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ゴースト⭐︎レイヤー

 ゴースト⭐︎レイヤー

 魔法少女リリカル⭐︎レインボーの衣装が完成した。身長155cmある中学生の公式設定に対して、身長110cmにアレンジした魔法少女の衣装が。いくつかの装飾を構造上の理由で省略し、魔法のステッキは実際の設定よりも小ぶりに作る。ウエストも、丈も、すべて小学一年生用のもの。女児用のマネキンにその全てを掛けチェックを終えると、私は複雑な気持ちでため息をついた。
「マキナ、納得いってない? どこかマズい部分あった?」
 相方のミッシーが心配そうな声で聞いてくる。仕事を選んでる場合じゃない設立一年目のコスプレ衣装制作会社とはいえ、「事故で亡くなった我が子が大好きだったキャラのコスプレ衣装を墓前に供えたい」っていう依頼は気が重い。私は、ううん、なんでもないよ。と無理くりな笑顔を見せて依頼者である父母に連絡を取る。ご依頼どおりの衣装、完成しました。ええ、宅配便で。はい。この度はご愁傷様でございました。事務所の電話の受話器を置く。資料で貰った女の子の動画をスマホで最後に確認する。あかりちゃんが将来なりたいのはなにかなー?はーい!わたし、おおきくなったら、りりかるれいんぼーに、なりたい!です! 母が撮ったであろう動画で笑顔を見せる女の子。未来が断たれた女の子。「好き」を諦めなきゃいけなかった女の子。
 私は動画を止めると、衣装を梱包しているミッシーに意を決して話しかけた。
「ごめんミッシー。その衣装を発送したら、もう一着、私に付き合ってくれない?」
 ミッシーは、やっぱりね。という顔で頷く。
「もちろん。今度は公式設定のまま作るんでしょ?」

 四十九日も終わり納骨式。小雨の降る墓所の小さな墓前に、ビニール袋に収められた小さな衣装が置いてある。私たちは参列者が帰った後、ご遺族の同意を得てもうひとつの衣装を納めた。身長155cm用の大きな衣装と設定通りの魔法のステッキを。墓前に手を合わせて私たちは帰路に着く。見上げた雨空の雲の切れ間に虹が出ていた。私とミッシーはハッとして振り返る。ふたつの包みはもう消えて無くなっていた。

 夢をみた。小さな女の子と成長したその子が楽しそうにリリカル⭐︎レインボーのポーズをとっている夢を。目が覚める。隣で寝ていたミッシーと目が合う。私達はくすっと笑いあってまた眠りに落ちる。
 なりたいな。なれるかな。なれるよね。おやすみなさい。

           (おわり)

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