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LONELY BUTTERFLYの思い出

 僕がまだ若く結婚する前、とある男の先輩と車で出張に出かけてた。
 僕はまだ会社に入ったばかりだったので、社内の人間関係に疎かったのと、その先輩が僕よりちょっと年上で、かつ飲み会にちょいちょい欠席する人だったし、タバコも吸わないので、タバコ部屋会議で会うこともなく、正直よくわからない先輩だった。
 昔はアップルの iPodに色んな音楽を入れて、それをFMトランスミッターで車のFMラジオに飛ばして音楽を聴いていた。
 そのときはちょっとした長距離ドライブだったので、リラックスしたくて iPodから電波を飛ばして音楽を聴いていた。

 そのときどういう訳かレベッカを聞いていた。
 レベッカを聞いていたといっても僕はレベッカをリアルタイムで聞くよりはちょっと年がいってなかったので、昔ラジオで聞いてたのを思い出して、CDを買ってそれを iPodに移していた。
 その中で僕はLONELY BUTTERFLYが好きだった。

 これは多分1986年に早稲田大学の早稲田祭でやったライブの映像だと思う。レベッカはライブでもレコードと同じような感じで声が出るし、何ならライブの方が迫力がある凄いバンドであり、人生はなんかよくわからないけど、こういう音楽の熱狂の中で身を焦がして脳味噌が空っぽになるまでトランスするのがよいらしい。

 そういうのはどうでもよく、その先輩と口数少なに車に乗ってて、僕の iPodからLONELY BUTTERFLYがかかるとその先輩が、俺もレベッカ好きで、この曲が一番好きだ。昔自分の好きな音楽をテープに録音して車で聞いてたりしたもんだとか話し出して、こういう朴念仁みたいな人でもそういうことやるもんだなと思いながら、実をいうと僕も高校生のときは自分の好きな音楽をテープに録音して、学校につく直前に一番好きな曲が終わるように練り上げたカセットテープを毎日通学の道すがらにウォークマンで聞いていた。
 その先輩も同じように、クライマックスの自分の一番好きな曲がかかるタイミングを完全に把握していて、人間はどうも同じようなことをする終生でもあるのかと思ったりした。
 そして、その先輩が言うには当時付き合おうとしてた彼女をドライブに誘ってどこかの夜景の奇麗な橋の一番景色がいい所でLONELY BUTTERFLYがかかるように設定して告白した。そして無事成功したと言った。

 僕は淡々とした口調で話す先輩に違和感を感じながらも、その後その付き合うことになった彼女とどうなったのかきいた。まあどうせ悪い別れ方でもしたんだろうくらいに思っていた。
 そしたら結婚したと答えが返ってきて、面食らった。

 そうですか、ご結婚されてたんですが、今でも奥さんとLONELY BUTTERFLY聞くんですかみたいなことを聞いたら、妻は結構前に病死してもう一緒には聞けないと言われた。

 僕は物凄い地雷を踏んだ。

 ただ、僕はJTC僻地工場ではなんかドン臭いがどちょっとふてぶてしく憎めないキャラで通ってたのと、体育会系の部活にいたので、やらかしたときの振る舞いには慣れてたので、ガチ謝りをした。
 先輩はいいよといいながら、人の命は儚く、自分が気づけなかったことも悔やまれるし、どうしょうもなかった、お前も結婚することがあったら奥さんをくれぐれも大事にしてくれといわれた。

 なんとなく気まずい雰囲気になりそうだったので、折角ここで僕がLONELY BUTTERFLYをかけてたのも何かの縁なので、奥さんのためにもたくさん聞きましょうといって行きの道中の半分くらいはずっとLONELY BUTTERFLYとかレベッカの別の曲をかけて出かけた。
 ちなみに帰りは疲れたので、無音で帰ってきた。


 それから何年かして僕は結婚することになった。
 結婚する前に夏休み中に結婚する予定の女、つまり、今となっては妻、と色んな親戚に挨拶に行っていた。
 何故か僕はある親戚から別の親戚のところにいくときに下道で移動したくなり、当時乗っていたマニュアル車で下道で田舎の黄昏時の川沿いを走っていた。妻は疲れて寝てしまっていたのだが、そのとき何故かまたLONELY BUTTERFLYがかかってきた。

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