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おちあいろう(静岡・湯ヶ島温泉)宿泊記*2017年1月

建築と文学の歴史的価値をきちんと後世に伝えている文化財の宿


今回訪れた「落合楼村上(現・おちあいろう)」は、伊豆半島のちょうど真ん中あたりの湯ヶ島温泉郷に明治初期に創業した旅館です。昭和初期に大改築を行った際に建築されたものが、現在国の登録有形文化財に指定されています。

文化財の登録は“宿全体”という括りではなく、階段や門など個別に指定されるとのことで、こちらの宿では計7か所が登録されているそうです。いわゆる「文化財の宿」と銘打っている旅館は全国にいくつもありますが、客室そのものが登録されていて、文化財の中で寝泊まりできるのはここだけだそうです。

[客室]広い前室のある不思議な造りの客室

今回泊まった部屋は、全15室あるうちの一つ「足湯付き客室」です。

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客室入り口の引き戸を開けると、玄関ではなく、まず書斎や小上がりのある7〜8畳ほどの板張りの前室が現れます。

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そしてその奥にもう一つ引き戸があり、そちらを開けると玄関と客室になっているという、少し変わった間取りのお部屋です。

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手前の前室はプライベートスペースなのですが、鴨居から天井までが開いていて空調もないため冬場は寒く、館内の廊下を歩く人の気配を常に感じるため、居心地がいい空間とはいえません。昔のガラス窓独特の揺らいだ光が差し込み雰囲気は良いのですが、つくづく不思議な部屋です。

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10畳の和室のお部屋は、畳に床暖房が入っていて暖かいのですが、畳が若干古く、あちこちすり減っていたのがやや残念でした。

[温泉]源泉掛け流しの部屋風呂と、テラスに足湯が。

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部屋のお風呂は一般的な家庭のお風呂場のような浴槽ですが、源泉掛け流しの温泉になっています。

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また部屋の名前にある通り、濡れ縁には足湯があり、目の前を流れる狩野川のせせらぎを眺めながら足湯を楽しむことができます。

大浴場は、男女入替制のお風呂が2か所と、貸切の露天風呂があります。

貸切のほうは予約制で、1組40分無料で利用できます。少人数で貸し切るにはもったいないほど広い露天の岩風呂で、少しぬるめのお湯でしたが長い間じっと入っていられる心地よいものでした。ただ、着替えの時間や鍵の受け渡し・返却などを考えると、40分という時間はやや慌ただしく感じました。

男女入替制のお風呂は、目の細かいモザイクタイル張りのレトロな雰囲気の「モダンタイル大浴場」と、荒々しい岩肌の洞窟風呂「天狗の湯」です。「モダンタイル大浴場」は、パステル調の色合いのタイルで浴室内が明るく、天井も高いため開放的な雰囲気ですが、一方の洞窟風呂は、暗く湯けむりが立ちこめる4〜5メートルほどの岩のトンネルに入ってお湯を楽しむので、まったく雰囲気の異なる2つのお風呂を堪能できます。洞窟を抜けると広い露天風呂へと出られ、ちょっとしたアトラクションの気分も味わえました。

[食事]地元の食材を生かした上質な懐石料理

食事は夕朝食とも別室の食事処でいただきました。食事をした部屋はコネクティングルームを仕切った客室で、こちらが空室の日には食事処として機能させているようです。

料理は上質な懐石料理で、先付けで天城の猪の角煮が出たり、お造りでは沼津港で揚がった鮮魚が供されたり、山の幸も海の幸も新鮮に手に入る中伊豆という立地を活かし、豊かな地物食材をふんだんに用いているのが印象的でした。お造りのときに仲居さんが丁寧におろしてくださった天城本ワサビは、締めの白米にも合うとのことで、最後まで取っておいてワサビ丼にしておいしくいただきました。

また、朝食で印象に残っているのは、この宿の名物「具の無い味噌汁」です。説明をされないと驚いてしまいますが、出汁にこだわり、出汁と味噌の味だけを堪能してほしいとの理由から、あえて具を入れていないそうです。この日はアジの煮干で出汁を取っていましたが、おかげでアジ独特の風味をしっかり意識しながらいただくことができました。途中から魚粉と岩海苔を足せるよう別に用意されているので、1杯でいろいろな味を楽しむこともできます。

[施設]登録有形文化財をめぐる館内ツアーは必見!

10時のチェックアウト後に、宿のサービスで文化財見学ツアーを開催しており、希望者は参加できます。スタッフの方のガイドで、普段立ち入れない部屋や大広間など、文化財に指定されている場所を丁寧に回る、1時間弱のツアーです。

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釘を一本も使わずに建てられた本館、世界的にも類を見ないほどの太さの紫檀の柱、自分が泊まった部屋にもあった職人渾身の技が光る組子障子など、説明を受けて改めて文化財としての価値を知ることができ、本当に勉強になりました。

本音を言うならば、チェックアウト後ではなく、できればチェックイン直後に知りたいエピソードばかりでした。ある程度の情報は宿のサイトで知ることができるので、ぜひ行かれる前に“予習”しておくと良いかと思います。知らずに宿泊するのとはまったく違った楽しみ方ができると思います。そして文化財ツアーに参加されることを強くおすすめします。

スタッフはどの方も、私たちが初めての客と分かると、とても楽しそうに宿の施設や調度品についてお話してくださり、担当の仲居さんもこちらから頼み事がしやすい気さくな雰囲気の方で、非常に快適な滞在が叶いました。

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この宿は、かつて多くの文豪たちが逗留していて、彼らの当時の逸話も豊富で、歴史や文学が好きな方には、相当興味深い場所だと思います。また、文化財だけあり重厚で優美な造りの宿なので、お祝い事や、年配の方を招待するなど、かしこまった旅にもおすすめです。

※内容と写真は2017年当時の情報です。ご了承ください。2019年にリニューアルオープンされたそうなので、またぜひ伺いたいです。

※料理写真が紛失してしまいましたスミマセン。

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