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TSUTAYAに恋してるのかもしれない

別に極端にパソコンに弱いわけじゃない。小説はWordで書けるようになったし、PS storeでゲームを買ったこともある。

けど、何故かCDだけはTSUTAYAで借りてきてしまう。

いや、無駄なのはわかってる。CDを4枚借りるより、Apple musicに一月入る方が安上がりなのもわかってる。 Amazonプライムミュージックのほうがさらに安いかもしれない。インターネッツ・アウトローになる勇気はないから、Youtubeではオフィシャルの音楽しか聴かないけど、それよりもっといい方法があることを知ってる。

でも、ついTSUTAYAに入ってしまう。適当に棚を見て回ったり、好きなアーティストの新譜をチェックしたり。数年前のアニソンを延々と探していたり、持ってる曲のREMIX版に想像を膨らませたり。全部インターネットでやったほうが早いのに、何故かやってしまう。立ち上がりに5分くらいかかる、おおよそPCとしての機能を5%も発揮できていないできていないPCを叩いて、CDのデータをiTunesにインポートする。インポートが終わるのを、紅茶とか淹れながら待ってる。

「なんで」と訊かれると「なんとなく……」としか言えてなかったけど、さっきふと気がついたことがある。もし、人間が性欲だけの生物だったら、もうとっくに人類は絶滅してるだろう。たぶん。カップルが誕生する理由は何も性欲からだけじゃない。恋がある。性欲の解消と種の保存だけが目的なら、人間はそんなことをする必要はない。だけどみんな好んでやる。これと同じだ。わざわざ店舗に行く必要はないけれど、好んで店舗に行く。

つまり、僕はTSUTAYAに恋してるから、TSUTAYAに通うのだ。

店舗の空気が好きなのだ。理路整然と並ぶCDの群れ。流れる音楽。おすすめ棚に並ぶCD。あと本も置いてあったりする。中古のCDが無限かと言うほど置いてある。店員は基本的に愛想がない。レジの人たちはともかく、CDの場所を探してもらったりしている間の彼らは、なんというか生気がない。同じ音楽を聞かされすぎてノイローゼになっている可能性がある。

冷静に考えると、好きだ。TSUTAYAの雰囲気。行くぶんには。

車でTSUTAYAまで行くと、カウンターにいつものあの子が立っている。黒髪は無造作に長くて、肌はちょっと青白い。照明の都合かも。CDを5枚くらい持っていくと、彼女は一枚一枚、違った反応をしてくれる。アニメのサントラだと「うげ」って顔だし、ちょっと彼女のお眼鏡にかかると、「悪くないじゃん」みたいに鼻からふっと息を吐く。もちろん僕は何も言わない。一喜一憂するキモい奴だと思われたくないからだ。実際そうであるのと、そう思われることの差は大きい。

細長い指がCDを全部まとめて、黒い袋に入れて、僕に手渡す。じゃあ帰ろうかな、と思うと、一枚、折りたたみのパンフレットを渡される。「映画、来週からお得なので、よかったらどうぞ」と口がボソボソ動く。「あ、はい」とだけ言って、その場から去る。いつもよりちょっと高い声だったからも、とか思いながら、車のエンジンを入れる。いや、CDだけじゃなくて、映画も借りていけよ、ってことかもしれない。今度、おすすめ訊けたりするかな。無理だな。彼女と僕は、まともに会話したことすらないから。

借りたばかりのCDを、AV機器に吸い込ませる。イントロが流れ出して、4拍子目でアクセルを踏み込んでみる。窓を開けたら、カウンターの向こうで立ち尽くしている、眼鏡の彼女にも聴こえるだろうか?

2018年で最強だったのは、パソコン音楽クラブで『DREAM WALK』。

なんかTSUTAYAと違くないだろうか?

あんまり細かいことを気にし始めると、たぶんTSUTAYAの売り上げがわずかに落ちる。考えすぎるのはやめておこう。

じゃあ、これからDaft Punkセラピーするから、今回はここまで。

(三楼丸)

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