「残された者」私はここまで出来るか?あなたはここまで出来るか?

概要

飛行機事故で北極地帯に不時着したパイロット、オボァガードは、壊れた飛行機をその場しのぎのシェルターにし、白銀に包まれた荒野を毎日歩き回り、魚を釣り、救難信号を出すという自ら定めた日々のルーティーンをこなしながら、救助を待っていた。しかし、ようやく救助に来たヘリコプターは強風のために墜落し、女性パイロットは大怪我を追ってしまう。目の前の確実な「生」を獲得してきた男は、瀕死の女を前に、ついに自らの足で窮地を脱しようと決心する。危険は承知。しかし、行動しなければ女に未来はなく、自身にも明日は来ないかもしれない。現状の安住を捨て、勇気ある一歩を踏み出すが・・・。

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北極の地で墜落したであろうと思われるセスナ機。
その破壊された機内で1人過ごす男。
髭は伸び放題で1人きりのサバイブ生活もこなれた様子を見ると相当の日数が経過しているのが感じられる。
ここまでが前編。

彼を発見したヘリが乱気流に巻き込まれ墜落し重傷を負った女性の生存者が登場してから、その女性を献身的に世話しソリに乗せて引っ張りながらの脱出行が後半、と言えると思うのですが、淡々と進む文字通りの氷の世界で望みを捨てずに何とかして帰ろうと孤軍奮闘する彼の姿には心を打たれるものがある。

こういう役をやらせたらマッツミケルセンの右に出るものはいないだろう。
雪と氷に顔面を覆われながらほぼ台詞を吐かずに唸り声のみで演じるその姿に、よほど監督がマッツミケルセンへの信頼感がなければ出来ない役だろうなと思わされた。
「悪党に粛清を」では土埃の舞う中でのな復讐劇でしたが、血みどろになる役が良く似合うのに、あの大絶賛されたハンニバル・レクター博士をも完璧にオリジナリティを持ってエレガントに演じてしまう現代最高の役者の1人でしょう。
メタルギアソリッドを作った小島秀夫氏がハンニバル・レクター博士のマッツミケルセンに一目惚れして「デス・ストランディング」をオファーしたのは有名な話しですが、まさに後半の脱出行は極めてあのデス・ストランディングの世界観に似ていてキャスティングを入れ替えての妙なデジャブ感がありました。

こういうタイプの作品では
「もっとああしたらいいのに、こうしたらいいのに」
というストレスを感じる事がよくありますが、これを全く感じさせない監督や演出脚本の手腕は見事です。
こちらの想像より一歩先の事をやるのに、どれだけ頑張ってもそれでもうまくいかない…
「よく頑張った、もういいよ!」
と叫びたくなるマッツミケルセンの姿に涙を流す人も多いのでは無いだろうか…

私は寒い地域のこんな話が好きだ。
なぜなら西部劇のような汗臭さと汚らしさを感じなくて済むから…
今作もその利点を存分に生かして凍えるような映像を撮りきっています。

大好きな俳優のマッツミケルセンがとことんまで苦しむ映画。
ただ単純に体力的に苦しむだけでなく精神的にも相当の重荷を背負って必死に生にしがみつくその姿は一見に値します。


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