高級卵かけご飯は旨いに決まっている
高級だから旨い。
ちょっとみんなそう考えてやしないだろうか?
そう思わなきゃやってられない、おいしいに決まってる。
高級であるという事前情報があなたの脳に魔法をかけているのかもしれない。
格付け番組で見たことがあるであろう。
100グラム10,000円の肉、100グラム100円の肉。ほとんどの人が違いがわからない。
値段はおいしいから高いのではなく、数が少ないから高いもある。
ダイヤモンドはきれいだから高いのではなく、取れる数が少ないから高いのである。
その辺の石ころと同じようにダイヤモンドが拾えるならば、そこに価値はない。
値段は希少価値で決まる。
これを知らないと高級食材を食べて、ものすごくおいしいわけでもないのにめちゃくちゃうまいとオーバーなリアクションをとってしまうことがある。
君もテレビの食リポの見すぎかもしれないね。
安心してほしい、僕も同じだから。
「高遠そば」という食べ物を知っているだろうか。
福島県は大内宿の名物そばである。
大内宿は茅葺屋根が立ち並ぶ宿場町の街並みを維持している観光地である。
高遠そばがなぜ名物であるか、知っている方も多いかもしれないが、ネギを箸代わりにして食べるのが特徴だ。
そばと一緒にネギもかじる。ネギの辛味と風味のよいそばが忘れられない思い出となる。
その絵面を何らかのテレビでみたのだろう。
妻のお母さんが行ってみたいということで、僕の家族全員と一緒に大内宿まで日帰りで行くことにした。
僕の家は東京、お義母さんは埼玉。早朝から出発しても3時間以上はかかる。混みそうだったのでみんなをたたき起こして、早朝から出発した。
大内宿はなかなか辺鄙なところにある。高速を降りてからも1時間弱は走らないといけない。
一本道の下道を山に向かって走っていく。会津と日光を結ぶ宿場町。これはなかなか遠い。
お義母さんを連れてのちょっとした小旅行。茶目っ気たっぷりのお義母さんはいつもかわいい。
お義父さんがマイペースなのかあまり出かけないので、僕らとのこんなお出かけが楽しそうで、見ている僕もうれしくなる。
下道を走り続けてもうすぐというところで渋滞が始まる。これはもう間違いなく大内宿渋滞であろう。
入口は一つしかない。上り下り合わせての大渋滞だ。
早朝に出て10時前にこの状態なら、昼間際を目指した人たちはたどり着けないかもしれない。
どうにかこうにか駐車場に入れて、やっとスタートラインだ。
サンサンと日が照りつける夏日、茅葺屋根が両サイドに立ち並ぶ。広い一本道の両側に立ち並ぶ茅葺屋根の家並み。
タイムスリップしたかのような感覚、悪くない。
道は少しずつ傾斜になっていて一本道を登るよう格好だ。まだ時間が早いせいか下ってきている人は少ない。
ここで、目指していた高遠そばの店を見つけた。すでに大分混雑している。
本来なら一通り散歩してから食事としたかったが、あとになったら食べるのに1時間待ちではきかないかもしれない。
ちょっと早いがお店に入ることにした。5分ほど待てば入店できるそうだ。
茅葺屋根の建物がそのままお店になっていて、奥の座敷に通される。
広い座敷で開放感があり、いとおかしと言いたくなるような風流を感じる。少し歩いただけなのに汗ばんだ僕らの体もほっと一休みする。
周りを見渡すとやはりみんなネギでそばを食べている。スティーブ・ジョブズもびっくりのアイデアだ。これを食べるしかない。
メニューを開く。大人はネギそば、子どもたちはネギをかじれるわけもなくけんちんそばなどを選ぶ。
ここで一つ目についた。超高級烏骨鶏卵かけご飯550円。
卵かけごはんオンリーでこれはなかなかである。
牛丼屋を考えてみてほしい。牛丼大盛と卵でもこんなにしない。
そもそも普通の卵でいったら一つ20円もしないだろう。とすると普通の卵の10倍以上の値段である。
どれほど味が違うのか試してみたくなり、超高級烏骨鶏卵かけご飯も注文した。
まず、高遠そば、ネギーーーーー!!
これはもう本当にインパクトがある。おいしいかおいしくないかはどうでもよくて、このインパクトだけで食べる価値がある。
食事とは思い出である。おいしかったことも思い出だが、おいしかった味は記憶の中で薄れていく。
しかし、体験の記憶は薄れない。あのときのネギーーーーー!!と思った感覚は今でも思い出せる。
では、さっそくネギでそばを・・・すくいずらい(笑)
箸じゃないからね、ネギだからね。
そりゃ食いにくいわけですよ。それでもそばを絡めて、ネギと一緒にかじる。
ネギ強め!
そりゃネギだから、シャキッと生でネギ食うことなんかなかなかない。
新鮮でおいしいネギを生でかぶりついて「甘いですね」なんてコメントしたかったけど、そりゃネギだ。
実際にそばは香りがよくて歯ごたえ、のど越しがすっきりしている。辛みのあるネギとは相性抜群だ。
実際においしいし、ネギでそばを食べるという体験は買う価値があるなぁと感じたのだった。
そして、待ちに待った超高級烏骨鶏卵かけご飯。
普通の卵とどう違うんだ?
ご飯の上にはかつおぶしと卵と醤油。黄身はハリがあってそう簡単には崩れないぞという面構え。
これは、ぼくと卵かけご飯の一本勝負だ。
黄身をほどいてまずは卵だけを一口。
家族も僕に注目する。
「旨い!」
そりゃ卵は旨い、間違いなく旨い。
米と混ぜて食らう、しょうゆをかけて食らう、そりゃ旨い。
卵かけご飯だもん。絶対的に旨いに決まっている。
で、ここで思うんだな。
【ちょっと俺、高級だから旨いって思い込んでやしないだろうか?】
もしかしたら、この環境で食べたらスーパーで売っている卵を食べてもわからないだろう。
必ず旨いと思うし、旨いと言うだろう。結局高級であるということが自分に旨いと思わせているのではなかろうか。
と、美味しい卵を食べながら思うのであった。
少しずつみんなにも食べてもらって、みんな一様においしかったようだ。
卵かけご飯は絶対的においしい、どの卵かけご飯を食べても間違いない。
違い?
そんなことよりも体験がおいしくさせていて、記憶に残っているんだ。そんなことは気にしなくいい。
本当においしかった。
食事は味だけはないとつくづく感じる体験だった。家で卵かけご飯をたべていても、記憶には残っていない。
高級食材を食べたということが、美味しさを7割増しにしているのだ。これは脳のとても便利な機能だね。
どんどん有効活用していこう。
ところで、この脳の便利機能が壊れている会社の同僚がいて、最後に紹介したい。
僕は行っていないんだけど、同僚たち5、6人で去年旅行に行ったらしい。その思い出話は何度聞いても楽しい。
2年目社員のW君はいじられキャラで、脳の回路が少し飛んでいる。
せっかくの旅行だからちょっといいものを食べようと色々なお店に行ったのだが、ことごとく食リポがめちゃくちゃなのだ。
どうやら高いウナギを食べたらしい。会社の同僚との旅行、高級ウナギ店。5,000円以上のうな重を頼んでみんなで食べる。
それはもう体験としてどうやったって旨いはずだ。みんな「旨いな、おいしいな」と食べていたらしい。
共感しながら食べていたW君も、感想を聞かれてこう答えたそうだ。
「まじでうまいっす。家の近所にある1,500円くらいのウナギ屋と同じくらいうまいっす」
「!?」ってみんななるじゃないですか。
「いや、そこのウナギ屋は本当にうまいんですよ!」って何の弁明かわからない。
1人10,000円くらいするステーキも食べたらしい。
そりゃ体験として、どんなステーキだっておいしいに決まってる。
それを食べたW君の感想は、「マジでうまいっす!油食ってるみたいです」だ。
確かに霜降りの肉は肉汁が染み出る。
散々周りからツッコまれてもなお「いや、油が旨いんです、でもどこで食っても肉は旨いです」と答えていたらしい。
高級は旨いに決まっている説が崩壊した瞬間であった。
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