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金木犀は恋のおまじない

先日、京都のお寺を散策していると、突然懐かしい匂いがして来た。
ふと周りを見渡しても、何処から漂って来ているのか分からない。
でも、それが何の匂いであるのか身体が覚えている。
金木犀の香りだ。


毎年この時期になると心の何処かで期待している。
子供の頃、実家の庭先に金木犀が植っていたからだろうか。
御袋はこの香りが好きだった。
そして、僕も毎年一緒にその香りを楽しんだものです。


どんなに遠くからでもほんのりと香る。
夢中になって遊んでいても、夢中になって本を読んでいても、何処からともなくいつも気づかせてくれる。耳元で「こっちだよ」って声がするんです。


だから、つい振り返ってしまうのです。
そう言えば、御袋も金木犀の声がするって言ってたな。
どんな花の匂いとも違い、独特で半お入り口からスキッと頭の中に入り込んでくる。そのスキッとした強引さが「声」の様に感じるのでしょう。


眠いときも、お腹が空いたときも、疲れたときだって。
いつも「こっちだよ」って知らせてくれる。
だから、何をしていても手を止めて振り返るのです。


お寺の中でぼんやりと暫く佇んでいると、庭の手入れをしていた男性が声をかけて来た。


「今年はいつもより早くから香り出したんです」
僕が金木犀と会話しているのが分かったのだろうか。
「毎年、この時期になると、この辺りで足を止める方が多いのですよ、今年も良い香りがするんで、訪れる方は皆さんここで立ち止まるんです」


和かに語りかけてくれたのは、70歳過ぎの男性。
首から手ぬぐいをぶら下げ、少しだけ日焼けした顔は、如何にも花が好きだと言った感じが滲んでいる。


汗を拭きながら前方を指さして。
「もう少し前に進んでごらんなさい、もっと良い香りがするから」


男性に一礼して示された方へと進んでみると、大きな建造物の脇の一角に金木犀が群生していた。秋を感じさせる本物の香り。御袋の面影なのか。


「金木犀には不思議な力があるんだよ、おまじないなんだ」
「へぇ、どんなおまじないなの」
「そうだねぇ、大きくなっらた分かるおまじないだよ」
「ふぅん、変なの」


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金木犀には恋を叶える力がある。
ヨーロッパでは「恋の媚薬」としても使われているとか。
そんな事を知ったのは中学生になった頃。


ヨーロッパでは古くから人の潜在能力を引き出す花として注目されているとか。花の咲いた小枝を怪しげな儀式で使うと効果抜群。何かの記事で見かけたことがあります。


大きくなったら分かるおまじない。
御袋は何が言いたかったのか。「恋の媚薬」なのか「潜在能力」を引き出す魔力なのか。多分、前者なのだろうと思います。今となっては恥ずかしくてとても聞けません。


人間関係を良好にするおまじない。
そう考えると実にしっくりします。
恋でもビジネスでも今となっては良いじゃないか。
僕は兎に角、この金木犀の香りが大好き。


秋の豊穣を感じ、1年間頑張った自分のご褒美。
御袋が秋になるといつも口ずさんでいた。
もしかして御袋は恋をしていたのかな、それとも昔を思い出していたのか。


でも、はっきり覚えている。
親父が「トイレの芳香剤」の様だと軽はずみに発言したとき。
優しい御袋の顔色が変わった瞬間を。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
秋が深くなって来ました。短い秋を楽しみましょう。🍁


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