ランキング」と聞こえるので、当初???であった。
ロンドンのミュージカルは当日券が余裕で取れる。時間がギリギリになるとそれなりに埋まってくるが、3時間前でも安い席が空いていたりする。ただ横並びではなかったり。この例に漏れず、私たちも離れた席になった。
待ち時間に友人が連れて行ってくれたのは、近くの日本食レストラン「eat Tokyo」。日本人からしても(彼女は母親が日本人のイギリス人)十分美味しい上、そんなに高くないらしい。カツ丼があるよ!と聞いて居ても立ってもいられなくなってきた。「地球の歩き方」にも「疲れてきたら、意地を張らずに日本食を食べてみては?意外とホッとするもの」とあったし。外国で食べる日本食初めてだなあと思いつつ入ると、本当に日本の小料理屋!しかも変にししおどしとか障子があるわけじゃなく、グレーの壁、おばあちゃんちみたいな古時計、テレビに、寿司のカウンター、うどん屋みたいな椅子と机…と、「下町の食堂」という感じ。
ちなみにカツ丼は美味しかった。でもそれ以上に印象に残っているのは「Dragon roll」と呼ばれる豪華巻き、カリフォルニアロールの進化版といったところ。エビの天ぷらとかアボカドとか入っていて新感覚に美味しい。お寿司の概念、といった感じ。ぜひ逆輸入してほしい。


こちらがドラゴンロール

もちろんライオンキングは素晴らしかった。行きの飛行機で原作見ておいて本当に良かった。ところどころアドリブのように挟み込まれるジョークにはついていけなかったけど、概ねわかる。
演出も様々素晴らしかったけど、ネタバレになりそうなので置いておきます。
でも言えるのは、登場人物が全て動物だからといって着ぐるみではないし、チープさも感じない、むしろ人間が演じることを含めて設計されていて、そこに人が入るからこそ動物らしくなるギミックや、それに合わせて動く役者たちの体の動きが独特で唯一の「動物らしさ」を作り上げていた、ということ。動物だからといってふわふわのファーで作られているわけではない、リアルに寄せているわけでもないのにそれらしさを感じるほど磨かれ、この演目は長く演じられてきたのだなと思った。
あと普通に歌の力!というのを感じました。鳥肌!


水曜は学校が終わってから、自分の大学の教授の先輩で、こちらに在住している人を訪ねて電車に乗る。チェルシーからはトータルで1時間弱かかる、ロンドン北東部のクラプトンという駅で降りる。頭の中にはエリック・クラプトンの「change the world」が流れている。不可抗力でしょ。
もらっていた位置情報が働かずうろうろする。周辺住民に聞いてみるも手がかりなし。デザイン事務所のサイトを開き、載っていた番号に電話をかける。どうやら違うところに来ていたらしく、ようやく出会えた。

パワフルな方だと聞いていたがその通りで、2時間半2人でしゃべりっぱなしで過ごした 素敵な室内は自ら設計してリフォームしたらしい。ところどころに見える幾何学形態のペーパークラフトは自身で設計し発売しているらしい。うろうろしているとテーブルの上にチャイ風の紅茶、シナモンロール、ミルク、ブドウが並べられた。ブドウはイタリアのものらしい。「この国では赤いブドウはとれないのよ、日照時間が少なくて」私が日本から持ってきた手土産、茶の菓も並ぶ。素敵な室内でさくっとお茶セットが出てくる生活マジでいいな…茶器はデザインしたものらしい。エエーーーーーッ
いろんなことを話した。これまでの半生、今まで作ってきたもの、最近作っているもの。わたしが受けている授業のこと、研究テーマ、ポートフォリオも見てもらった。

パワフルだった。「ころころ転がっていくような人生」と言っていた。行きたい留学先のコース名に合わせる形で研究テーマを固めたと言うと、そんなものよと言っていた。永住権を持っているらしい。骨を埋めるとも言っていた。
数日後イベントに出るらしく、それがまだ私の滞在している期間と被っていたので、ぜひ伺いますと言って去った。去り際に焼きうどんか作れるセットをもらった。「これで二食はつくれる」と言っていた。なので、私は焼きうどん、それとペーパークラフトのセットを4つ、あとポートフォリオのダメ出し、それと今後のアドバイスをもらって帰ったことになる。

木金は特に誰との用事もなく過ごしていた。もっともこの滞在先での2週間の滞在が終盤になっていたので、収束させていくべく、またこの辺りから本格的になってきた別のフライヤーデザインの作業を進めるべく、といったところ。木曜は初日に買ったコンデジにつけた保証を解約し、保証金を返してもらいに。あと、尽きた食料を買いに。どうしても鶏もも肉が食べたかったのになかったから(胸肉ばっかりなのだ…)仕方なく手羽元を買って肉を削いだ。

金曜も同じことしようと思ってたら、先々日から入居してたアメリカ人の女の子に「ピザを買いに行かないか」と誘われてピザを食べた。一旦靴下を脱いでしまっていたので裸足でドクターマーチンを履いた。心地いいもんじゃないです。
でもドアノックされて外出たらピザに誘われるの、あまりにもアメリカ人すぎないか。そうでなくともこの人は大柄で、原子物理を専攻していて、1人で歌って踊ってるのに。THEすぎる。

ちなみに金曜は1人でリバティのクリームティーを食べに行った。お茶とスコーンで15ポンドするけど。


しっとり系

たまたまその日ジャケットを着ていて、学校からもらった段ボール箱を持っていて、リバティで買った包装紙の筒を入れて運んでいたため、なんだか現地の学生か、クリエイティブ関連のアシスタントっぽくなっていて気分が良かった。

アメリカ人と話して、パッキングを進めた。2週間一緒に過ごした同居人は夜遅くになっても帰ってこなかった。彼氏の家でも行ってるのかもしれない。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?