『ひとり親けんこう白書』第4章 コミュニティへの貢献
恩返しの気持ちを
形にする喜び
前頁では「セルフケア、学び、貢献」の循環をご紹介しました。「貢献」というとハードルが高いと感じる人もいるかもしれません。しかし多くのシングルマザーは、自分がさまざまな助けを得てここまで来たから、何らかの貢献をして、恩返しがしたいという気持ちを持っています。誰かに助けられて「恩返しをしたい」と思ったときに、その恩返しができない状態はかえってストレスにもなります。
仲間と協力して、自分の力を発揮し、何かを成し遂げたり、それが誰かをサポートすることにつながったりすることは、大きな喜びとなり、自己肯定感を高める要因にもなります。
安心できるコミュニティで
自分のできることをする
海外でリーダーシップについての勉強会に参加したとき、司会者が「Speaking up is a form of contribution.(発言することは貢献です)」と話したことが印象に残っています。「自分の意見を述べる」「質問をする」、といったことも、その場への貢献になるのです。小さなコミュニティのなかで、信頼できる仲間に対して、自分のできることをする、ということから、すでに「貢献」は始まっています。
身近な生活の中では「PTAの委員や役員を引き受ける」「制服リサイクルの活動にスタッフとして参加する」「食料配布会のお手伝いをする」など、地域の活動に関わることも、大きな貢献です。
支援活動の現場で
貢献の機会をつくる
シングルマザー向けのサービスの多くは、参加費が無料で、運営費は寄付金や助成金でカバーされています。参加者がそのサービスを利用するとき、そういった運営の舞台裏に思いをはせる人はどのくらいいるでしょうか? シングルマザー当事者は支援活動の「受益者」とされ、運営に関わることは想定されていないことがほとんどです。しかし、支援者と被支援者の役割が固定化することは、人が自分らしく自立して生きていくことを妨げるという弊害もあります。「真の支援とは何か?」が問われているのです。
シングルマザーズシスターフッドでは、「支援者/被支援者」の役割が固定化されないよう、支援を受けた人が支援する側にもなれるという場を作ってきました。そのひとつが年に二回の寄付集めのキャンペーンです。次世代のシングルマザーのために何か役に立ちたいという人を募り、毎年五月と十二月に、シングルマザーが自分の体験を「エッセイ」という形で執筆して発表し、活動資金の寄付を募るというキャンペーンを展開しています。そこでは、エッセイを書く執筆者として、または、エッセイの校正や広報を担うスタッフとして、さまざまな貢献の機会を用意しています。
参加メンバーはそれぞれが、仕事に子育てに忙しい現役のシングルマザー。決して、物理的にも気持ち的にも余裕があるわけではありません。「楽しそう」「ワクワクする」という前向きな気持ちの人もいれば、「本当に役に立てるのかな」と不安を抱えながらの人もいます。ですが、何らかの形で貢献したいという気持ちは共通しています。貢献したい、と思っても自分ひとりでその機会を作り出すことは難しい。だからこそ「恩返ししたい気持ち」を形にできるような貢献の場を、支援団体が用意することは大切です。それは自立への道すじを支援することにもつながります。
職場と家庭以外の
第3の場を持つ効果
前述した寄付集めのキャンペーンの参加者にインタビューしたところ「こんなにおもしろいことが世の中にはあったんだ」「プロジェクトに参加して前向きになった」「堂々と生きていきたいと思うようになった」など、前向きな言葉が語られました。親子関係が改善したという声もありました。母親が学び、貢献する姿を見せることは、子どもにとっても良い影響があるようです。
就労機会の向上やキャリアアップにつながったケースもありました。クラウドツールが使えるようになったり、チームで大きな目標に向かう面白さを経験したことは、新たな世界へ踏み込む勇気を与えてくれたようです。ここで得たスキルを職場で活かし、更なる信頼と評価を得たスタッフもいました。
「仕事に育児にと忙しいシングルマザーが、さらに貢献の場を持つなんて大変じゃないですか?」という意見もあるかもしれません。しかし、職場、家庭以外の第三の場があり、そこが安心できる、安全な場であり、こころざしを同じくする仲間が集まっていて、前向きなエネルギーをもらえるような刺激的な場であれば、それは仕事にも育児にも良い影響がもたらされるのです。
そのような場は、自然発生的にできることはありません。あらゆる工夫をして意図的にデザインする必要があります。そういった場づくりの工夫こそ、これからの支援現場に求められることではないでしょうか。
以上、第4章コミュニティへの貢献のページをご紹介しました。次回は、セルフケアコラム3:役割という服を脱いで(執筆者 檸檬)をご紹介します。
https://www.singlemomssisterhood.org/singlemoms-health
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