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センサーサイズのお話

一般的な一眼デジタルカメラには、主に3種類のセンサーサイズがあります。これがまた、カメラの初心者にとっては訳の分からない「謎」だと思います。
デジタルカメラの歴史は非常に浅く、黎明期の初期においてはセンサーそのものの性能が著しく低いこともあって、使い物にならないレベルでした。

ほぼ全てのプロ写真家たちは、こぞってデジタルカメラをけちょんけちょんに馬鹿にし、「一生デジタルカメラのようなオモチャは使わない」と堂々とこき下ろして宣言していたのです。
しかし、私を含めてPCでデジタル画像などを扱う者たちから見れば、デジタルカメラの時代がやって来るのは自明の理だったのです。
デジタルが当たり前の今の若い人たちにとっては、信じられない話かもしれません。
1995年ごろ、今から約25年も前の話です。
私自身は、1994年に発売されたカシオのQV-10という「まさにオモチャのような」デジタルカメラを購入した時、デジタルの時代がやって来ることを確信しました。
しかしそういった私たちのような少数派の声は、より大きな声によってかき消され、プロの写真家たちによってフィルムカメラの素晴らしさと、デジタルカメラのバカバカしさが強調されていきます。
この時代が10年ほど続いたのではないかと思います。

さて、一見、話が逸れているように思うかもしれませんが、何が言いたいかというと、世の中にはウソや間違いが満ちていて、そういったことはしばしば声の大きな人たちによって広められてしまうということです。
これは今回の話の中で、極めて重要なポイントです。

私の知り合いに小児科の名医の先生がいます。
この先生の言葉で最も印象に残ったのは、「医者の言うことをそのまま信用しないように。10年も経てば治療方法は180度変わる可能性がある。」というものでした。
世の中の人の多くは肩書やブランドで人を判断する傾向が強いのですが、その肩書やブランドを持っている人で、本当に正しい判断力を持つ人は1割にも満たないでしょう。
残りの9割の人は、間違ったことを発信し続ける可能性がある、ということです。
それは医者であっても変わらないし、学者のような専門職であっても同じことです。

もちろんここで話している私の話が、本当に正しいという保証もありません。
ネットには山ほどウソの情報が流れていますし、多くの情報サイトは他人のサイトをそのまま書き写しているような危険な状況でもあります。
プロだからといって正しいことを言っているとは限らないし、専門雑誌だからといって正しい情報が載っているとは限りません。
大切なのは、常に多くの十分な情報を収集して、何が正しいのかを自分で考えて判断するということです。
このことを決して忘れないでください。
自分で情報を多角的に仕入れて、自分で勉強して理論を組み立て、何が正しいかを自分で判断することです。

さて、センサーサイズの話を始めましょう。
現在の一眼デジタルカメラには、「35mmフルサイズ(通称フルサイズ)」「APS-C」「マイクロフォーサーズ(フォーサーズ)」の3種類があります。
細かい話はしません。わかりやすくいきます。

35mmフルサイズが一番大きなセンサー、APS-Cが次に大きなセンサー、マイクロフォーサーズが一番小さなセンサーです。

デジタルカメラの初期においてはセンサーの性能が悪かったため、写真の画質はセンサーサイズに依存していました。
つまりセンサーが大きければ大きいほど、画質性能が高かったのです。

しかし現代においては技術が進歩し、人間が感知できるレベルでのセンサーサイズに依存する画質性能差はありません。
同じように撮影した3種類のセンサーの写真を、正確に判別することは不可能です。

では何が違うかと言うと、最も大きな差は「ボケ」の大きさです。

デジタルカメラに限らずカメラで撮影する場合、厳密に撮影対象にピントが合っている部分は1点のみです。
この1点を中心にして距離が前後に離れるほど、画面がぼんやりと次第にボケていくのですが、このボケ方をカメラ用語で「ボケ」と言います。
センサーサイズが大きいほど、画像が滲んでぼんやりとなってボケも大きくなり、センサーサイズが小さいほどボケは小さくなります。

35mmフルサイズは、前述の3種類の中ではセンサーサイズが一番大きいため、ボケも一番大きくなります。
人物を撮影するポートレートなどでは、美しく大きなボケを得ることが出来るため、ポートレートの分野では圧倒的な性能を誇ります。
ポートレートをガンガン撮りたいのであれば、35mmフルサイズのデジタルカメラがイチオシです。
ただし当たり前ですが、反対にボケを小さくすることが苦手です。
風景撮影においてのパンフォーカスの撮影は、あまり得意ではありません。
パンフォーカスとは、近景から遠景まではっきりと写すために、カメラの絞りを絞ることです。
絞りがF11あたりから「回折」という光の回り込み現象によって画質が著しく劣化し始めるのですが、35mmフルサイズでのパンフォーカス撮影ではF16やF22といった絞りを必要とします。回折による画質劣化に加えて、絞ることによってシャッター速度が低下するため、三脚がないと写真がブレやすくなります。

マイクロフォーサーズは、35mmフルサイズの真反対の性質を持っています。
3種類の中ではボケが最も小さくなるため、大きなボケを必要とするポートレートや、ぼかしを強調した花などのクローズアップ写真では、かなり苦労するはずです。
望遠系のレンズを使用し、被写界深度を浅くする(ボケを大きくする)などの対策が必要になります。
反面、風景撮影でのパンフォーカス撮影では威力を十分に発揮します。
F5.6からF8あたりで十分なパンフォーカスが得られるため、レンズの性能を最大に生かして高画質な風景撮影が行えます。
また絞りを絞り込む必要が無いためシャッター速度を稼ぐことができ、ほとんどの風景撮影において三脚を必要としません。機動性抜群です。
三脚が必要になるケースは、夜景や滝などのスローシャッター撮影くらいでしょう。

APS-Cは上記2種類の中間の性能を持っています。
ポートレートにおいては、明るいレンズを使うことによってある程度の実用的なボケを得ることができ、風景撮影においては多少の回折の影響があるものの、F11あたりでパンフォーカスを得ることができます。実際の写真では気にならないはずです。
立ち位置としては「万能型」であり、カメラの基礎的なことを学ぶ初心者にはイチオシです。
また、道具の使いこなし方を心得ている「通なベテラン」にもおススメできるセンサー規格です。
ベテランであれば多少の欠点を技術で克服できるため、あらゆる状況でオールマイティーに活躍できる規格と言えるわけです。

以上が3種類のセンサーサイズの最大の違いですが、他にも大きな違いがあります。
それはレンズの大きさと重さです。
全般的に、センサーサイズが大きくなるほどレンズも大きく重くなります。
レンズには無数の個性があるためレンズの大きさ重さを単純に比較できませんが、ほぼ同等の性能を有するレンズであれば、センサーサイズが小さいほうが一般的にレンズも小さくなります。

繰り返しになりますが、世の中には膨大な情報が流れていますので、いろいろな情報を調べて総合的に判断して頂ければよいと思います。
今の業界は「35mmフルサイズ一直線」なので、流れに乗りたいのであれば35mmフルサイズカメラでも良いと思います。
道具なので得手不得手は必ずありますが、このカメラでないとダメというものはありません。大抵の場合は、技術と知識でカバーできます。

ただし今の「35mmフルサイズ一直線」の流れは、かつてのオーディオ業界の劇的な衰退の前夜に似ており、カメラ業界は危険な流れに乗っていると思います。
オーディオ業界は良心を失って崩壊したと、私は分析しています。
正しい情報を正しく流通させるのも、カメラ業界の使命です。
それを怠ればその弱点を突いて、新興勢力のスマホ多眼カメラや中華レンズに全てを奪われるかもしれません。

カメラ文化が正しく、楽しく広まればいいなと思っています。

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