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ドラマを見ない私が出会った名台詞

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執筆者 haru

ひとり親になって、テレビドラマを見なくなった。

私にとって離婚の決定打となった出来事に直面した時、自分の身に起こっていることと思えず、テレビドラマを見ているような感覚になった。

あくまでこれはテレビの中の世界。自宅で寛ぎながら画面を見ている視聴者のような、まさに他人事な感覚。「あ、これ、脚本のネタになりそう…」なんて、場違いなことをひとりぼんやりと考えていた。目にした悲惨なワンシーンと自分の呑気さが妙にアンバランスで、気分が悪くなった。

5年ほど経って、ひとつひとつの出来事や交わした言葉の細かな記憶は少しずつ薄れてきたが、私の中で「テレビドラマを見る=私は視聴者=あの時もなぜかそうだった」という方程式が出来上がってしまったのだろう。あの悲惨なワンシーンが勝手に再生されるようになった。

だから、私はテレビドラマを見なくなった。

そんな私が、最近取り憑かれたように一気見したテレビドラマがある。

珍しく息子が早く寝付いた土曜日の夜だった。作業中のBGM代わりに英語の動画を探していて、たまたま見つけた海外ドラマの『THIS IS US』。作業が一段落してふとテレビ画面に視線を向けると、私が関わっているNPO法人シングルマザーズシスターフッドで、たびたび耳にすることわざが目に留まった。

「できれば、君もいつか私のように年老いた時に、自分の経験を若者に語ってくれるといいなと思うよ。人生が君という人間に与えたもっとも酸っぱいレモンで、なんとかレモネードを作った経験を」
I like to think that maybe one day you'll be an old man like me talking a younger man's ear off, explaining to him how you took the sourest lemon that life has to offer and turned it into something resembling lemonade.

THIS IS US/Season1/Episode1

それは、大きな悲しみに直面した一人の男性に向けて、とある産婦人科医が伝えた台詞だった。この男性がこれからどうやってレモネードを作っていくのか見届けたい。聞き流していたシーンを全て巻き戻し、第一話の冒頭から見返した。

この作品では、たくさんの登場人物があらゆる悲しみや挫折に直面しながらも精一杯、前を向いて生きる姿がオムニバス形式で描かれていた。ストーリーが進むにつれ、私自身も離婚という大きな挫折に直面しながらも、今必死に乗り越えて前に進もうとしているのだと思うようになった。

前に進むために、自分が変えようとしていることって何だろう?いくつかの観点で整理してみたいと思う。

新しい出会い、夢

同じ境遇の方に出会いたいと飛び込んだシングルマザーズシスターフッドでは、お互いを認め、高め合える仲間たちに出会うことができた。支援を待つのではなく、当事者として発信していくことで、シングルマザーひとり一人が自分らしく前向きに生きられる社会を実現したいと考えている。

全国の仲間とは主にオンラインで活動を共にしていたが、リアルに親子で対面する機会も少しずつ増えた。その中で、ひとり親家庭で育つ子どもたちが繋がり、自分の境遇をお互いを認め、高め合える場を作っていきたい、という新たな夢もできた。

また、想像していなかった嬉しい出会いもあった。未来を担う学生さんたちと活動をともにできたのだ。彼らの熱心で誠実な姿勢は子育て中のとてもよい刺激になり、これからやってくる明るい社会を垣間見た気がした。

このコミュニティを通じて、自主読書会のホストやコンポストにも挑戦するようになった生き物が大好きな息子と一緒に深めていけるテーマで、ワクワクしている。

働き方

離婚前は、元パートナーの収入もあり「仕事が本当に辛くなったら辞められる」と保険をかけながら、日々の業務をただ淡々とこなしていた。育休中にひとり親になり、生活のために仕事は絶対不可欠のものとなった。そして、「平日は元気に働き、休日は元気に息子と遊びたい」という想いから、自ずと体調管理を心掛けるようになった。

また、ひとりで保育園の送迎をするようになった今は勤務時間の制約がある。勤務中は誰よりも集中して業務にあたり、丁寧な引き継ぎを行うことをマイルールにした。

幼い息子との貴重な時間を割いて働く以上、惰性で仕事をこなしたくないと思うようになった。教育業界で働いているため、私が担当していることは小さいことでも、息子たちの未来に繋がる仕事だと思うと、身が引き締まり、やり甲斐を感じられるようになった。

感謝の想いを伝えること

離婚を経て疎遠になった人もいるが、つらい時に本当に支えてくれる家族や友人の存在を改めて知ることができた。優しさをくれた人には誠意をもってお返ししていきたいし、「目の前の人と丁寧に向き合いたい」と人間関係に対する考え方も変わった。

人生何があるか分からないし、当たり前なんてないことを、身をもって経験した。以前は照れくさくて感謝の想いをなかなか口に出来ないこともあったが、今は意識して口にすることを心がけている。一番のパートナーである息子には、たとえその日に喧嘩をしたとしても、毎晩寝る前に「生まれてきてくれてありがとう」と伝えている。

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私が5年前に受け取った酸っぱいレモン。思い切りよく輪切りにして、保存瓶でじっくり寝かせる。周りの人の優しさが、良い感じの甘味になりそう。

爽やかなソーダで割って、シュワシュワという音も楽しめる美味しいレモネードになりますように。

いつか私も、必要としている人に自分の作ったレモネードをそっと差し出せたらいいな、と思う。

今テレビドラマを見て真っ先に思い浮かぶのは、もうあの悲惨なワンシーンではない。酸っぱいレモンと、美味しそうなレモネードだ。

たまたま出会えた名台詞に導かれるように、テレビドラマを自由に楽しめる私になった。

最後までお読みいただきありがとうございました。このエッセイは、シングルマザーズシスターフッドの寄付月間キャンペーン2022のために、haruさんが執筆しました。

寄付月間とは、「欲しい未来へ、寄付を贈ろう」を合言葉に毎年12月の1ケ月間、全国規模で行われる啓発キャンペーンです。シングルマザーズシスターフッドは寄付月間2022のアンバサダーにもなっています。

今年のキャンペーンでは「Turn lemons into lemonade.」をキャッチフレーズに、シングルマザーが試練を転機に変えたエピソードをエッセイにして、人生を前向きに進める一人ひとりのシングルマザーの生き方を祝福します。

ご共感くださった方はぜひ、私たちの取り組みを応援していただければ幸いです。ご寄付はこちらで受け付けております。

https://congrant.com/project/sisterhood/5833

  


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