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人は原色、単音、ひとつの味より複雑なものが好きなこと

人は、生(なま)の物に感動しないことが、いくつかの例から分かる。生とは、混ざりけのない物のことで、色で言えば原色、音で言えば抑揚のない単音、味で言えば、甘い、辛い、酸っぱい、塩辛い等のひとつの味である。

原色を濁らないように混ぜたり、水彩をうすく重ねて塗ると美しい色彩が現れる。自然界を見れば、原色は少なくて、様々な色が入り混じっていることに気づくが、原色に物足りなさや不自然さを感じるのは、自然には存在しない異質な色だからだろう。人は、見慣れたものに落ち着きを感じるようだ。

単音の生の音より、歌ではこぶし、楽器ではビブラートのように音が揺れ動く方が良く聞こえる。また2つ以上の音が共鳴する方が美しい。ソロよりいくつかの楽器によるアンサンブルの方が音が複雑に響きあって美しく感じる。ソロであっても、ビブラートで音に変化をつけたり、弦楽器なら他の弦と共鳴するように演奏する。

食べ物は、酢だけの味、辛いだけの食べ物は、不味い。いろいろな味の素材がうまい具合に組み合わさって、何の素材から成り立っているのか分からない料理の方が美味しく感じる。本格的なインドカレーは、ただ辛いだけでなく、たくさんの香辛料を混ぜて旨みを出している。

理由

原色、単音、味の素材を部品と呼ぶとすると、何故ひとつの部品より複数の部品が組み合わさった方が美しく、または美味しく感じるのだろう。

ひとつの理由は、自然界は、部品だけで存在することがなく、複数の部品が混じりあって存在しているから、より自然に近いものに美しく、または美味しく感じ、つまり安心し、居心地の良い気持ちになる。

もうひとつの理由は、この部品だと分かるものより、混じりあって分からなくなっている方が美しく、また美味しく感じるからかも知れない。未知なるものに魅力を感じることが、ここでも作用しているからだろう。

あるいは、多くの部品が相互に作用することに喜びや安心を感じるからかも知れない。

自然に近いものを求めるからとも思え、複雑な分かりにくいものに魅力を感じるからとも思え、更に相互作用に喜びや安心を感じるなら、人間もひとりよりは、大勢の人たちから成り立つ社会に良い感情を抱くものなのかも知れない。


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