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プロレスリング・ノアの拳王選手の言葉と、斉藤ブラザーズのこと

 今朝の出来事。確か、午前9時過ぎだっただろうか。
 事務所から仕事場に向かう車の中、ラジオをつけると聞き覚えのある人の声がした。
 プロレスリング・ノアの拳王選手だった。
 来る2月4日、プロレスリング・ノアの仙台大会が開催される。その宣伝を兼ねてだろう。仙台ローカルのFMラジオ番組にゲストとして出演していたのだ。事前にチェックしていなかったので途中からしか聞けなかったのだが、仕事時間に好きなプロレスラーの声を聞けるのは思いがけないご褒美のようで嬉しい。
 今のノアの選手達のこと、仙台大会のことを自身のYouTube「拳王チャンネル」の時と同じ明るい口調で語っていた拳王選手だったが、ほんの一瞬だけ、口調がやや厳しくなった時があった。
 それは、インタビュアーが拳王選手の新日本プロレス出場の可能性を尋ねた時だった。それも、「いつかは〝あの”新日本のリングへ?!」的なニュアンスで。

 「どうして?」

 拳王選手は、即座に問い返した。
 それは、何故そんな失礼なことを聞くのかと問うような鋭い口調だった。
 けれど、そのすぐ後に、拳王選手はそれまでの柔らかく穏やかな口調に戻り、

 「俺はプロレスリング・ノアのリングが最高だと思ってるので、(新日本のリングに)上がる理由が無い」

 そうきっぱりと言い切った。
 ラジオなので、表情は分からない。けれど、拳王選手の誠実さと冷静さは、声からだけでも十分に伝わってきた。
 勿論、インタビュアーにも他意は無かったのだろう。空気を察したのか、新日云々という会話はそこで終わり、すぐに先ほどまでの和やかな雰囲気に戻っていた。

 嬉しかった。
 拳王選手、やっぱりカッコいいわ、と思った。




 小学生の頃にテレビで見た全日本プロレスをキッカケにプロレスファンになった私ではあるが、今ではどの団体にも好きな選手はいる。
 新日本プロレスに詳しくは無いけれど、みちのくプロレスやDDTプロレスリングに参戦しての試合を見て以来、高橋ヒロム選手は大好きなプロレスラーの中の一人だ。

 けれど、団体に優劣をつけるのは、正直なところ苦手である。マスメディアの扱いは勿論、ファン同士の会話の中であっても。

 勿論、東京ドームで単独大会を開催できる新日本プロレスの凄さは理解している。所属する選手層の幅広さも、マスメディアでの取り上げられ方も、またマスメディアでの受け答えも、やはりメジャー団体だな、凄いなと思う。
 けれど、新日本プロレスだけが凄いんじゃない。
 まして、新日本のリングに上がるか否かが、レスラーの価値を決める基準では無いと思う。

 大きな会場で開催される試合が、良い試合じゃない。
 それは、北海道の地方都市の小さな会場で、その街のファン一人一人を大切にしながらリング上での試合で魅力し楽しませてくれた大日本プロレスや当時の全日本プロレス、そこに参戦していたDDTやみちのくプロレスといった各団体の選手達が、言葉ではなく姿勢で、そしてリング上から教えてくれたことだ。

 プロレスの強さ、カッコよさ、楽しさ、そして人間としての魅力。
 私はそういったものを見せてくれるプロレスラーが好きだ。
 そんなプロレスが見たくて会場に足を運んできたし、今もまた足を運んでいる。
 コロナ禍で会場での観戦から足が遠のいてしまった時期もあったけれど、その気持ちはずっと変わらない。




 昨年来、全日本プロレスからの選手の退団や他団体への移籍が大きな話題となっている。
 けれど今、宮城県では、ミヤギテレビで放送中の夕方ワイド番組「OH!バンデス」において、宮城県角田市出身で全日本プロレス所属の双子の兄弟プロレスラー、斉藤ジュン選手と斉藤レイ選手の「斉藤ブラザーズ」が大人気である。


 番組は宮城県内の放送だが、配信動画で視聴しているファンも多く全国的に話題となっているようだ。
 とはいえ、やはり地元での人気は別格。
 実際、私もつい先日、仕事関係の場でこれまでプロレスに全く興味の無かった人達から
 「シノブさん、プロレス好きだったよね?斉藤ブラザーズも見たことあるの?」
と聞かれた。

 「はい、去年見ました。」
 「え?角田の?!(昨年10月、斉藤ブラザーズは故郷・宮城県角田市での全日本プロレス大会において世界タッグ王座を初戴冠しており、先述の番組の冒頭ではその時の様子がいつも流れている)」
 「いや、私が見に行ったのは、他の団体に参戦した時の試合だったんですけど(昨年11月、DDT両国国技館に斉藤ブラザーズが参戦していた)」
 「えーでも見てるんだ。いいなぁー。」

 羨ましがられることこの上ない。気付けば周囲の人達からも羨望のまなざしを向けられていた。

 プロレスファンにとっては、リング上での強さ、カッコよさ(これは体格の良さやルックスの良さといった生まれ持っての強みも含めてだが)によって人気を博したのは言うまでもないが、この番組において彼等がこれほどまでに人気を博したのは、ひとえに番組でのやり取りから滲み出るその人柄ゆえだと思う。

 スタッフの方々やタクシードライバーへの真摯な態度。
(彼らは必ず「運転手さん」と呼んでいる)。

 言葉遣いの正しさと誠実さ。
(スタッフやお店の方との会話は常に敬語。)

 そして何より、きれいな食べ方。
(常に大盛りメニューを注文し残さず食べるのだが、いわゆる大食い番組等にありがちな豪快な食べ方ではなく、なんというか、品が良いのだ。食事中は声量控えめ。その代わり表情豊かに美味しさを表現し、ごはんつぶひとつ残さず完食するのである。これが美しい。)

 リング上での激しい闘いの映像の後に、こんな姿を毎週テレビで見せられるのである。
 絵に描いたようなギャップ萌え。老若男女問わず好感度アップは当然である。


 リング上の闘いやファンサービスでプロレスファンの心を掴むのは当然のことだけれど、プロレスに全く興味の無い人の心を掴むのは、実力プラスアルファの何かなのかもしれない。それが、今回の斉藤ブラザーズの場合は「人柄」だったのだろう。
 地元にいて彼等の人気を見ていると、いつの日か彼等はジャイアント馬場さんやアントニオ猪木さんのような「お茶の間のヒーロー」になるんじゃないかという気がしてくる。
 いや、彼等なら、なれる。
 なって欲しいと思う。




 こんな追い風の中、リング外の醜聞で選手に迷惑をかけるのだけは、やめて欲しいと思う。
 勿論、これは全日本に限らない。他の団体にも、同じように思う。
 どの団体にも、頑張って欲しい。
 余計な対立はいらない。それを煽る人達も。
 闘争は、リング上だけでいい。


 ようは、プロレス全体が盛り上がれば良いのだ。


 2月4日、私はプロレスリング・ノアの大会に行ってくる。
 拳王選手をはじめ、各選手の闘いを見て、応援して、楽しんでこようと思う。


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