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『ひとり親けんこう白書』ひとり親けんこう白書を通して描く未来

佐藤絵理
地域を超えたピアサポートを実現するひとり親支援プログラムの開発
―「主体性」の回復から「新しい連帯」が実現する過程の検証
研究代表者

『ひとり親けんこう白書』p40-41

研究を始めるきっかけとなった嬉しい出来事と悲しい出来事

一昨年、Mother's Dayキャンペーン2021のプロジェクトマネージャーを務め、沢山のシングルマザーと出会いました。困難な状況を抱えながらも、セルフケア講座をはじめ、さまざまなプログラムを経て自分らしさを取り戻したメンバーの、内面から放たれる輝きと、凛とした姿はとてもかっこよく、メンバーの一員として誇らしく思いました。

人が力を取り戻していくプロセスには希望があります。「これを再現することができれば、何らかの事情で力を失った人が、再び力を取り戻して、自分らしく生きていく助けになるのではないか?」との仮説を持って、このプロセスを検証したいと思いました。

一方で、志なかばでプロジェクトを去る人を見送ることもありました。チャレンジ精神を持ってスタッフに応募したものの、DV被害の後遺症や、元配偶者からの嫌がらせ、過労による心身の不調、周囲からの心無い言葉や、相談機関で悩みを打ち明けかえって傷ついた経験など、さまざまな生きづらさが重なって、活動を途中で断念したメンバーがいました。

こうしたメンバーたちの声を、しっかり拾っていきたい。声にならない声にも耳を傾けたいと思いました。目の前に、これだけ苦しんでいる人がいるならば、日本中に、同じように苦しんでいる人はまだまだいるのではないだろうか。研究・調査チームを立ち上げ、私たちの行っている活動の意味をもう一度問い直しました。そして2021年度トヨタ財団研究助成に応募しました。

公募のテーマは「つながりがデザインする未来の社会システムーニューノーマル時代に再考する社会課題と新しい連帯に向けてー」。「つながり」「新しい連帯」とは、まさに私たちがこのプロジェクトで体現していることではないか、とピンときました。取り組みを精査し、その効果を検証することは「つながりがデザインする未来の社会システム」の一つのベストプラクティスとして貢献できるのではないか。勇気を出して応募したところ、なんと採択されました。

研究結果を市民へ還す 

当初は「シングルマザーの心身のセルフケア講座」と「シングルマザー同士のピアサポート」について学術的に効果検証することを予定していました。社会問題は専門家が問題提起することで、一般の人にも認識されます。しかしそれだけでは、自分ごととして課題や解決策を考える姿勢が生まれにくいという課題もあります。

そこで私たちは、学術的な発表にとどめず、「この結果を一般に広く伝えよう」と決断し『ひとり親けんこう白書』という読みやすい小冊子にまとめることにしました。小冊子の製作費は、研究助成の予算には計上されていなかったため、クラウドファンディングで寄付を募ることにしました。

当事者でなくても、ともに考え、行動したい

クラウドファンディングを活用したのは、シングルマザー当事者もそうでない人も、誰もが参加できるということに意味があると思ったからです。子どもを授かれば誰でもひとり親になる可能性があり、誰もがこの世に生を受ければひとり親家庭の子どもになる可能性があります。このプロジェクトを通して、ひとり親に関する課題が認識され、社会課題としてそ解決法をみんなで考えるきっかけになればと思いました。

新たなつながりを生み出したクラウドファンディング

「クラウドファンディングを経験して、応援者の方と繋がりを強く感じられたこと、どのメッセージもあたたかく元気をもらえたことに魅力を感じました。わたしのエッセイを発表したことが契機となってつながりの輪が拡がっていくというか、孤立から救われる感覚もありました。」
 
これはMother's Dayキャンペーン2021にエッセイ執筆者として参加してくれたシングルマザーの言葉です。過去の経験から、人や社会を信頼できずにいるひとり親はたくさんいます。このクラウドファンディングを通して、身近に応援してくれる人がいることに気づけたり、会ったことはなくても応援してくれている人がいることを知れたり、新たに社会への信頼を編み直すことができたことは、当初の予想を超えた成果でした。
 
この白書はクラウドファンディングや日頃から応援をしてくださっている方々の想い、そして、シングルマザーの方から託された声を紡いでいきたいという一心で制作にあたりました。この白書が契機となってシングルマザーの心身の健康づくりやエンパワメント、多様な生き方や家族のあり方が尊重される社会づくりに貢献できることを願っています。

以上、本研究の代表研究者である佐藤絵理による「ひとり親けんこう白書を通して描く未来」をご紹介しました。次回は「あとがき」をご紹介します。

『ひとり親けんこう白書』完成報告ライブ配信のお知らせ

9月27日(水)12:00-13:00
Youtube,facebook,Twitterに同時配信しますので、使い慣れたプラットフォームでご視聴ください。

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