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ファンタジーとか、懐古とか

剣と魔法なファンタジーは割と好きだ。でも実際書こうとするとなんだか上手く書けず、迷いに迷って結局この前出した「砂天の太陽」みたいな感じになる。(銃と魔法って感じになっちゃったけど、これはこれでお気に入りってのは、別の話)


たぶん原因は僕自身があんまりファンタジー系の話を読まず、下地がないからだと思う。とはいえTRPGのダンジョンズ&ドラゴンズみたいな正当派ファンタジーストーリーって意外と少なくて、気を抜くと外から転生してきてたり、現代の技術が持ち込まれてたり、主人公がチーター紛いの天才魔法使いだったりして、勝手ながら「思ってたのと違う!」ってなりがちだ。(じゃあD&Dのセッション動画とか見ればいいじゃん、というのもちょっと脱線すると長くなるのでここでは置いておいてほしい問題だ)

理由はわかっている。本物の王道は面白くないのだ。王道はどのストーリーにも大切なものになり得るけど、王道だけ出されてもつまらない。言わば醤油ラーメンの醤油みたいな感じで、原液をゴクゴク飲むのはなかなかできない。だからみんな一捻り二捻り加えたがるし、特に日本製ファンタジーでは結局王道ファンタジーってどこにあるんでしょうねみたいな事態が発生する。古くは指輪物語やロードス島戦記が王道っぽいところを拾ってるから、同じことをしてもどうしようもないとはいえ、最近はめっきりファンタジー世界観で王道とされるようなものについて聞かなくなってきていた*。

でも半年くらい前、僕はようやく王道ファンタジーを見つけた。2017年にもなってこんな漫画**が生まれてきたなんて奇跡だ、と思い、嬉々として二巻も買った。

ゴブリンスレイヤーだ。

ゴブリンスレイヤーは今期のアニメとして思ってたより遥かに有名になっている***ため、既に内容を知っている人もいるかもしれない。所詮雑魚モンスターだと思われがちなゴブリンにそれまでの人生の99%を奪われた男が、身体も心もゴブリンをスレイすることに特化し、ゴブリンをひたすらあの手この手で狩り続ける、という病的と言って差し支えない主人公が特徴的なファンタジーストーリーだ。

D&Dっぽい世界観****を持ち味としていて、出てくる役職や敵モンスターは皆どこかで聞いたことあるような、懐かしい連中が多い。エルフの弓師だったり、大鼠だったり。ともすれば王道ド真ん中と呼ばれるような話なのだが、主人公であるゴブリンスレイヤーがそんな認識は許さない。ゴブリンスレイヤーはゴブリン以外に興味を全然持たない。いかに彼の身の回りが王道的要素で満ち溢れていようとも、彼が主人公であるという事実が『ゴブリンスレイヤー』が王道ド真ん中になり得ない理由になっている。

勘違いしないでほしいのだけど、ゴブリンスレイヤーは題名一発ネタ枠や俺ツエーの系譜ではない。ニンジャスレイヤーだってあれだけインパクトのある作風と題名と主人公でありながら『ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ』では泣かされたし、つまりそういうことだ。インパクトがありながら、非常に誠実だ。

ゴブリンスレイヤーは無敵じゃない。ゴブリンを殺せるのは、ゴブリンについて誰よりも深く考えているからだ。彼は無茶をすることを好まず、知識を総動員して、より確実、つまりイレギュラーの起こり得ないような方法でゴブリンを殺す。

力が強いわけじゃないから、ちょっと強いゴブリンのボスみたいなやつが出てきたら彼なりに苦戦するし、特別打たれ強いわけでもなく、作中でも何度かピンチに陥る。

でも彼は負けない。彼を助けてくれるのはゴブリンに対する知識と経験かもしれない。もしもを想定して取り寄せて、ポーチに入れておいたアイテムかもしれない。彼の不器用かつ真っ直ぐな生き様に魅せられて肩を貸す、女神官を初めとする仲間たちかもしれない。

ゴブリンスレイヤーはいつか死ぬのだろう。彼のゴブリン殺しはゴブリンに対する憎しみを起源とするもので、その憎しみは地上からゴブリンが消えるまで癒えることはない。そしてゴブリンが世界から消えることなんてきっとない。

そんなゴブリンスレイヤーを、いつしか応援していた。そして気がついた。主人公がひたむきに努力し、勝利を収めていき、時には仲間と共に戦う。ゴブリンスレイヤーは誤魔化しきれないくらい王道ド真ん中のストーリーで、ゴブリンスレイヤーが主人公であるからこそ醤油はしっかり醤油ラーメンになり、おいしい。

これはゴブリンスレイヤーのプレゼン記事でもないし、ステマでもない。だから素直に思ったことを書くと、「なんだか救われたな」という気がした。こんなにまっすぐで、ちょっと懐かしいくらいの話が有名になって、自分でもよくわからないけど、安心させられた。懐古かもしれない。っていうか、多分、過去の美化と、懐古だ。それ以外のなんでもない。ドードーがオーストラリアを歩いてて、環境保護勢が安心した。ラノベ界で絶滅したと思ってた剣と魔法と、血生臭さと、友情と努力を見て、おっさんが安心した。そんだけ。

グダグダしてきたので、今回はここまで。

途中までの錆喰いビスコも読まなきゃな。

(三楼丸)

*これに関しては自分のアンテナが錆びついているだけかもしれない。面白い王道ファンタジーがあったら是非教えて欲しい。ただし『異世界転生』『主人公かヒロインが無双』『あんまり冒険しない』系の話はかなり食傷気味なので、それ以外で何かあなたの好きな話を。
**コミカライズ版で初めて存在を知ったし、その時はまだ原作小説の存在を知らなかった
***見通しが甘すぎる
****作中でも作中世界が神々のTRPGセッションの場であると言われている

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