
兄弟で1人の女の子を好きになる話(ひと夏のアバンチュール)
夏と言えば海。
海といえば青春。
青春といえばフラれる話ですね。
僕の親友であるヨシアキとそのお兄ちゃん(あだ名はオニオ)が、1人の女性からフラれる話をしようと思います。
兄弟で同じ人好きになるなんてね。
そして、奇遇にもそのフラれる場面にどちらも僕は遭遇するレア体験なので、これは共有しておいたほうがよいであろうと考えたわけです。
大学1年生、体中が生殖器ともいえるような頃の話だ。
親友のヨシアキと僕は同じ寿司屋でアルバイトをしていた。
もともとヨシアキの兄貴(以下オニオ)がバイトしていた寿司屋で、高3の冬から2人はバイトを始めた。
その寿司屋というのはエロイことしか考えていないセクハラ店長のおかげで、かわいい女の子ばかりがバイトで集まる寿司屋だったのだ。
先にバイトを始めたヨシアキから一緒にバイトしようと持ち掛けられたときに、「すげー巨乳と間違いなく処女の美人がいる」といわれて2つ返事で僕も働くことになった。
18歳の僕らには女性経験もなく、20歳のオニオにも女性経験もなかったので、バイト先の選び方はそんな単純なものだった。
次から次へと新しい女の子がバイトで採用され、そのことごとくが可愛いという奇跡的な職場だった。
早速ヨシアキと僕が攻勢をかける。
仲良くなったのはアヤちゃんとエミちゃんという親友コンビ。
親友対親友の2対2でバイトが終わる23時ころからよく集まって遊ぶようになった。
アヤちゃんは自由気ままの奔放タイプ、背が小さくて明るくて、そばかすがおちゃめな子。
エミちゃんは色白でショートカット、骨太なボーイッシュタイプだが、いつもニコニコ元気がある。
実は僕もヨシアキもエミちゃんのことが気になっていたんだ。
親友同士で同じ子を狙うのは嫌だったから、僕は少しヨシアキの様子を見てたんだけどね。
僕らは同い年ということもあり、4人で遊ぶことが多くなった。
そんな中ヨシアキが動いた。
僕がエミちゃんと遊んでる間にアヤちゃんとこっそり仲を深めていて、付き合うことになったらしい。
あれ、エミちゃんのことが好きだったんじゃなかったの?とは思ったがとてもめでたい。
僕もエミちゃんも2人を祝福したもんだ。
しかし、それも長くは続かなかった。
ヨシアキはやっぱりエミちゃんが好きだったんだ。
アヤちゃん不在で僕とエミちゃんとヨシアキで夜の公園で星を見ようと集まっていた。(なんだ、その集まりは?)
なぜかそこでヨシアキはエミちゃんに告白を始めたのだ。(なぜ僕のいる前で??ま、体中が生殖器の時代は仕方がないのだろう。)
「俺、エミちゃんのことが好きだったんだ」
「え、アヤがいるじゃん」
「アヤちゃんも好きだけどエミちゃんも好きなんだよ」
こんな告白あるだろうか?
エミちゃんもまんざらでもなさそうだったけど、親友の恋人から告白されたらどうなるのか僕はぞっとしたけど止まらなかった。
暴走しすぎた彼の末路は悲惨だった。
当然、エミちゃん経由でアヤちゃんに話は聞き渡る。
自分と付き合ってるのに親友に告白したらそりゃ怒る。
見るも無残にヨシアキは2人から嫌われ、その他女子からも迫害を受けることになった。
僕もヨシアキをかばいかった。ただ2人を好きになっただけじゃないか、一夫多妻の国であれば普通じゃないかと。
ただ残念ながらここは日本だ。
ヨシアキは寂しくバイトをやめることになった。
そんなヨシアキのことが僕は大好きだ。
あいつは悪くない、漢の中の漢だと今も思っている。
弟がフラれた後登場するのがヨシアキの兄(オニオ)だ。
遊ぶメンバーは僕とオニオとアヤちゃんとエミちゃんに移り変わった。
オニオはドライブが好きだったので、僕らを連れてよく海へ連れて行ってくれた。
車で海に行くなんて大人の遊びじゃん。
まだ18歳で免許取ったばかりの僕らにはオニオは少し大人に見えたもんだ。
季節は夏になり朝から海に行こうと決めて、僕ら4人は水着を持って海に行った。
友達の水着ほどまぶしいものはないと思い知らされた瞬間だった。
骨太のエミちゃんは頑なにTシャツを脱がなかったが、僕らの脈拍はずっと上がっていた。
ビーチボールやバナナボート、男女4人で遊ぶ海。ここから恋が始まらないわけがない。
僕は解放されたエミちゃんを完全に好きになっていた。(これは奥さんには内緒ね)
んで、やっぱり知らぬ間にオニオがアヤちゃんに告ってるわけですよ。
夏の魔法の力なのかアヤちゃんの魔性の力なのか、兄弟二人が揃って同じ女の子のことを好きになるという、珍しいことが起こっていたのだ。
しかし、アヤちゃんは秋から半年間フランスへの留学が控えていた。
それもあってか「私にとってはお兄ちゃんだよぅ、今は付き合えない」と答えたらしい。
オニオは「今は」の言葉に希望を持ち、「俺はアヤちゃんが帰ってくるまで待ってるから」と気持ちを伝えたようだ。
オニオから又聞きする中では、可能性はまだまだ残っていてここからスタートであるという意気込みが伝わってくる。
しかし、どうなんだろう?
「私にとってはお兄ちゃんだ」は、恋愛対象とは思えないじゃないのだろうか。
とにかく、僕はオニオを応援していたし、僕はエミちゃんのことが好きだった。
しかしだ、アヤちゃん不在の最中エミちゃんは新しくバイトに入ってきた男と遊ぶようになっていた。
アヤちゃんがいなくなって交友の幅が広がりだしている。
僕も僕で新しい女の子とも遊ぶようになっていた、彼女もできた。(ん?エミちゃんは?)
彼女も好きだけどエミちゃんも好きという気持ちにウソ偽りはない。
カレーも好きだし、ラーメンも好きだ、それでいいじゃないか。
そんなこんなで爽やかな時間が過ぎていく中、いよいよアヤちゃんが帰ってくることになった。
オニオは何度か、心を込めた手紙をアヤちゃんに送っていたらしい。
オニオの熱はまったく冷めておらず、むしろ煮えたぎっている。
時間や距離の制約ほど気持ちが燃えることはないだろう。
いよいよアヤちゃんが戻ってくることになった。
僕とオニオとエミちゃんの3人は、アヤちゃんが帰ってくる成田まで車で迎えに行くことにした。
ここからまた4人の青春が始まる。
僕らはそう思って、アヤちゃんを迎えに行くことにした。
今回は僕の運転で実家のハイエース、よく晴れていて暑い日だった。
成田空港につきアヤちゃんを乗せる。
みんなの歓迎ムード、またあの時の4人が戻ってきた。
青春とともに海に行こう、僕らはそんな世界を夢見ていた。
誰ともなくアヤちゃんに声をかける。
「フランスはどうだった?」
このとき、驚愕の言葉が社内を駆け巡る。
「ミゲールやばかったよ。ひと夏のアバンチュールだったよ。」
「!?」
・・・・・・
明るく楽しそうに話しだすアヤちゃんの言葉、助手席に座っているオニオの空気が明らかに変わっている。
半年間一途に待ち続けたオニオ。
その心を僕もエミちゃんも知っている。
話し始めたアヤちゃんは止まらない。
凍り付く車内、この雰囲気の変化にアヤちゃんはまだ鈍感だ。
僕は目の前しか見えない、運転しているから。隣のオニオを見ることはできない、怖すぎるから。
もう夏だというのになぜこんなに冷たい空気が流れるのだろう。
あまりにも反応の薄いみんなにアヤちゃんもようやく反応し始める。
・・・・沈黙が流れる。
都内で高速を降りるまで、こんなに長い時間があったのだろうか。
僕は窓を開けてタバコを吸い始めた。
空気を入れ替えよう、助手席の窓も開ける。
国道20号の車道真ん中を走る自転車、邪魔だなと追い越す。
その瞬間
「おい!!邪魔だよ!!」
オニオが自転車を怒鳴りつけた。
「やめとけよ」と諫めるが気持ちがわかるだけにそれ以上何も言えない。
信号が赤になり停車する。
沈黙の車内
・・・
ぶーーっ!
突然、僕の顔に水がかかる。
さっき怒鳴られた自転車だ。
信号待ちの間に追いついて、僕に毒霧をかけてきた。(僕は何もしてないのに・・・)
「追いかけて殺せぇぇえ!」
オニオが叫ぶ。
「もぅ、いいよ」
僕は失意の中、車を走らせる。
その日のことはそれ以降もう覚えていない。
いつの間にか2人はバイトをやめ、連絡を取らなくなっていた。
夏が来るといつも思い出す。
青春の1ページ。
ひと夏のアバンチュール。
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