死にゆく者の祈り
【死にゆく者の祈り】
『中山七里』
少し前にもどこかの記事で書いたが、読書熱が出て一気にたくさんの本を読んでしまうとそれだけの成果は得られるが同時に感想を書く気力が削がれて新鮮な感想を残すことが出来なくなる。
人間の記憶力ほど曖昧なものはないとこの24年の生涯を歩む中で身をもって知らしめられてきたというのにそれをメモすることで書き留めることすら疎かにするのだから結局趣味にすら没頭できず何もかもを舐め腐り楽しみを自ら潰していくのかなどと発作のような自己嫌悪に陥る始末。
しかしこうして続けざまに本を読める自分のことは少し好きな自覚があるので、今回も読めてよかった。
中山七里の作品を読むのは二度目で、前回は護られなかったものたちへを読んで、それが初めてとなっていた。
その時の感想を既に今思い出すことが出来ないのだから本当にもう適当なやつだ。私は。
ただ泣いた記憶があったのと、同時に叙述トリックへの嫌悪をひしひしと抱いた記憶があったので、叙述トリックでない彼の作品をまた読みたいと思っていた手前、本書を読むことが出来て良かった。
だが帯には「大どんでん返し」の文字。
解説を読むに著者はどんでん返しの帝王の異名を持つらしい。
嫌な予感……。
結論、嫌な予感は程々に的中する。
やはりどんでん返しというか、最後の最後で怒涛の展開になるのはこの作者の醍醐味みたいなものらしいが、私は最後まで読んできたこれまでが一気に覆される様は、何度も言っているがこれまで大事に辿ってきた奇跡を足蹴にされているようで好まない。
今回も、正直語り手が一人で一貫性があり、そこは私の好きな要点なのだが、どうにもペースがスローだった気がする。
もちろん真実に迫るのは容易なことでないのでたくさんのページ数を使って存分に真実までを書き表してほしいものだが、実際真実に迫るのはほんの数行程度、それも、そんなこと普通は分からないでしょう。の展開なので、長々と語る割には現実性がなく、白ける。
実際教誨師という職業や立場は詳しく調べてないから分からないけど、こんな融通の利くものなわけがないし、刑事ひとりが非公式で捜査ですなんて言って調査することは法律違反なのでは……。今回は真犯人がいたからよかったものの、結局真犯人が分からず終わってしまうのならただ犯罪者を増やしただけだし、関根も中途半端にした覚悟を踏み躙られて死ぬことになっただろうし、真犯人自体も最後までニッコリで終わってしまっただろうに……。
逆にそっちの方が現実性があり残酷でよかったかもしれない。
しかしきっとこの作者はスカッと終わらせてくれるのだろうな。
前回もそうだったけど、主人公の相棒役として出てきてくれる役が心底心強くて読んでいてキュンキュンときめくなどした。
頭のいい人は好きだ。
同時に、語り手の心情は僧侶の心情を表現してくれており到底自分には考えの及ばない心情表現なので、知らない世界が覗き見れて楽しかった。
坊主さんはそんなふうに考えるのかとかいう視点で見れるのも楽しいし、結局要は人間なんだなと出家したにも関わらずエゴで動く主人公の気持ちを読んでるのが楽しかった。
ただやっぱり長く引っ張りすぎたわりには呆気なさすぎて、もう少し短くても良かったんじゃないかと思う。
現実みがないことなんて小説では当たり前なのでそこを酷評したいわけではなく、長々と付き合わされたわりには短文で呆気ないのが哀しかったという感想。
しかし最近読んでいたなかでは好きな部類なので、彼の小説をまた読もうと思う。
以上。