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【コーヒー淹れるのたのしいよ】徒手でいけ

 カラカラン——

 なんだ客か。ここは珈琲屋だがコーヒーは淹れぬ。コーヒーを淹れるための道具を売ってやることも出来るが今日は売る気はない。
 コーヒーを淹れるための道具は様々なものがあり、それを選んだり使ったりすることは相当たのしいが、コーヒーの抽出の可能性は無限大であるため、道具がなくても案外なんとかなるという結末の話を今日は聞いて帰れ。

これは、わたくしうそめがねが趣味で出張コーヒー屋をやっている経験をもとに、コーヒーを淹れることについてなんか書くシリーズです。

 妻が昔なじみに会いに行った。その旦那さんがコーヒーが好きだというので、妻に呼ばれておれはコーヒーを淹れにお邪魔した。
 おれは昔きがくるったようにコーヒーの事ばかり考え、抽出し、店をめぐりまくった。そして様々な場所で何万杯というコーヒーを淹れてきたため、コーヒーを美味く淹れるやつという地位を築いている。なので呼ばれた。

 珈琲豆は信頼のおける珈琲屋のひとつ《Sanwa Coffee Works》で調達した。相手のお宅にどのような器具があるかわからないので、豆は店頭で挽いてもらっておいた。
 そしていざ、妻の昔なじみの家に到着するとコーヒーを抽出するための器具はほとんどなかった。これは完全におれが事前に確認していなかったことがわるいのだが、焦った。
 そのお家には生後半年の赤ちゃんがいてめちゃめちゃかわいいため「かわいいですねぇ」とか言いながら頭をフル回転させていた。
 コーヒー淹れにきたのに淹れられないぞ!? 何か方法はないか、何か!

 だが、器具がなければコーヒーを淹れることはできないか? といいうとそんなことはなく、絶対に何か方法はあるためおれは全く諦めていなかった。
 コーヒーの抽出というのは、ペーパードリップやサイフォン、マキネッタとかいろいろある。一般的なドリップにしても「透過」と「浸漬」があったりする。いろいろあるということは無限にあるということなので、器具がないから淹れられないというのは単に発想力の問題であって、設備の問題では一切無い。
 むしろそそる状況である。
 妻にも妻の昔なじみにも、赤ちゃんにも悟られぬようおれは燃えていた。この状況で何事もなかったようにコーヒーを抽出せしめ、美味いコーヒーがある空間を演出してやろう。
 考え込んでお邪魔したお宅のキッチンで立ち尽くしていると、
「旦那さんなんか困ってはる?」
「そうやな困ってそうやな」
 という会話を妻と家のひとがしていたが完全に気のせいである。

 1分ほど考え、コーヒー用の器具なしでコーヒーを淹れる方法を思いついたので行動にうつした。
 家のひとにステンレスのボウルと計量カップ、キッチンペーパーとキッチンスケール(計り)を借りた。

 まず計量カップに杯数分の珈琲豆の粉を入れる。
 次に、別で湧かしておいた熱湯を少し冷ましてからごく少量入れて蒸らす。ここで30秒ほど待機する。この間に珈琲豆の粉はエキスを出すためのバトルフォームへ変化するのだ。
 次にそこへ杯数分のお湯を注ぐ。とくに注ぎ方とかはなく必要な量を入れてしまう。そして、スマホで3分タイマーをセットする。
 そのあいだにキッチンペーパーを三角に折り漏斗状にしておく。
 3分たったら、漏斗状にしたキッチンペーパーの端2カ所を片手の指4本つかってうまいこと持ち、そこに珈琲粉の混ざったお湯を注いでゆき、濾過してボウルに滴下させていく。粉がコーヒー液をある程度吸収したことで狙った出来上がり量に達しなかった場合は、後から湯を足せば良い。
 ステンレスのボウルを使ったのは、縁に返しがついていてカップに注ぐときに液だれしにくいからだ。
 濾過し終わったらカップに注いで完成。
 エグみが出ること無くすっきりしているが、風味はしっかり出ている良いコーヒーを淹れることができたように思う。

 おれは誰にも悟られることなくタフなミッションをクリアしたことに満足した。
「旦那さん、なんか満足そうな顔してへん?」
「ミッションクリアみたいな気持ちなんちゃうかな。まあほっといてええよ」
 という会話が聴こえてきたが気のせいだ。

 コーヒーは専用の器具がなくても淹れることができる。
 おさえるべきポイントは多くない。
 適温(約90度)のお湯を使い適切な時間(約3分)くらいで抽出すること。よく水分を吸収し、液体は通すが固体は通さない紙で濾過すること(無ければ目の細かいふきんとかでも良いと思う)。作りたい出来上がり量にあわせて使う珈琲豆を計ること(珈琲豆は1杯12~15g、出来上がり量1杯約150cc)。
 そのくらいだ。あまりこだわらなければもっと適当でも良い。
 とにかく、何が言いたいかというと、とりあえず珈琲豆の粉があれば器具が揃ってなくても淹れることはできるので、気になる珈琲豆があったら買ってみろ、ということだ。
 そして、抽出の方法は無限にあるが、専用の器具があると便利だし器具のデザインの意味を考えるのも楽しいので、家でコーヒーを淹れるのが楽しくなってきたら(または美味く淹れられず億劫になってきたら)器具を買え。まずは武器(ドリッパー)を選べ、ということだ。

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