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海外観光客向け〈オルタナティヴ・ニッポン〉都道府県観光ガイド(第十四回)

「世界の皆さんこんにちは。私はニッポン在住の旅行ライター、日比野 心労です……か。心労くんも板についてきたものだわね。」
そう呟くとあたしの目の前で電車を待つ姿勢の良いマダムは、高そうな腕時計をチラリと見ながら軽いため息をついた。吐く息が白い。冬の赤森県は寒さが厳しい。それが晴天の早朝ともなれば尚更だ。
「アイツのこと、昔からご存知なんですか。」
あたしは170cmある自分の身長と同じ目線のマダムを横目で見ながら、かじかむ手を擦った。ふん、と自嘲気味に口元だけで笑った彼女は言う。「彼は私が昔に担当したライターでね。色々苦労はしたけどほっとけない人だったわ。」そうして、懐かしいものでも思い出すような遠い目をしてから、急に険しい顔でこう言った。「それだけに、今回の件は見捨てておけなくてね。」

彼女は佐々木ヒロノ。心労が記事を書いているネットサイトを運営する会社の親会社……とある出版社の取締役兼旅行雑誌の編集長だ。つまりは心労の原稿料の元を辿っていけばこの女性に突き当たるわけ。心労とは古い付き合いらしく、一時期は別の業界に身を置いたそうだが彼との交流は続いていて、公私共にサポートしてくれたこともあるそうだ。
今回、佐々木さんに心労が行方不明になった一報を入れたのも、彼のメールボックスにいちばん頻繁に出てくる名前が彼女だったからだ。しかも助力と助言を頼んだところ、「情けないわね。貴女それでも彼のパートナーなの?」という開口一番辛辣な電話を貰った縁(?)もあり、半ば押しかけ助っ人のような形で彼女が赤森県行きを手配してくれた。ありがたいやら情けないやら。
レディーススーツに身を包んだ品のいい初老のマダム、といった感じの彼女は、あたしから見ても綺麗な人だった。スーツケース片手にあたしのマンションの玄関を叩いた彼女の一声は今でもよく覚えている。『貴女も【ほっとけない人】みたいね。私たちは同類だわ。これから宜しくね?』。

第十四回 赤森県[あかもりけん](観光難易度:1【易しい】)

・赤森県とイタコとは

事前にロンドンへ留学中の真道が調べていてくれた、赤森県に関する情報をここに記しておく。贔屓目に見てもあの子は良い子だ。心労が行方不明と知らせた瞬間こそ軽く動揺したみたいだが、すぐにあたしの事を励ましてくれて、今後の見通しを予想立ててくれた。来れないのが残念そうだったが、それでもあたしたちの息子だ。遠くの空から応援してる、と語った声は力強かった。

赤森県とは、東北自治区六県の最北端に位置する県である。六県の中でも比較的中央政府に恭順しているこの県は、ニッポンにおいて自然を堪能できる観光地として、国内外からの観光客の評価も高い。
世界遺産認定された白仏山地、清冽な水を湛える百和田湖。長期滞在の外国人観光客やネイチャーアクティビティストから絶大に支持されるそれらは春夏秋冬美しい姿を見せ、訪れる人たちを魅了する。
しかし、赤森県の真の重要性はそこでは無い。「イタコ」と呼ばれる変形シャーマニズムを信奉する宗教集団、それが赤森県を神秘の県たらしめる最も大きな要素である。
イタコ、とは、日本国の(かつて存在した)それとは趣が異なる。日本のイタコは故人の魂を口寄せしていたが、その行為は現代ニッポンのAWA県で提供されるサービスに取って代わられてしまい、日本イタコの系譜は途絶えてしまった。それに対してニッポンのイタコは「生者の魂を呼び寄せる」、所謂「生霊」を別人格に憑依させる行為を生業とする。
イタコは依頼者より任意の個人の情報を得て、その対象の魂を自らの身体に降ろす。その人格は元の人物の人格・記憶とほぼ同位であり、依頼者はその時に交わされる会話の記憶を元の人物の記憶に上書きするかどうかを選択できる。
これは過去、遠隔地にいる血縁者や交易相手と連絡を取る手段として細々と続いてきた宗教行為であったが、歴史が進むにつれ、戦時の通信手段、諜報、そして近年はリスクの少ない産業スパイの手段として用いられることも多く、イタコは、世界の情報戦において今やその勢力は無視できない力を持つ集団である。

そしてその集団のトップに立つ人物、それがイタコの伊太郎だ。

・イタコ集団の本拠地「笑山」へ

電車から降り、あたし達ふたりはイタコの集う山、「笑山(わらいざん)」の麓にある宿泊施設に到着した。
笑山とは最高標高787mの鍋臥山を中心としたなだらかな山々の総称で、いずれも火山で構成されている。イタコはこの山のあちこちに拠点を築き、その活動に従事しているそうなんだけど……
「ここ、本当に宗教施設なんですか?」
あたしは、スーツケースを片手に高層ビルのエレベーターから下界を眺めた。そこはGAFAのデータセンターもかくやというレベルのセキュリティに守られた建物で、厳しいセキュリティチェックの末にあたし達は割り当てられた一室に荷物を置いた。
「さすがイタコの本拠地だわ。この部屋も電磁シールドされてて外部との通信は一切できないみたいね。」
スマホをあちこちにかざしながら佐々木さんは言った。あたしも気になって自分のスマホを取り出す。すると電波どころか電源自体が強制的にシャットダウンされていた。ノートパッド、スマートウォッチなんかも同様だ。
「情報では聞いてましたけどここ迄とは……」
「ふん。少しは予習してきたみたいね。まあ良いわ。早速、伊太郎への面会手続きを済ませてしまいましょう。」

生体登録、DNA認証、指紋声紋更にはパスワード代わりの初恋の人の名前登録まで、様々な事前手続きを終えてあたし達は面会控え室に通された。そこには他に数名の男女が所在無げに待っていたが、いずれも危険そうな雰囲気を漂わせていて、この場がどういった場なのかを想像させる。
「本日の面会受付は以上の方々になります。順番はランダムでお呼びしますので、どなた様もご承知ください。」
修験者のような礼服に身を包んだ案内役の女性が静かにそう告げると、最初のひと組が呼ばれ、両開きの重厚な扉の奥に消えていった。扉の中は闇だ。様子を窺い知る事はできない。
「……見たかい。最初のひと組は日本の内調の参事官と公安のエージェントだ。いま、国内のテロ組織を追っている最中にココに来るとはね。さしずめ、組織トップの魂でも降ろしに来たか……」
独り言のように前を見据えたまま、かすかに聴こえる小声で佐々木さんはあたしに話しかけてきた。
「『生き霊を降ろす』とは聞いていましたけど、ホントにできるんですか?」
「出来るから国家公務員がやって来るんだろうよ。ホラ、向こうに座ってるのはロシアのSVR(対外情報庁)のミハイル・コズイレフ。その後ろは中国テンセントの対外情報機関の役員たちだな。この前パーティーで名刺交換した。アッチは覚えていないだろうけどね。」
あたしは佐々木さんの人脈と記憶力に舌を巻いた。この人は本当に雑誌の編集者なんだろうか。
「大方、あまり人には言えないような人間の魂を呼び寄せて機密情報を手に入れる魂胆らしいけど、そういった場合はかかる費用も莫大らしいわね。国家・大企業レベルの案件は生臭くて嫌ね。」
相変わらず正面を見ながら語る彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに再び扉が開き、案内役の女性があたし達の前に歩み寄ってきた。
「お待たせしました。次はこちらのお二人の番だそうです。お静かに、扉の中へお進みください。」
控え室の視線があたし達に集まるのを意に介さず、佐々木さんはスッと立ち上がり扉へ向かう。あたしも、慌ててその後を追った。

・イタコの伊太郎

暗闇の中微かに灯されたLEDライトの目印を頼りに手探りで歩いたあたし達は、小さな和室に通された。後で聞くところによると、毎回その目印は位置が代わり、この部屋の位置を把握できないようになっているそうだ。
敷かれた座布団に座り、6畳ほどの広さの和室を見回す。家具調度品は一切無く、塗り壁の正面にある小窓と障子戸の他は殺風景な部屋である。ここが世界の裏社会で名を馳せるイタコの本拠地の最深部だとはとても想像が出来ない。
「伊太郎様はまもなくおいでになります。少しお待ちください。」
後をついて来た案内役の女性は、あたし達が入ってきた襖の奥に引き下がった。佐々木さんとあたしは、無音の和室の中で無言で待つ。一分、二分……五分、
「大変お待たせしました。イタコの伊太郎です。」
障子戸が引かれ、イタコのトップ、伊太郎が姿を現す。
その姿を見てあたしはうめき声を上げた。
「顔が……ふたつ?いや、いくつ顔があるの……?」
座布団から見上げた彼?彼女?の顔面は、奇妙に揺らいで安定しない形状をしていた。そう、例えるなら、ひとりの人間の顔がシームレスに別人に変わる特殊効果の映像を早回しで見ているような。しかもそれが性別、人種、年齢……全てがごちゃ混ぜのランダムな姿で変化しており、ひとつに留まることがない。
頭髪を綺麗に剃り上げている事もあって、伊太郎の顔はより一層「誰」なのかは判別できない。気をつけてみると、身に纏った神職風な衣服の上からでも、体型が微妙に変化し続けているのがわかる。太く、細く、骨格が男性的になったり急に胸の膨らみが出てきたり、背筋が伸びたかと思ったら腰が曲がり……
「はは、やはり驚かれますか。無理もありません。これが我々イタコの宿命みたいなものですから。」
声のトーンや高低も、ひと言ごとに変化しながら喋る伊太郎は、衣服の裾を払うとあたし達の正面に敷かれた座布団の上に胡座をかいて座った。「はじめまして、イタコの伊太郎です。」

『伊太郎』という名は、代々襲名されるものだそうだ。彼(?)は十六代目の伊太郎で、襲名を受けてから三十数年間、イタコのトップとして、笑山に集うイタコたちをまとめ上げてきた。
生き霊の魂を降ろす、という代償に、降ろした魂のコピーは削除できないという代償を背負っている、と伊太郎は語る。歴代のイタコの中でも最も多くの魂を降ろした十六代イタコの彼は、今まで六万人以上の魂をその身に宿してきた。それだけに、もはや彼は自身の元の姿を肉眼で見たことはない。覚えているのは、古い写真の中で複雑な笑みを浮かべる見知らぬ顔の青年だけだ。
「それも、自らが望んだ事ではあるのですがね。」
そう言うと、伊太郎は悲しそうに笑った(ように見えた)。
「今回お願いにあがったのは、自我県のB1湖で行方不明になったあたしのパートナー、日比野心労を探して救い出したい為なんです。普段のやり方とは違うのは承知していますが、他に手段もなく、伊太郎さんだったらその術をご存知と聞いて伺いました。どうか、力を貸してください……。」
伊太郎の表情は窺い知れない。優しく微笑んでいるようで、悲しみに満ちた顔でもある。かと思えば、気が抜けたような無表情でもあれば、憤怒に満ちた怒りの雰囲気を湛えていもする。
「人助け、ですか。何年振りだろう、こういった依頼は。」
ふと、彼が遠い目をしたような気がした。しばしの沈黙に、佐々木さんが口を開く。
「不躾な質問ですがお許しを。行方不明者の魂がまだ生きているものとして、肉体の再構築が不可能だった場合、貴方ならどうやってその個人を救出できるとお思いですか?」
「……単なる行方不明者で生存の可能性がない場合なら、敢えて個人が死亡するまで待ち、AWA県でクラウド招魂サービスでも使うという選択肢もあるのですが。自我県で、ですね?そうなると、魂が『死ぬ』可能性は無い。まあ、B 1湖が一滴残らず蒸発でもしない限りはね。」
さらっと恐ろしいことを言う。伊太郎は懐手をしながら考え込む。
「打つ手はあるのですよ。私が出来る手段としてひとつだけ。ただし、それを成すにはひとつだけ条件があります。」
「金か?だったら話が早い。日比野がウチで書いていた原稿料を投資に回してできていた資産があるわ。本人の了解は得てはいないが……まあイイわ。それを使います。」
佐々木さんもさらっと恐ろしいことを言う。しかし、彼女の言葉に伊太郎は首を横に振った。
「いえ、違うのです。金額の多寡ではないのです。条件はたったひとつ、私を連れてここから逃げてください。」
突然の申し出にあたしはキョトンとする。佐々木さんの顔を窺う。どうやら彼女は動じてはいない。
「……でしょうね。何万人もの魂をコピーしといて、唯一の自我が無事なわけが無いわ。己の身体も保てないような人間に、これ以上の降霊なんて望める筈も無いわね。」
「ご存知だったんですか。」伊太郎が静かに訊ねる。
「というか、コレは日比野の件とは別件で依頼があったのよ。以前、ウチの記事でイタコを扱ったとき、貴方が生まれてすぐ引き離された親御さんが、その記事を読んで『あの子を解放してください』って泣きついてきたの。イタコの特性の有無によって、赤森県で生まれた幼児を半ば拉致同然に教団に招き入れるシステムは正直なところ褒められたものじゃ無いわ。ジャーナリズムとして信教の自由は尊重したいけど、一個の人間としての貴方には以前から興味があってね。ちょっと逆拉致しようと思ったのよ。」
佐々木さんは良いことを言っているようでやはりさらっと恐ろしいことを言う。
「では、交渉成立ですね。さて、それはそうとして、どのようにして私をここから連れ出せるのですか?入り口は我々のセキュリティが固めており、電子機器の類は一切使用できません。来られる時にもボディチェックされたと思いますが、武器なども持ち込みは禁止されて……」
諦め顔(?)のような表情を浮かべ、伊太郎はため息混じりにそう呟く。だけど、佐々木さんは自信たっぷりにこう言った。
「極めてアナログに行くわ。反撃の狼煙を上げるのよ。」

・脱出と降霊

立ち上がった佐々木さんは、口を開けて中に指を突っ込む。しばらく何か動かした後でその指に摘まれていたのは「奥歯」だった。
「さて田島さん。あなた、入ってきた襖を見張っていなさい。これから少々荒事になるわよ。」
そして、ポケットから皮の手袋を取り出し手に嵌めると、正面の小窓へ向かって歩き出す。「え、ちょっと待ってください何を」あたしは腰を浮かせて動揺する。
と、佐々木さんの握った拳が大きく振りかぶられ小窓のガラスに向かって叩きつけられた。派手な音を響かせ割れるガラス、飛び散る欠片。
あたしは慌てて入り口の襖に駆け寄る。まだ、人の気配はしない。警報音なんかも聞こえない。あっけに取られた伊太郎を横目に、佐々木さんは取り出した奥歯についていた糸を引っ張り何かを作動させる。しゅうしゅうという音の後で、赤い煙が奥歯(?)から勢い良く出てきた。
「頼むわよ、澤野氏!」
そう叫ぶと佐々木さんは煙玉を小窓の外に放り投げる。軽い破裂音を上げながらさらに勢い良く煙を吐き出したそれは、空中で加速してロケット花火のように空高く舞い上がった。
「狼煙、よ。分かったでしょう?」
佐々木さんが片目を瞑ると同時に警報音が鳴り響いた。

「佐々木さん!こっちはもう無理です!!」
片開きの襖を押さえる手が限界だ。見た目に反して堅牢な素材と構造で作られているらしい襖は、セキュリティの体当たりに耐え続けているが、それもそろそろ限界である。
「しっかりなさい!こっちはあと少しよ!」
ヘリからのラペリングで伊太郎の身体を結わえ付けた佐々木さんは、小窓側の壁を爆薬でぶち抜いて飛び込んできた五十代らしき男性に何か指示している。既にこの事態を想定して赤森県に来ていたとは、全く彼女の底が知れない。
「いよいよ鉄火場だな!地獄の釜の蓋を開けやがったんなら、多少の火傷は覚悟出来てんだろ!?」
「相変わらず大堅弁をってのは慣れないわね……澤野氏!おしゃべりしてる暇があったら彼をすぐ引き上げなさい!」
「手厳しいな佐々木の女将は!チエちゃん!引き上げ開始だ!」
澤野と呼ばれた男性は、ハンドサインでロープ上の女性に合図を送る。メット越しに頷いた彼女は、伊太郎を抱き抱えて固定し、上昇態勢に入った。澤野氏がそれに続いて器具を固定する。
「嬢ちゃんもこっちに来な!いま煙幕を張るからよ!」
限界を迎えた襖から身を離し彼の元へ駆け寄る。と、入れ違いに円筒形のものがあたしの頭を飛び超えて、バリバリと破れた襖に投げ込まれた。閃光、破裂音、白煙。怒号と悲鳴を後にしてあたしと佐々木さんは澤野氏が取り付けたハーネスにしがみつき、煙の立ち込める高層ビルの外壁を離れた。目も眩むような高さを懸命に無視して、上昇気流に乗ったヘリは最大速度でビルを離脱する。眼下に見える笑山の火山の連峰が、次第に遠のいて行った。

「お父ちゃん無理しすぎなの!もう歳なんだから少しは慎重になってよね!」
ぱしん、と湿布を腰に貼り、澤野氏の娘、チエは頬を膨らませた。
「へへ、すまねぇなチエちゃん。んで、ここならもう大丈夫なんだろうな?」
ここは赤森県の景勝地、百和田湖のほとりにある駐車場。冬を迎えて人気も無い駐車場は雪で覆われ、晴天の下の照り返しが目に飛び込んでくる。
「もう大丈夫でしょう。教団も、直ぐに別のイタコを伊太郎として立ててしまうに違いありません。所詮はすげ替えの効くトップです。大して時間も経たないうちに、私の存在は無視される事でしょう。」
悲しそうな(?)顔で自嘲気味に笑った伊太郎……いや、元伊太郎は、そう言うとあたし達の方に向き直った。
「さて約束です。日比野心労さん、ですね。皆さんが取り戻したい人は。」
その場の誰もが無言で頷く。それを確認すると、元伊太郎はゆっくりと項垂れた。
「今から日比野さんの魂を私に降ろします。そうすると、肉体も記憶も以前の日比野さんと全く同じ存在となります。そのあと、彼の魂を固定する為、何か強い衝撃を私に与えて下さい。そうすれば、彼は皆さんの元へ帰ることができます。」
「ちょっと待って、そうすると、アンタの自我……魂はどこに行っちゃうの。まさか……」
「ご明察です。私という自我は消え、単一の自我に上書きされます。そうですね……言うなれば、交換のできない身代わりとでもいいますか。」
「自死と同義なのね。そこまでの覚悟なの?」
腕を組みながら佐々木さんが言った。厳しい口調で、彼の眼を見つめながら。
「こうなることはイタコの最終的な……いえ、私の願いでもあります。何万人もの魂を本来の生き方からはみ出させ、秘密を暴き、世の中の暗い部分を増やすために活動してきたイタコ人生でした。せめて、それに報いるには、こうした人助けで人生を終えるのがせめてもの役目です。」
「……親御さんにはどう説明するのよ。」
「それこそ、理解していただく他無いです。それでもなお、親が私を望むと言うのなら、AWA県にでも向かって私を呼び寄せて下さい。まあ、私が呼びかけに応じるかどうかは分かりませんが……。」
佐々木さんは諦めがついたのか、それ以上は黙ってしまった。そして目線で、あたしに促す。
「お願いします。アイツに戻ってきてもらいたい。」
「わかりました。貴女は、優しい人ですね。」
そう最後に微笑んだ元伊太郎は、ひとつの顔を取り戻したように見えた。

      ※※※※※※※※※※※※

「あれ?みんな揃ってどうしちゃったの。澤野さんにチエさんまで。あ、佐々木さんお世話になってます。原稿料いいかげんに振り込んでくださいよ。ん?アスミもどうしたの。え、なんだかみんな疲れた顔してない?それにヘリまであるし。うわ、なんだこの服!俺、神主のコスプレなんてやった覚え無いんだけど。誰か経緯がわかる人います?ここ最近の記憶が曖昧でさぁ……」
そう話しながらあたりを窺うと、顔を真っ赤にしたアスミの視線が私に突き刺さった。あ、これは自分が何かやらかした雰囲気だ。しかも結構ヤバめなやつ。私は、次に来るであろう衝撃に対抗するため受身の姿勢を取った。
「この、バカチンがぁぁぁぁ!!!」
腰に手が回り、天地が入れ替わる。私は首を少し浮かせ、叩きつけられる衝撃を受け流────────

・おわりに

何やら訳も分からぬまま、読者の皆様には前回及び今回の連載を休載してしまった事をお詫び申し上げます。しかし、その割には連載の回が進んでいるのも不思議な事ですが、そこはまあ、普段の私の人徳の成せる技ということにしておきたいと思います。

如何でしたでしょうか、赤森県。今でもイタコは世界の諜報バランスを保つために公然と暗躍していると聞きます。もし、読者の皆さんも、何処かの企業や国家の機密を暴きたい、もしくはあのスターや有名人のゴシップ情報を手に入れたいと望むなら、赤森県のイタコ達は門戸を開いてあなたを待っています。勿論、それ相応の代償は払って頂く必要があるそうですが。

それではこれにて。今から、受け身を取り損ねたバックドロップでやられた腰の治療に行ってきますので。

(第十四回 おわり)

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