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アリババはなぜ、中国当局に統制を受けているのか

前回の新聞を読む会で、2021年1月6日の日経新聞の記事「アリババ包囲網の深謀」を読んだ。これを受けて、アリババについて調べてみた。

アリババの沿革

アリババは1999年にジャック・マーが創業した会社である。ECサイトで成功して拡大。そこで使っていた決済サービスがアリペイで、これは後にモバイル決済でも使えるようになる。
2010年代中頃、モバイル決済は爆発的に普及する。ほとんどの実店舗で使えるし、友人同士の送金にも使える。スマホさえあれば、現金を持ち歩かなくても普通に生活できるようだ。その様子については、以下が詳しい。

現在、モバイル決済はアリババ(アリペイ)とテンセント(ウィーチャットペイ)二社で90%を占める、寡占状態にある。

プラットフォームへの囲い込み

アリババとテンセントはそれぞれ、自社のプラットフォームに囲い込むために色々な分野に手を伸ばしている。無人コンビニ、次世代スーパー、レストラン予約・注文、フードデリバリー、オンラインゲーム、配車・ライドシェアなどの、スマホの普及で登場した新しい業態だ。

圧倒的な資本力を武器にして競合を追い落とし、有力なスタートアップは買収してしまう。このため、いずれの領域においてもアリババとテンセントの二強で独占する形になっている。

金融への進出

さらには、金融サービスにも進出。決済に使っているアリペイを、資産として運用しようというわけだ。アリババは様々なサービスを展開している。

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資産運用サービスの余額宝(MMF)は2013年から提供。MMFという言葉は日本では聞き慣れないと思うが、要は預金のようなものだ。1元から運用でき、いつでも引き出すことができる(銀行が扱い、長期に貸し出して運用するのが預金で、証券で短期に運用するのがMMF。70年代にアメリカで証券会社が銀行から預金を奪うために開発したのが起源。メリルリンチのCMAが有名)。発売当時、銀行預金の金利が0.35%だったのに対して、余額宝の金利は6%以上だった。なので当然、銀行預金から資金が流れこむ。2017年のピーク時には世界一のMMFになる。

保険サービスは2018年に提供。一年で加入者が1億人に達する。毎月保険料を支払うのではなく、給付事案が出るたびに全員で割り勘する仕組み。

この際、芝麻信用という信用スコアを利用する。アリペイの使用状況、過去の返済記録、学歴、職歴、資産状況、交友関係から算出。最低350点、最高950点で5つのランクに分けられ、それぞれで特典が異なる。

デジタル人民元

ここまでいくと、当然既存の金融機関と食い合うことになる。また、これだけ大きくなると、リスク管理についても考える必要が出てくる。普通、銀行、保険会社、証券会社といった金融機関は、業態ごとに当局の規制を受ける。放任して破綻した際、実体経済が巻き添えを食って大きな影響を受けるからだ。そこで、準備金を積ませる、資本に余裕をもたせる、金利を規制する、中央銀行に口座を持たせて監視する、直接指導する、などを行うわけである。だが、アリババは新興産業のため、これらの規制に引っかからない。どこが監督していいのかもよくわからない。

当初、当局はイノベーションを持つ企業を育てる観点から放任してたが、最近は対策を取り始めている。その一つが、デジタル人民元だ。

現段階の構想では、デジタル人民元の利用者は預金口座を持つ銀行にデジタル人民元口座(デジタルウォレット)を設定し、必要な額を換えて使う。スマホに入れたウォレットからデジタル人民元を相手側に直接支払うことができる。ネットを使わずにスマホを相手のスマホに近づける方法でも支払いが可能だ。 (2021年1月6日 日経新聞)

デジタル人民元には利子がつかないので、必要なときに必要な分だけチャージする、ということになるだろう。
つまり、これはアリペイやウィーチャットペイと同じものだ。モバイル決済に食い込みたい銀行が、中国人民銀行(中央銀行)をバックに連合を組んで、新しい枠組みを作ったにすぎない。法定通貨であることくらいしか優位性はなく、これができたら即、アリペイとウィーチャットペイを飲み込むということはありそうもない。こちらの対策はあまり本命ではないと思う。

整理統合による管理強化

もう一つの対策が、分割によって管理強化を図ることだ。おそらくこちらが本命。
当局は近年、アリババに対して徐々に規制をかけてきたが、最近はより大きく踏み込んできている。それが、会社を再編して本来の決済サービス会社に戻れ、というもの。

持株会社を作り、その下に業態別で子会社を作る。また一部は売却する。そうして当局が管理しやすい形にした上で、それぞれに当局の監督を受けさせろ、ということだ。意図としては割と真っ当に見える。

最近の情勢

この一週間でアリババに関して起こったことについて簡単に振り返ってみよう。

ジャック・マーは行方不明のまま。アントは当局の要請を受け入れる準備をしているらしい。



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