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【エッセイ】一匹長屋のこと

 2月の終わりに、今は無きライブハウスのことを書いておこうと思う。
 北海道小樽市にあったライブハウス「一匹長屋」に私が初めてライブを観に行ったのは、2001年の2月だった。
 そこは、私にとってかけがえのない大切な場所だった。



 私がギターを手にし地元の小さなライブバー等で自作曲を弾き語るという音楽活動を始めたのは、2000年。30歳目前での音楽活動スタートだった。
 日頃は地元のアマチュア音楽愛好家がフォークソングのカバーを楽しみ、時には全国を旅するプロミュージシャンもステージに立つ、いわゆる「フォーク酒場」的な場所は、全国各地にいくつもある。そんなお店の中のひとつにたまたま足を運ぶようになった私が「自分もやってみたい」と思うまでには、さほど時間はかからなかった。
 最初は、周囲の人達と同じように、中島みゆきさんやさだまさしさんといった自分の好きだったミュージシャンのカバーを練習し、常連客の集まりに混じって披露していた。
 けれど、もともと書くことが好きでエッセイ的な文章や詩を誰に見せるともなく書き続けていた私は、ギターを手にして半年ほど経った頃にはオリジナル曲を作って歌うようになっていた。
 そんなある日、お店の方から、とあるライブの前座を務めてみないかと声を掛けられた。
 それは、当時から全国を旅しながらライブ活動を展開していて、今も変わらず歌い続けているプロミュージシャン・松山隆宏さんの札幌公演だった。
 今ではすっかり松山隆宏さんの音楽のファンになっている私だが、当時はまだ松山さんのことを知らなかった。
 前座をさせていただくのに全く知らないままなのは、失礼な気がした。
 会いたい。
 聴きたい。
 そして、ご挨拶した上で前座を務めさせていただきたい。
 松山隆宏さんの公式サイトで北海道ツアーのスケジュールを確認すると、札幌公演の前日に小樽でのライブがあった。
 小樽には、馴染みがあった。
 私が大学を出て最初に就職した会社は、小樽市の観光名所にもなっているガラス工芸品販売店だったからだ。


 前座を務めさせていただくライブの前日、私は仕事を終えると大急ぎで駅に向かい、小樽行の列車に飛び乗った。
 松山隆宏さんのライブを見るために。

 その時のライブ会場が、一匹長屋だった。


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