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大きなバスと小さなバスの役割の違い

汽車が悲劇名詞に対して、バスは喜劇名詞であると、『人間失格』の中で大宰治が述べているが、幼いころのバスの思い出は、酔いやすい乗り物であり、けっして楽しいものではなかった。バス遠足は苦手だった。しかし、一度、酔わなかったら、もう安心、二度と酔わなくなった。バスに乗るのが楽しくなった。

そんなバスの海外旅行での出来事である。

数年前にキプロス島に観光に行った。現地で観光客に用意されたのは、マイクロバスで、車内は狭く、座席が窮屈だった。観光が始まるとさっそく観光客からバスが狭いことへの苦情が出た。それでも、この小さなバスは、観光客を乗せて、あちこちの名所を周った。

さて観光も佳境に入った日のこと。その日は山岳地帯の村に行くというので、バスは山道を走った。そんなときツアーのリーダーがタイミングよく「今日は山の上の方に行きます。だんだん道幅も狭くなりますが、幸いこのバスは小さいので目的地まで皆さんを乗せていくことができます。もし大きなバスだったら、下の方でバスを降りて、山道を歩いてもらわないとダメでしたが、小さいバスですから大丈夫です」と言った。それ以来、バスが小さいという不満はなくなった。観光客を乗せてどんな場所にも連れて行ってくれる頼もしい存在になった。

大きなバスと小さなバスとでは、働き方が違っている。それぞれの役割があるのだなと、そのとき以来思うようになった。
 

大きなバスと小さなバス

2022.10.6


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