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6つのテイストを味わう 一穂ミチ著「スモールワールズ」  

インパクトのある読書を体験した後や、ほっと落ち着きたいと感じた時に読んでみたくなる一冊でした。

六つの短編集が収められており、一つ一つ味わいが違う作品でした。

ページをめくり始めるとその先が気になって、どんな着地が用意されているのかと、どんどん読み進めていきました。

一つの作品を読み終わって、気持ちよく余韻にひたり、それが心地よくて、次の作品にもそんな余韻を期待して、ページをめくっていく。
そんな繰り返しでした。

出版当初より、本屋大賞との呼び声も高く気になっていた作品であり、やっと読むことができ満足です。
歴代の本屋大賞受賞作品の多くと同じ匂いのする作品でした。

以下は、ネタバレしてますこと、ご了承ください。

「ネオンテトラ」
不倫している夫とその妻。
彼女は、偶然興味をもって近づいた男子高校生が自分の姪と男女関係にあることを知る。彼女は、それを知ったとき、男子高校生の分身となる子供がほしくなる。
彼女は姪が妊娠するようにと画策し、そのかいあって、姪は子供を授かる。
未成年の二人が子供を育てていくのは難しいという現実をとって、その子を自分たちの養子にしてしまう。
子供が欲しいという欲望に一直線にことを成し遂げた女性。
まるで、道具のように二人を操る女性に、怖さを感じながら、なぜかあっぱれと感嘆してしまいました。

「魔王の帰還」
結婚した姉は、身長188㎝の体格のいいダンプのドライバー。
夫に愛想が尽きたと、出戻ってくるが。
そこには、グッと胸に刺さる理由があって。
6つの作品のなかで、一番好きな作品でした。
この姉ちゃんのキャラが素敵すぎて、この人を主人公にした長編ものも読みたいと願いました。
最後、この姉ちゃんは、夫の元へ帰りますが、戻ってきた原因に、胸が熱くなりながらも、男前な気性に思わず声援をおくりたくなった作品でした。

「ピクニック」
主人公は、子供を実母に預ける。
実母は、自分の不注意から孫を死なせてしまう。
実母の無実を証明するために奔走する主人公は、
自分が幼かったころに妹が突然死していた事実を知る。
本当は、その時のトラウマが原因で孫を殺してしまっていたという事実。主人公の妹も、無意識に主人公が殺していたという事実。
そして最後の3行で語られる言葉。
背中がゾクッとする、ブラックな作品でした。

「花うた」
兄を殺害した服役囚と殺された兄の妹との、書簡のやり取りで物語がすすんでいきました。
言葉使いの変化や文字の使い方から心情の起伏が読み取れると同時に、
心の動きを可視化することができて、好きな作風でした。
バックに品のいいメロディーが流れる空間で読んでいるような、不思議な気分を味わって読むことができました。
そんな雰囲気のなか、妹へのあて名が服役囚の性になったとき、やっぱりと思いながらも複雑に心境にもなりました。

「愛を適量」
50代の一人暮らしの高校教師のもとへ、15年前に離婚してから会っていない娘が突然訪ねてくる。
当時12歳だった彼女との再会は、思いもよらない現実を突きつける。
彼女は、性同一性障害。体は女性だけれど、心は男性。
口は悪いけど、夕食の準備をして父の帰りを待っている娘、その娘に大金を盗み取られてしまうけど、許す父。
父と娘の愛情の深さが伝わってきて、これも私の好きな作品でした。
最後の二人の電話でのシーンに胸が温かくなりました。

「式日」
父親のお葬式に出てほしいと頼む彼とそれに応える彼の先輩である彼女。
彼女は彼と同じ高校の定時制に通っていて、たまたま同じ机を使っていたことが縁となって繋がりができる。
一年ぶりに会う先輩に、当時話すことができなかったことを、彼はいろいろと話しだす。何のために。
とっても、お似合いの二人なのに。
今後の二人がどういった関係になるかは、分からない。
そのあやふやさ、不確かさにボーっとなってしまいました。

なんかこの主人公怖いと思えば、次の作品では男前の姉ちゃんを応援している自分がいる。
次の作品では背筋が寒くなって、と思いきや次は、静かなメロディーの流れている世界へ吸い込まれていく。
親子の深い愛に胸が熱くなると、今度は不確かな男女の関係に何とも言い難い感情をもったりと半日の読書体験で、心情がアップダウンしました。

緩やかなジェットコースターに乗っているようで、上り下りの起伏はそんなに大きくなくちょうどいい揺れで、気がつけば、ゴールに到着していたみたいな印象です。

作者の一穂ミチさんは、BL作家さんということで、ボーイズラブ(男性同士のラブストーリー)というジャンルで多くの作品を手掛けておられたことを知りました。
私自身、そういったジャンルがあることを知らなかったのですが、
スモールワールズの世界観が楽しかったので、一穂さんのBL作品も是非とも読んでみようと思っています。


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