勝手にキャンセルしないでよ!
ちょうど10年前の今日は四国の高松市にいました。
忘れられない貴重な経験をしましたので、未だによく覚えているのです。
当時は製薬会社のマーケティング担当として、毎日のように全国を飛び回っていました。建前上は仕事と言うことにしていましたが、正直何をしていたのかよく覚えていません。
現地で働く営業マンと夜な夜な盛り場へと繰り出す日々。そんな生活をほぼ毎日していたのですから、血糖値は上がり続け、財布の中は減り続けてしまうのは、火を見るより明らかです。
この日は何かのお祭りだったのか、いつも常宿にしていたホテルが予約できない。何故かどこのホテルも予約でいっぱいでした。しかし、幸運にも1部屋だけ予約することができたのですが、初めて泊まるホテルで予算的にもかなりオーバー。
まぁ仕方ない。
たまにはそう言うこともあるものだ。
折角なんでリッチな高松を楽しんじゃえ!って思っていたのだと思います。
そそくさと仕事を済ませて、まだ日が高いと言うのに、頭の中は名物の骨付鳥「一鶴」のことでいっぱいだった。予約時間までは随分時間があるので、早めにホテルにチェックインしてシャワーでも浴びよう。
そう思っていた。
いつもと違い少し豪華なホテル。
受付カウンターには素敵なスタッフが揃っている。
「ゆーじと申します、チェックインお願いします」
「少々お待ちください...」受付スタッフが首を傾げながらパソコンをパチパチ叩いてる。暫くすると、他のスタッフたちが集まって何やらこそこそ話している。
どうしたんだろう。早く部屋に行ってシャワーを浴びたいんだけどな。
更に待たされる。何か変だ。
「あのぅ、ゆーじ様ですよね」
「はい」
「30分ほど前にお電話でキャンセルのご連絡を頂いたと思いますが...」
「はぁ、そんなはずはないですよ」
「お電話番号は、080-XXXC-XXXXでお間違い無いでしょうか」
「はい、間違いございません」
「確かにこちらのお電話からキャンセルのご連絡を頂いているようですが」
どうなっているのだろう。確かに僕の携帯番号だ。
改めて自分の携帯電話の発信履歴が無いことを見せながら説明しても、既にキャンセルされている。この日は何故かどこのホテルも予約でいっぱいで、既に僕の予約した部屋も誰かに予約されていた。
「えー困りました。どんな方からのお電話でしたでしょうか」
少し腹が立ったのでスタッフに伺ってみたところ、電話をかけたのは女性らしかった。
「女性?」
僕の予約したホテルを知らない女性がキャンセルしている。
このホテルを予約していることは現地の営業担当者しか知らない。
彼はずっと一緒にいたし、今もホテルのロビーで僕のチェックインを待っている。
暫くすると、フロントの裏にある事務所からホテルの支配人らしき紳士が現れました。状況をスタッフが説明すると、こう言い出しました。
「お客様、一部屋ならご用意できます。和室ですがよろしいでしょうか」と。
勿論、断る理由などない。
こんな素敵な洋風ホテルに和室なんてあるのかと驚いて見せた。
支配人の案内に従い、エレベーターに乗って後をついていくと、その部屋は客室のさらに先、大きなドアを通り抜けた角にありました。普段は誰も使っていない部屋だと言う。きっとこんな時のための予備の部屋なんだろう。
洋室の客室の廊下を通り過ぎたずっと先にある和室。
間違いなく別世界。廊下に電気もついておらず、明らかに陰気くさい。
部屋に入ると、8畳くらいの部屋が2部屋縦長で連なっており、正面には14型の赤いブラウン管のテレビと隣には古臭い鏡台が並んでいる。脇を見れば穴の空いた障子がピシッと閉まっている。
やだな。
第一印象でした。
結局、シャワーを浴びずに荷物だけを置いて骨付鳥「一鶴」へ向かった。
どうせ酔っ払って寝るだけなので、どんな部屋でも良かった。
部屋に戻ったのは深夜2時過ぎ。
酔ってはいましたが、やはり気持ち悪い。
シャワー室のドアを開けて、びっくりするほど早く入浴を済ませ寝ることにしました。
部屋の電気をつけたまま、鏡台にはバスタオルを掛け、破れた障子をしっかり閉め、布団は入り口に近い辺りに敷いて眠りについた。
朝は驚くほど早く訪れました。眩しい。
朝日が直に顔に差し込んだからです。時計を見るとまだ5時半。
あれ、寝る前に障子はちゃんと閉めたはず。でも全開に空いている。何で。
電気はつけたままになっているが、鏡台に掛けたバスタオルも落ちている。
なんで。僕が酔っ払っていたからなのか。
きっとそうだ。そうに違いない。でも何か変だ。
そう思い始めると、もう呑気に歯磨きなどしていられない。
寝癖を直すこともせず、3分で着替えを済ませてチェックアウトしよう。
エレベーターを降りると、ロビーには昨日の支配人の姿があった。
「おはようございます、大丈夫でしたか?」
「大丈夫とは?」
大丈夫ってなんだろう。
でも、それ以上聞きたくなかった。
きっと何かあるんだな。やっぱり何かあるんだ。
「お客様、本日の料金は結構でございます」
「あ、ありがとうございます」
ちょっぴり嬉しかった。
翌日は東京で会議があった。
飛行機を始発の便に変更して東京へと向かった。
その夜は同僚たちと新宿で昨夜の話で盛り上がった。
誰もが僕のホテルをキャンセルした女性が誰なのか気になるようで、僕を疑っていた。嘘をついているのではなく、女性トラブルを抱えているのではないかと。そんなはずはない。
同僚たちに反して幾分スッキリした。
今夜は泊まり慣れた西新宿のホテル。
昨夜は殆ど寝ていないし、会議で疲労困憊だったため、その日は1次会で失礼することにしました。
いつものようにチェックインしようとホテルカウンターへ。
「お客様、30分ほど前にキャンセルのお電話を頂いていますが...」
「え、またですか」
最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
世の中には不思議な出来事があります。
楽しく夏を満喫しましょうね。🌱
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