本物と偽物。
これは、私が高校3年生の冬の話。
当時、同級生の紹介で、
違う夜間高校に通っている人と、
お付き合いする事になった。
その子は、昼間に喫茶店で働いていた。
とても、気さくでいつも笑顔が眩しかった。
何もなく、順調に交際は続いていた。
なかなか、休みが合わず、会う回数も、
少ないが、それでも私は繋がっていると、
思ってて、少しの時間でも会える時間を、
作り、会いに行っては、愛を確かめ合った。
そう…その時は、突然に訪れた。
会いたくて、仕方なくなったので、
働いていた喫茶店へサプライズ目当てで、
行ったのに、いない。
マスターが、言うには、
あーあの子ダメだわ。
無断欠勤が増えて、もう辞めてもらったよ。
それを聞き私は、わけがわからなかった。
そんな話、聞いてなかったし、
もし辞めてるのなら、もっと会えたのに…。
こんな時って、変な胸騒ぎってあるんだな。
すぐに、その子の家に行くと、
まさしく、浮気現場と遭遇してしまった。
ノックぐらいすれば良かった。
そうすれば、あんな場面見なくて良かった。
決定的な、
あられもない姿の二人が絡み合っていたのだ。
そこで、その子は、
私に向かって怒って、怒鳴ってきたのだ。
確かに、勝手に部屋に入ったのは悪かった。
だが、その子が、
私ではなく、相手を庇ったのが引っかかった。
本当に私を大切に思ってたら、
とっさに、これは違う!と言うのではないか?
怒られるって事は…つまり、
私が浮気相手だったと言う事?
こういう時って、意外に冷静になるものだ。
てっきり、こんな場面に遭遇したら、
頭に血がのぼり、相手を殴ると思ってた。
いや、怒られたから、冷静になれたんだな。
いや、これは違う!と言われたら、
じゃぁ、どーゆー事だよ!となるもんだ。
私は、そのまま、
悪かった…と言うと家に帰っていた。
そっか…オレよりアイツなんだな…。
そりゃ、そうだ…全然会えてなかったし、
都合よく付き合わされていたのだ。
なんか、変だけど…あの二人…大丈夫か?
オレが突撃しちゃったもんな…。
しばらくすると、その子から、
連絡があり、意外な発言を聞いた。
しんさくもあの人も両方、大切。
だから、このままの関係じゃダメ?
私は、返事に困った。
確かに、好きな気持ちはある。
でも、どっちつかずの回答に、素直に、
わかった、いいよ。なんて言えない。
両方、本命って事?
そんな事ありうるのか?
ってか、都合良すぎじゃない?
オレ…そこまでバカではない。
なんだろう…好きな気持ちが冷めていくのが、
こんなに、はっきりと一瞬でなるものなんだ。
その子に、
いやいや、相手に悪いから、
オレは身をひくよ、ありがとな。
その代わり、今度からこんな真似すんな。
そう言うと、
その子が何か言ってたが、
何も聞かずにバカバカしくなって、
これ以上、惨めな思いはしたくない。
走って、走って、全速力で駆け抜けた。
走って、忘れたいのに、
あの光景やその子の怒った顔が、
次から次へと走馬灯の様に浮かんできた。
なんだ、この胸のモヤモヤは…。
そのまま、夜間学校に行った。
違う高校で良かった…危なかったぜ。
考えても、しょうがないのに悩んでた。
そっか…ショックだったんだ…。
冷静になってたつもりが、
ただショックで、落ち込んでいただけなのだ。
その子が相手を庇った瞬間、
それがショックだったのだ。
その子は、何も考えなくとっさにとった行動。
それこそが、答えなのだ。
アイツが本物で、オレは偽物。
その偽物の恋愛を私は勘違いして、
うまくいっていると錯覚していたのだ。
私はひねくれ者の不器用な人間なのだ。
すぐに、人付き合いを拗らせては、
自己嫌悪に陥るのだ。
言い方を悪く言えば、騙されていた。
本物だと思っていたモノが偽物だったのだ。
勝ち負けの問題ではない、
その子にとっての私は偽物の恋愛なだけ。
あの、楽しかった思い出は全部…偽物。
知らなかったのは、私だけ。
その子を紹介してくれた、同級生から、
話があると、呼び出された。
まー、都合よく真実を捻じ曲げて、
私をいかにも悪者に仕立て上げられた。
それで、気が済むのなら、それでいい。
同級生にも、悪態つけられたが、
全面的に私が悪い、すまんと謝った。
もう…傷つくのは、俺だけで充分だ。
別に、責めるつもりもなかったし、
その同級生に告げ口を言うつもりもなかった。
その子の事を心配していただけなのに。
自己防衛したかったんだよな。
オレを悪者にして、自分は被害者だと。
あーオレ信頼されてなかったんだな…。
さすが、オレは偽物なだけあるな。
オレの事なんて、何にも知らないんだ。
偽物だからって、雑に扱われたもんだな…。
ややしばらく、人間不信にはなった。
自分では、気づかずに人を傷付ける。
そう思い込んで、ふさぎ込んだ。
偽物の自分を、偽り接する事しか、
私には、できなかったのだ。
はぁ…人付き合いって、本当に難しい。
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