明日なおるものではないから。
病気知らずというわけではないけれど、若いころは重篤な病気を経験してこなかった。熱が出ても1日や2日経てば引いたし、それこそインフルエンザだって薬を飲んで寝ていれば回復した。
それが、30代半ばあたりからだんだんと体力の衰えを感じ、40を過ぎたあたりから慢性的な疲労を抱えるようになった。
そして、突発性難聴になって、自分の生活に耳鳴りが加わった。片耳難聴の場合は耳鳴りが解消されることは少ないようなので、たぶん一生付き合っていかなくてはならないだろう。
それでも、耳鳴り、めまいがひどかった最初の頃よりは、ほんの少しずつ、体調はよくなってきている。
突発性難聴になった直後以来、数ヶ月ぶりに会った友人に
「前に会ったときより顔色がずいぶんよくなったね」
と言われた。
「それはそう。でも、調子よくなったと思ったら急に耳鳴りがひどかったり不安感に襲われたりする日もあって。なかなか治らないよ」
と私が返すと、彼女はこんなことを言った。
「そりゃそうだよ。明日よくなるってものではないから。治すんじゃなくて、今の状況にだんだん自分を合わせていく感じかな」
私が彼女と知り合ったのは30代になってからだけど、彼女は10代のころから双極性障害を患い、学校や仕事に行けずにずっと部屋にこもっていた時期もあるという。体や心の限界を知ってどううまく付き合うかということに関しては、私よりずっとエキスパートだと言えるかもしれない。彼女は「とにかく焦らないこと」と付け加えた。
若いころのように、休めば元通りになるわけではない。治療すれば完治するというものでもない。なのに私は治さなきゃと焦るような気持ちになっていた……。ああもう、つい最近、「どうにもならないことをどうにかしようとしない」と気づいたばかりだというのに。むしろ、治そうとがんばらないことが大事なのだ。耳鳴りや不安感をなくそうとするのではなく、耳鳴りや不安感のある自分を受け入れて、折り合いをつけていく。その中にだってきっと楽しみや喜びは見つけられるはずだ。だってそうじゃなきゃ、健康な人しか幸せになれないことになってしまう。そんなことあるはずがない!
現に、片耳はずいぶん聴こえなくなってしまったけれど、家族との生活に変わりはないし、仕事も失っていないし、周りには大事なことを教えてくれる人たちもいる。それまであった幸せは変わっていない。とにかく焦らず。ゆっくりでいいから、今の自分を受け入れていこう。
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