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マダガスカルの運転手さん

旅の思い出には、楽しい思い出と嫌な思い出の他に切ない、はかない、申しわけないという類の思い出がある。この第3の思い出として、船旅で寄ったマダガスカルのタクシー運転手さんに申し訳なかったという思い出がある。

マダガスカルのトアマシナのタマタブ港に着いた。船からは、なだらかな山々を背景にヤシの木々、インド風の家並み、キリスト教会が見えた。

一泊二日の寄港だったので、初日は、夫婦でイヴルイナ動物園に行くことにした。船内で20ドルを42,000アリアリに交換した。マダガスカルの通貨はアリアリ(AR)である。

港のゲートに門番がいて、タクシーを呼んでくれる。海外旅行では、後で不当な料金を請求されるトラブルがあるという話を聞いていたので、事前に動物園までの往復料金を聞いて、念の為に手帳に書いてもらった。Λ20,000ARとある。2万アリアリねと言うとそうだと言う。後で分かったのだが、Λは1だった。

運転手さんが書いてくれた料金

運転手のDさんが運転する車で、動物園に向かう。舗装された道路の沿道には、茅葺きの家が並び、背コブがある牛が歩いていた。Zebu(ジーブー)というらしい。手押し車やタクシーブルースという自転車の人力車が走っている。Dさんは上手にそれらを避けて運転していた。トヨタのカーショップが右側に見えた。茅葺きの家が続いている。竹製品の店があり、頭にカゴを乗せて上手に歩く婦人がいる。沿道では、婦人や子どもが岩を砕いて小石にしている。建築資材にするのだろうか。荷車で石を運搬する光景も見られた。イヴルイナ村を左に入ると、鋪装道路はここまでで、デコボコ道を行く。動物園は4キロ先だ。

前にタクシーブルースが走る
家の壁に大統領選のポスター
タクシーブルース

動物園に着いて、Dさんに2時間待ってくれるように頼んだ。動物園の入園料は、住民でないので、20,000AR。ずっとDさんが書いてくれた「Λ20,000AR」が気になっていた。もしかしたら、Λは1ではないか、そうしたら、手持ちのアリアリでは全然足りない。チケット売り場の人に手帳を見せて「このΛは1か」と聞くとそうだとのこと。やはり確かめて良かった。60ドルを120,000ARに交換してもらった。

チケット売り場

9時に開園したので、入園する。園内に入ると係の人が笑顔で寄ってきて、案内してくれた。童謡で有名なアイアイがいたが、夜行性のために、小屋に入って見られなかった。こういうのもいい経験だ。

アイアイ

メスのキツネザルは、鼻が白いサル、顔のまわりが白いサル、黄色い顔のサル等がいて、オスより華やかだ。キツネザルはレムールと言うが、キツネザルはマダガスカル島にしかいない。インドやインドネシアからキツネザルの化石が発見されているため、インド洋上にレムリア大陸があったという説が唱えられ、キツネザル(レムール)は、レムリアの語源になったという。

キツネザル

80歳になるという亀に5歳の子亀。赤褐色や緑のカメレオンを檻内で見たが、カラフルな野生のカメレオンも見られた。檻には毒のないヘビ、そして、野生のクモ。スパイダーマンの言に係の人は笑っている。スパイダーマンは世界中に知られたヒーローのようだ。樹上には野性のキツネザルもいた。動物園内で野生のカメレオンやキツネザルが見られるという初めての体験をした。係の人がバナナを渡してくれて、サルの餌づけ体験もできた。

野生のカメレオン

広い園内には数人の観光客がいただけで、すいていた。コンニチハと挨拶されたが、日本人だと不思議に分かるようだ。野生のキツネザルが樹上にいて、枝に横たわっていた。動物園に入らなくても、キツネザルが見られる。大きなカメラを持った女性が、樹上のキツネザルを撮影していた。カメラマンではなく、写真が趣味らしい。園内一周1時間、案内してくれた係の人にお礼のチップ。

野生のキツネザル

タクシーを待たせている場所に戻ったら、Dさんが表れた。Dさんにバザリべ市場に寄ってもらうように頼む。

沿道には、大統領選のため、候補者のポスターが貼られていた。

タクシーは市場の店の横に止まった。市場には数人の兵士がいた。セキュリティのために警備しているらしい。狭い市場の道を歩きながら、店に並んだ野菜、果物、魚の生鮮食品、各種のスパイス、木彫り工芸等の土産品を見て楽しんだ。雑踏の中、Dさんが案内してくれた。

バザリべ市場

私は、バオバブの絵がプリントされているTシャツを買った。果実を売る店で、私はプラムを、家内はマンゴーをそれぞれ1kgずつ買った。はじめ500gを注文したが断られた。すぐにその意味が分かった。秤売りで分銅を乗せるのだが、よく見ると最低の分銅が1kgなのである。

分銅の秤売り

市場を出て港に帰る。港のゲートに入るときに、衛視に呼び止められた。衛視はタクシーに乗り、船まで同乗していた。万が一の事件が起きないようにだろう。降りる時に、料金12万ARを払ったが、追加で2万ARをほしいと言われた。朝に書いてもらったメモ帳の120,000ARの文字を見せて、断ったら、黙っていた。

このことについて、後で家内と話したが、あの料金は、動物園の往復料金で、追加で市場までを頼んだし、動物園での待機時間や市場の案内に時間を割いてもらっていた。しかも、家内は、市場の駐車の際に駐車代と思えるお金を渡していたのを見たらしい。Dさんは、終始親切だったしと、後悔の気持ちが残った。海外旅行では、不当な料金を請求されないようにという考えは間違いではないのだろうが、頑なにひとつの考えに囚われてしまうと、申しわけないことをしてしまう。楽しい思い出や嫌な思い出ではない、ただナイスガイのDさんに申しわけなかったという思い出が残った。


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