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柔らかく規定するにはどうしたらよいか?

とある企業のインナーブランディングのお手伝いをさせていただいた時のこと。

うちは組織が巨大かつ、いい意味でカオスなのでイメージの統一はできません。」と、広報を担当する方は言いました。
 
 
確かに、その企業は一部上場企業でありながら、一つひとつの事業がスタートアップのようにエッジが効いていて、事業が位置する市場も強みも多種多様。一つの会社というよりもベンチャー企業の連合隊のような組織になっていました。

それらを一つにまとめてイメージ形成することは壮大なチャレンジのように思えます。僕は「まるで国のイメージをつくるみたいですね」とおどけて言いました。スケールが大きくて、いろいろなバックボーンを持つ人たちが集まっていて、それぞれの事業に深い歴史もあるところが、もはや国と同じようなレベルに見えたからです。彼らは笑っていました。

「多様性」がその企業の強みであることは間違いありません。しかし、プレスリリースや決算情報などといった会社から出されるアウトプットが事業ごとにバラバラで、各々が勝手にやってしまっているような状況は広報として承服できるものではなく、なんとかしなければなりません。

そこで、統一を目指すのではなく、柔らかいトンマナを規程することが目的となり、プロジェクトはスタートしました。


でも、柔らかいトンマナとは一体なんなのだろう?


松岡正剛さんは、『日本という方法』(NHKブックス)の中で、日本を「一途で、多様な国」だと言っています。信仰や宗教の面から見ても多神多仏であり、天皇と将軍がいて、関白と執権がいて、仏教と神道と儒教がと民間信仰が共存してきたのです。

日本は多義的でもあり、いっぱい神様や仏様がいて、宗教的行事性が入り混じっています。結婚式は教会で、葬式はお寺で行い、クリスマスと初詣が一週間の間にあって、節分と建国記念日とバレンタインとひな祭りと春のお彼岸が、たった1ヶ月の間にあるのです。

そうした一途で多様な国を西田幾多郎さんは、「絶対矛盾的自己同一」と言い、松岡正剛さんは日本を「方法の国」だと捉えて『日本という方法』という本を書きました。


実際、今回の会議の中でも「私たちは矛盾しているんです」という話が出ました。情熱的でアントレプレナーシップを持ちながらも、一方でとても保守的に物事を進めるという矛盾が平気で起こるのだといいます。

ですが、それはもしかすると「日本らしさ」と言えるのかもしれません。一つの絶対的な統一性があるのではなく、時に曖昧に、時に矛盾しながら、柔らかな統一性が育まれてきたのではないでしょうか。

松岡正剛さんは、多重多層な日本列島に、どうして日本の社会文化というまとまった観念や感性が育ったのか?という疑問に対して、一つは大和朝廷などの支配権力が統一的なイメージを形成していったこと。一つには日本語という言語が日本をかたちづくったこと。そして、ゲノムやウィルスや免疫体質や血液型の安定性によって日本人の特色の決定性を議論できるようになったことが関係していると答えています。

僕はこの中でも、日本語という言語自体が柔らかさや曖昧性を孕んでいるから、日本語が柔らかい規程のカギになるのではないかと思いました。


そこで、柔らかいトンマナを見つけるにあたって、僕は言語を用いて「近い/遠い」を探していくワークショップをすることを提案しました。企業が掲げるビジョンやミッション、事業体など様々な要素から連想する言葉をみんなに書き出してもらい、より近い言葉を絞り込み、最終的に浮かび上がった複数の言葉を組み合わせることで、柔らかいトンマナがつくれるのではないかと思うのです。

最終的にどのようなアウトプットになるかはお楽しみですが、「絶対矛盾的自己同一」のように「情熱的な青」といった相反する言葉であり、捉え方がいろいろできる抽象性を孕んだ言葉がコンセプトになるとおもしろいのではないかと思っています。そこで生まれたコンセプトに基づいて、プレスリリースの書式やコーポレートサイトのトンマナを決めていくのです。

複数の事業やサービスを統合するブランドイメージやトンマナを決めたい時は、この方法をぜひ試してみてください。



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