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観光から垣間見たモーリシャス共和国

ただ一度のツアー観光で、その国の姿を知ることは難しいかも知れない。しかし、観光にはそれなりの効果はあるものである。モーリシャスというインド洋にある島国を一日観光したイメージは、多くの民族・宗教が共存する平和な国だった。 

その日、ポートルイスの港から観光バスでいくつかの観光地を巡った。

はじめに関帝廟、三国志の関羽を祀る神社、関羽は武雄だけでなく、様々な徳を備え、中国人に人気がある英雄である。いっしょにいてくれたら頼りになる人物、生きる力を与えてくれる人物として、崇拝されてきた。そろばんを発明したという伝説の持ち主であるので、商業の神様として信仰されてきたのかと思っていたが、それだけではないようだ。関羽の人徳が崇拝の対象になり、関帝や関公と尊称された。関羽は、華人からごく親しみをこめた尊敬を集めているように思われ、関帝廟を単に神社と言ってしまうのがためらわれる。廟は廟なのだろう。関帝廟は、モーリシャスに住む華人の心の拠り所である。

廟は、二階建ての赤い建物で、建物の入口に置かれた香炉に線香が供えられ、煙が登っているあたり、わが国の仏教に似ている。境内にはヤシの木が生え、近くにカエンボクが赤い花を咲かせていた。黄色になると新年になるという。

次に、アデレード砦に行った。洋風の城郭である。市街地と港を見下ろせる丘の上にあり、きわめて眺望がよい。イギリス植民地時代には、奴隷の収容所に使われていたが、今は、城内の広場は、食品市場やコンサートに利用されているとのこと。奴隷を一時収容し、ここで売買したのだろう。

市内にあるジュマ・モスクを訪れた。モーリシャス有数のイスラム寺院である。回廊を見学した。プールがあり、モスクに入るにはそこで足を洗わなければならない。建物内はイスラム教徒しか入れないとのこと。

世界遺産に登録されているインド人が初めて上陸した場所アプラバシ・ガート(Aapravasi Ghat)を見た。その時は修理中で中には入れなかった。19世紀前期に奴隷制度が廃止されると、サトウキビ産業の労働者不足を解決するために、多くの移民が海外からやって来て、サトウキビ製造に携わった。インドから多くの移民が来たが、はじめて上陸したこの場所で入国審査や検疫が行われた。移民の出発点となる場所である。人口130万のうち52%がこうした移民の流れを汲むインド系である。

インド人の信仰を集めるケラソン・タミール寺院を見学した。ヒンズー教寺院でよく見られる建物である。インドの神々が祀られ、牛の像が屋根の上に置かれている。正午に太陽が真上に登り、影がなくなると言われていた。足元を見ると確かに影がほとんどない。影なしの写真を撮る。

サトウキビ産業は、繊維産業が起こるまでは、モーリシャスの唯一の産業だった。そんな歴史が分かるサトウキビ博物館を見学した。周囲にサトウキビが青々とした葉を伸ばし、カエンボクが赤い花を咲かしていた。グラスゴー1860年製の機械が展示してある。博物館内部を見学、奴隷制時代のサトウキビ生産の絵がある。展示には、1807年イギリスで奴隷貿易禁止、1815年フランスで奴隷貿易禁止、1833年イギリスで奴隷制廃止、1848年フランスで奴隷制廃止とあり、そして、移民の時代が始まった。サトウキビから砂糖を精製する過程が展示されていて、黒から白までの様々な色の砂糖があることが分かる。

最後に港に近いウォーターフロントに行く。途中、バスの窓からはじめてキリスト教の教会を見た。ウォーターフロントは、マクドナルドもあり、近代的なビルが並ぶ、きれいなショピングエリア。そして、バスで振り出しの港に戻った。「あそこに見える長い建物は何ですか」とガイドさんに聞くと、砂糖を輸出するために保管する倉庫だとのこと。

関帝廟、アデレード砦、ジュマ・モスク、アプラバシ・ガート、ケラソン・タミール、サトウキビ博物館、これらを観光しただけで、モーリシャスが多民族、多宗教の多文化国家であることが分かる。フランス、イギリスの植民地時代の奴隷制時代があり、奴隷制廃止から移民の時代を経て、インド系、中国系、イスラム系など複数の人たちが生活している。各宗教の聖なる日は、国民皆で祝日として祝うとガイドさんが言っていた。

国旗は四色旗である。上から赤青黃緑のストライプで、赤は奴隷、青は海、黃は太陽、緑は自然を意味していると現地で聞いたが、ブリタニカによると、赤は独立を求める国民の戦い、青はインド洋にある島国であること、黄は島を照らす自由の光、緑は亜熱帯の一年中の緑を意味する。要するにインド洋に浮かぶ島国モーリシャスは、緑豊かな自然に恵まれ、独立の戦いを経て得られた自由の国ということである。モーリシャスは、この国旗の4色のように、多様な民族・文化が共存する国と言われる。現地ガイドさんは、父親がヨーロッパ系、母親がインド系で、数人の子どもたちはみな肌の色が違うといい、こういう家族を白黒の鍵盤に例えて、ピアノファミリーと言われていると言っていた。

一日のツアー観光で、モーリシャスの姿を垣間見ることができた。観光とは、その土地の光を観ることだとよく言われる。このように短い観光といえども、度重なる観光旅行者の交流により、国際的な相互理解は深まるのだろう。持続可能な産業として最も成功したといわれる観光業は、また国際平和の一翼を担っているともいえる。

関帝廟
関帝廟
アデレード砦
アデレード砦
アデレード砦
ジュマ・モスク
修理中のプラバシ・ガート
世界遺産プラバシ・ガート
ケラソン・タミール
ケラソン・タミール
ケラソン・タミール
サトウキビ博物館の様々な砂糖
サトウキビ博物館
サトウキビ畑
マクドナルドのチキンバーガーの看板
モーリシャスの首都ポートルイス

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