きっかけはどうであれ、美味しくいただけるのが一番
コロナ禍初期に三陸産の海の幸をお取り寄せしたら、引きこもり生活が天国になったことがある。
私がまだ北海道オホーツク海側の街で一人暮らしをしていた、2020年のこと。
年明け早々から、ニュースでは中国で感染症が発生していることについて報じる時間が増えていた。やがて、船内で感染者が発生したため横浜港に入港したまま隔離措置がとられたイギリス船籍のクルーズ客船・ダイヤモンドプリンセス号について、特にその船内での感染の広がりについて、連日大きく報じられるようになった。
賛否両論渦巻く中で開催されたさっぽろ雪まつり。中国武漢からの観光客が札幌で発熱・発症したと報じられたのを機に、北海道内では猛スピードで感染が広がっていった。
高齢者を中心に死者の数がどんどん増えてゆく中で、当時暮らしていた街でも、知人の勤務先の上司だった方が亡くなられた。札幌では、大学病院に勤務していた友人が、感染により一時危篤状態にもなった。
春を待たず、北海道独自の非常事態宣言発令。
春になり、感染者が全国に広がって全国に非常事態宣言が発令されるまでは、自分が他の都府県の人達から差別されていると身近な場面で感じることも何度かあったのを覚えている。
あの時期のことは、今はまだ冷静に振り返ることが出来ない。
正直なところ、思い出したくないというレベルを超えて、とっとと忘れたいのに恨みを忘れられないような嫌な出来事の方が圧倒的に多い。
けれど
そんな日々の中で始まった、数少ない楽しみのひとつが
「お取り寄せ」
だった。
東日本大震災以降、私は、ミュージック・セキュリティーズの震災復興支援ファンドを通じて、岩手の陸前高田市の商品を継続的に購入していた。
また、2015年からは音楽活動でも東北にご縁が出来てライブで足を運ぶ機会が増えたことから、ツアーで東北に出かけた際には必ず東北の食品を買って帰るようになった。
感染症の拡大防止のため、人の往来を控えるようにとの呼びかけがなされていたが、でもお取り寄せは出来る。
幸い、インフラ関連の職場にいた私はコロナ禍の影響で収入が減るということはなく、むしろ業務が増えたことにより残業代の分だけ収入が微増していた。
今は、みんな大変な時期。収入が微増した分は貯蓄などせず積極的に消費して経済を回すぞとばかり、私はせっせと東北の食品をお取り寄せするようになった。
ただし、当時の私が買っていたのは、海産物の缶詰や加工品だけ。
鮮魚をお取り寄せすることは無かった。
当時の私は一人暮らし。そして、今でこそ「切身より丸ごとの方が安い!」と魚をまるごと1匹買ってきては美味しく食べる暮らしを送っているが、当時は魚を捌くのがあまり得意ではなかった。
そんな私のもとに、ある日、宅配便でトロ箱が届いた。
注文した記憶は無かった。
けれど、開けた瞬間に私がとっさに思ったのは
「やっちまった」
だった。
記憶にはないが、寝ぼけていたか酔っていた時にネットで美味しそうな鮮魚の詰め合わせを見つけて、勢い余って注文してしまったに違いない。
そういうことを、私ならやりかねない。
「な~にぃ〜!?やっちまったな!」
私の脳内で、クールポコが威勢よく餅をつき始める。
しかし、そうではなかった。
その少し前、私はヤフーショップで宮城県の木の屋石巻水産さんの缶詰詰め合わせを購入していた。
その際、石巻の水産物が当たるキャンペーンが実施されていたのだ。
おぼろげながら、よみがえる記憶。そうだ。注文の際に「キャンペーンに応募しますか?」のボタンが表示されてたんだ。そして私は迷うことなく「はい」を押した。押していた。間違いなく。タダで美味しいものが貰えるかもしれないキャンペーンに、私が応募しない理由が無い。
「やっちまった」わけではないことが分かってほっとしたものの、さて、どうやって捌くか。
いや、それ以前に、これ、一人で食べきれるのか?
普段だったら地元の友人達にすぐ連絡してお裾分けするところだが、当時はそんなことすらも躊躇われる状況である。
しかし、ありがたいことに、鮮魚はすべてワタとウロコが取られて丁寧に下処理済だった。
さらに、トロ箱の中には、それぞれの美味しい食べ方と保存法も記されていた。
ここまでしていただいて、美味しく食べなかったらバチが当たる。
私はネットで魚の捌き方と調理法を検索した。
そして、それまで頻繁に通っていた「ライブ」という習慣が無くなり、会社と自宅の往復以外は完全に引きこもりのようになっていた自分の生活に、「帰宅後に自分で魚を調理して食べる」という新たな習慣を追加した。
自分で初めて調理して食べた石巻の魚は、どれも本当に美味しかった。
今でこそ頻繁に買ってきて焼いて食べているイシモチという魚を初めて知ったのも、この時。あまりに美味しくて、大袈裟でなく本当にビックリした。
そして、大きなサバは、煮付にすると身がギュッと締まって食べ応え満点。味は、それまでに食べてきたどんなサバよりも濃厚な美味しさだった。それまでも缶詰では美味しさを体験してはいたものの、三陸のサバって凄い、と本当に実感したのは、この時だった。
結果、トロ箱いっぱいの海産物を、私は残さず美味しくいただくことが出来た。
あの時の経験があったから、私は今、宮城で魚を毎日料理して食べる暮らしを楽しむことが出来ているのだと思う。
コロナ禍なんて、無い方が良かった。
それは、絶対にそう思う。今も。
けれど、きっかけがどんなに辛い出来事だったとしても、今、こうして宮城で暮らしながら、宮城をはじめとした各地の海産物を美味しくいただくことが出来ているのは、幸せなことだと思う。
お魚を料理することを楽しめるようになって、本当に良かった。
さんざん辛い思いをしてきたのだから、少しぐらいは良い思いをしなくちゃね。
さぁ今日も美味しく魚を食べよう!
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