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その横顔こそがゆめ

 万雷の手拍子、画面越しではない歌声、おにいさんおねえさんや大好きなキャラクター達のすがた。
 それらを受けて、戸惑いと驚きと嬉しさが混じり合った表情をうかべる2歳半の娘の横顔を見ていて、ぼくは胸がいっぱいになった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 8月の某日。
 この日は待ちに待った、《おかあさんといっしょ・スペシャルステージ2022》の日だった。
《おかあさんといっしょ》のことをぼくは、自分の娘が産まれるまで、知っていたけど知らなかった。
 この番組は主に親子のために存在する。番組自体は連綿と存在し続けていたが、これまでぼくはその射線から外れていた。

 しかし今はそうではない。
 娘が産まれた瞬間から、その比類なき番組は、遠くの空に流れて消える流星のようなものではなく、ワクワクと元気をまとった実際に激突してくるメテオとなった。

 つまりめちゃめちゃお世話になっているし、家族みんなが大好きな番組なのである。
 そのスペシャルステージへ、ついに行くことができる。2歳半の娘にとっては初のライブステージだ!

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ライブのある週、娘は便秘に苦しんでいた。
 こどもの便秘はけっこうやっかいだ。便が固いというだけではなく、心理的な要因から本人が排便をがまんしてしまう、ということもあるらしい。
 便意で腸がぜん動するのに、排便できない状況はかなり苦しそうで、汗と涙で顔をくしゃくしゃにして苦悶する娘をみているのはつらかった。

 小児科にかかり、もらったお薬やマッサージで日々なんとか排便を促した。
 その甲斐あってか、一週間ちかく続いていた便秘が、なんとライブ当日に解消したのである。

 元気すぎて手がつけられない好奇心あばれアマゾネスが帰ってきた!

 そして、娘のお昼寝のタイミングもあり、かなりタイトなスケジュールとなったが、なんとか開演時間に会場「大阪城ホール」にたどり着くことができた。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 重たい扉をひらくと、視界いっぱいに夢の世界が広がった。
 見渡す限りの観客(もちろんみんな親子!)、中央の巨大ビジョンに映るゆういちろうおにいさんを始めとしてテレビで観ていた人たち、耳に聴こえる歌と音楽。そして光。

 体調不良とたたかい、打ち勝って、ここにたどり着くことができた……
 ホールに入り親子3人で座席について、ちょこんと座る娘をみた時点で、クライマックスだった。
 娘はほんとにがんばったのだ!

 席についてしばらくは、娘も面食らったのか、おかあちゃんの腕にしがみついていたが、大好きなまことおにいさんや、大好きなファンターネのキャラクター達をみて「まことや!」「アーッ! みももいる!」とステージに注目し始めた。

 そしてアルティメット大好きなガラピコプーのキャラクター達が登場すると、身を乗り出して、

「ガラピコプーや! みてみて! とってもガラピコプーだねぇ!!」

 と笑顔を見せた。
 もうそれだけで人生最大の「よかったねぇ!」という気持ちが去来した。
 巨大な感情が爆発して涙腺がかなりやばかった。

 大好きな番組の大好きなおにいさんおねえさん、キャラクターといっしょに大好きなおうたをたくさん楽しむステージだから、娘は嬉しいにきまっている。
 ――と思っていた一方で、ライブに来たものの、アリーナという特別な空間やたくさんの人、まばゆい光に大音声でひびく音を娘は怖がってしまうんじゃないか? という懸念もあった。
 だから、娘が笑顔で楽しんでる様子が最高に嬉しかった。

 ステージは子どもを飽きさせないノンストップの歌やゲームやトークの真っ最中であったが、ぼくのパーソナル視界はキラキラした瞳でステージを楽しむ、娘の横顔でいっぱいであった。
 これがぼくという人間が観測する宇宙のクライマックスでなくて何だというのだ。

 スペシャルステージは、夢のような世界へ我々を連れて行ってくれたが、真にすばらしいものはここにあった。

 となりにちょこんと座る娘の、その横顔こそがゆめ。

読んでいただきありがとうございます!!サポートいただければ、爆発するモチベーションで打鍵する指がソニックブームを生み出しますし、娘のおもちゃと笑顔が増えてしあわせに過ごすことができます。