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ご近所さんからの金華さば

 「シノブさん、魚持ってって!」

 石巻の義実家から自宅に戻る際、義母に声を掛けられた。
 手招きされて冷凍庫を見てみると、見るからに高そうな大きなメヌケの粕漬けや銀鮭などの切身がきれいに真空パックに入って冷凍されている。
 どれも、年末にご近所さんからいただいたのだという。

 「こんなにあっても一人で食べきれないから。好きなの持って行って、二人で食べて。」

 そう言ってすすめてくれるが、冷凍なのだから本当は食べきれないなんてことは無い筈。
 いつものことながら、申し訳ないくらいにありがたい。

 「遠慮なくいただきます!でも、先にお義母さんが好きなの、選んでください。」
 「いやいや、好きなの持ってって?」
 「いやいやいやいや、お義母さんがいただいたんですから。」
 「いやいやいやいやいやいや・・・そう?じゃぁ、鮭。」

 にっこり笑って、銀鮭を選ぶ義母。
 そういえば、義母は以前も鮭が好きと言っていた気がする。次に帰ってくる時は何か鮭のおかずを持ってこようと思いながら、メヌケとサバの大きな切身が入ったパックをありがたくいただく。
 この日は他にも、ご近所の畑で採れたという大きな大根など、こちらから持って行った料理以上の量の食材をたっぷりいただいて帰宅した。


 帰宅後。
 いただいてきた魚をトロ箱から冷凍庫に移そうとした際、サバのパックに貼られている金色のシールに、初めて気が付いた。

 ビックリした。

 いただいてきたサバの切身は、ただのサバでは無かった。
 石巻産のマサバ、それも、今年は不漁がニュースにもなっていた貴重なブランドさばの「金華さば」だった。


 もしかして、義母は好きなものを選んだのではなく、一番高いものを持たせてくれたのではないだろうか。

 ・・・ありがたくいただく。

いただきもの天国の晩酌


 「デカいねぇ。ふわふわだねぇ。」

 夫が嬉しそうに言う。

 「美味しいねぇ。」

 それしか言葉が出ない。
 冷凍の品とはいえ、さすが金華さば。いただいたのは金華さばの一夜干しを冷凍したものだったのだが、干物になっても厚みがあり、ぎゅっと引き締まった身は旨味たっぷり、食べ応え十分。
 嬉しい美味しさだった。


 この日は、石巻でいただいてきた大根も、先に「浜の駅松川浦」で買ってきた天宝という大きな揚げ蒲鉾と年末に買っておいた北海道産の昆布と一緒に煮ていただいた。
 いただきものの大根は、切ると断面から水分がじんわり染み出すほどにみずみずしく新鮮で、煮ても甘味たっぷりだった。刻み野菜が入った相馬の揚げ蒲鉾もぷりっぷりで食べ応え満点。昆布の旨味に揚げ蒲鉾の旨味も相まって、料理上手になったと錯覚してしまいそうなくらい美味しい煮物になった。
 セロリは義実家からではないのだが、これもいただきもの。松島の農家さんからのおすそ分けだという。切って電子レンジで蒸して「道の駅なみえ」で買ってきた浜の輝たまねぎポン酢ドレッシングをたっぷりかければ、もうそれだけで美味しい。

 贅沢過ぎるいただきものと、福島で買ってきた食材で、この日も幸せな晩酌のひとときを過ごした。



 金華さばのニュースを見ていると、どんな魚も野菜も、今食べているものがこれから先もずっと食べられるとは限らないのだよなぁとあらためて思う。
 そもそも、食べられるものが身近にあるということ自体とても恵まれていることで、決して「当たり前」なんかじゃない。

 これからも、身近な食材に感謝して、美味しく食べて楽しく暮らしてゆきたいと思う。

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