見出し画像

プロが伴走してくれるセルフケアを、半年間受けてみた

🎙音読はこちら

執筆者:みるい

ドキドキしながら、電話番号を押す。

「もしもし」
「あのー、ホームページを見ていて。訪問看護ってやつを受けたいんですが…。私、出産から2年ぐらい経ってて。私でもこのサービス、使えるんですかね…?」

40歳の私のメンタルケアの訪問看護利用デビューは、おっかなびっくりの問い合わせからはじまった。

思い返せば、妊娠期も軽いうつだった。

急な妊娠で驚き、頭にもやがかかった状態だった。ただ、日常生活は送れていたし、当時はパートナーもいた。合意の上で、非婚で出産。婚姻届を出すという大きな決断はしきれなかったけど、自分としては「ふつうの出産」のつもりだった。

でも、出産してから状況が急変した。

年齢を重ねた身体での睡眠不足。1人目の育児で強烈な不安感。コロナの緊急事態宣言下。気軽に他人に頼れない。

必死に耐えていたら、病状が悪化。

いわゆる産後うつになった。

「お子さんかわいいですね〜」という他愛のない言葉に、自分の心臓を包丁でブスリと刺されるような傷みが走る。子どもを「かわいい」と思えない。「ママ失格」と焼き印を押された気がした。

睡眠薬を飲んで寝る。夜間の授乳で起きて、また睡眠薬で寝る。食事の味がしない。子どもと2人でいるのがつらい。強烈な焦燥感に耐える。この繰り返し。これは、なんの拷問なんだろう……?

自営業で、育休はない。産院にパソコンを持ち込んで仕事をしたりと実質産休もなかった。当然パートナーを思いやる余裕は全くなく、すれ違いが重なって今度は産後クライシスになった。

「ネグレクトじゃない?」「母としての準備が足りない」「何で我慢できないの?」「出ていけ」「ここにはいられない。他のマンションの契約してきた」「これは、家族じゃないよね?」

投げつけられた心無い言葉たち。反論する気力もない。自分に何が起きているのか、よくわからなかった。

病状はさらに悪化。

話し合いの上、私は子どもを連れて別の場所に住むことになった。とにかくパートナーと離れて自分のリズムを取り戻したかった。

療養のつもりで引っ越したはずの新しい暮らしは、思った以上にハードだった。

知人に「どうしたの?」と訊かれるのもつらい。近所の土地勘もなかなか得られず、スーパーもコンビニも、Googleマップで検索する日々。日常生活すら精一杯で、自分のキャパはあっという間に限界ギリギリになった。

これは、まずいぞ。

出産してからずーっとまずいぞと思い続けていたけれど、いよいよまずい。どうしよう。困った……。

そんなときに、Twitter上で偶然見つけたのが「母子支援に力を入れた訪問看護」だった。

うつ病の治療は、妊娠期からしていた。カウンセリングも受けた。地区の保健師さんともつながった。子育て相談にも行った。探し回ったけれど、かゆいところに手が届くような、伴走してくれる人には出会えずにいた。

どれもその場では傾聴してくれるが、点の支援なのだ。それで育児がラクになるわけではない。必要なのは、線や面での具体的なサポートだったのだと思う。

伴走を期待していた元パートナーも今や離れていってしまった。

途方に暮れていた私にとって、1週間に数回来てもらえる「訪問看護」はとても魅力的に感じた。ダメ元で、「自分の住んでいる自治体名 母子支援 訪問看護」で検索したところ、ヒット。地域ニュースの取材記事も見つかった。これは、私に必要な線や面での支援かもしれない……!

1週間悩んだ末に、エイヤと勇気を振り絞って受話器を取った。そうして、冒頭のドキドキしながらの問い合わせは、私の体調を整える転機になった。それから半年。だいたい週3回、1回1時間の訪問看護を受けている。

親にも友達にも言いにくい、かといって月1のカウンセリングで話すほどでもない日々のしんどかったこと、楽しかったこと、気がついたことを話し続けた。体調は上下するけれど、毎回話し続けることで、考え方のクセを知ることができた。

この「訪問看護*1」という制度。実は、医療保険が使えるのだ。病院にいくときに保険証を出して自己負担分だけを支払う。あれと同じ感覚だ。主治医の依頼があれば受けられ、自宅に来てくれる。

心のケアだと、「自立支援受給者証」というのがあれば、費用も1割負担*3*4。上限額も低めに設定されている。なのに、自分で問い合わせしてきた人は「本当にはじめて」とのこと*2。出産した病院や保健師からの紹介で受け始める人が多いようだ。

私はこの制度を使ってみて、プロの目線を入れたセルフケアはとっても有効で、それがこのようにライトにできることは多くの人を救うんじゃないかと感じている。私を冷静に見てくれるプロが、近くにいる。地縁が薄い場所で相談できる人に恵まれなくても、 セーフティーネットが作れる。これはすごいことだと思う。

でも、「訪問看護」を受けているって、すごく深刻そうに聞こえてしまうので、私はごく身内の人にしか伝えられていない。だからこそ、言いたい。「訪問看護」を使ったセルフケアが、もっと身近になったらいいのにな。

悩んでいるあなたに、届きますように最後に参考情報を記載しておきます。

参考情報
*1 訪問看護とは?を知りたい方へ
こちらにわかりやすくまとまっています。看護の資格を持つ専門職が、自宅に来てくれます。
*2 メンタルケアで訪問看護を依頼する方法(自分で希望する場合)
目星をつけた訪問看護ステーションに電話。空き状況や対応可否を聞く。→メンタルクリニックの主治医の先生に「訪問看護指示書」をもらう。→訪問看護指示書を訪問看護ステーションに届けたら、その日から利用可。
※メンタルクリニック受診歴がなくても、自費でケアを受けることも可能。産後まもない乳児がいる場合は、産婦人科医の指示書での訪問が可能なこともある。まずは、訪問看護ステーションに相談を。ホームページに「家族みんなをケア」「母子支援」などのキーワードがあると話がスムーズです。
*3 自立支援受給者証とは
メンタルケアの医療を一定期間受けている人のほぼすべてに交付され、通院にかかる医療費の負担を軽減できます。参考までに私の場合は、お薬と通院と訪問看護をぜーんぶひっくるめてひと月の負担が1万円ぐらい。(所得に応じて金額は変動します。5000円のときもありました)
*4 自立支援受給者証の発行してもらう方法
お住まいの自治体名+自立支援受給者証で検索を。具体的な申請方法が確認できる。子どもが小さく、地区の保健師とつながりがある場合はその保健師さん経由でも確認できる。私はとってもつらい時期だったので、書類も地区の保健センターの窓口で書く項目をその場で教えてもらいながら作成した。

〜ご寄付のお願い〜
エッセイを最後までお読みいただきありがとうございました。このエッセイは、Mother's Dayキャンペーン2023のために、みるいさんが執筆しました。NPO法人シングルマザーズシスターフッドは、ひとり親の心と身体の健康を支援する団体です。毎年5月に、セルフケアの大切さを呼びかけ、応援の寄付を募集するキャンペーンを実施しています。応援していただければ幸いです。寄付ページはこちらでご覧いただけます。

NPO法人シングルマザーズシスターフッド


よろしければサポートお願いします。いただいたサポートはひとり親の心身のセルフケアとエンパワメントの支援活動に使わせていただきます。