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【ラジオドラマ#4】『墓参り』

SE 蝉の声(ミンミンゼミの鳴き声)

陽介(以外、A)「ハア、ハア。何もこんな坂の上に作んなくてもいいのにな…ええと、手前から三列目って言ってたかな。ああ、マキとリョウジはちゃんと月命日に来てるのか。サトル、ごめんな。平日時間取れなくてさ。こんな俺でもちゃんと係長してるんだぜ。中間管理職だよ。また、予定が合ったらお祝いしようって言ってくれてたのに…」

SE 足音

司(以外、B)「なんだ、陽介か」

A「なんだってひどいな」

B「デカい独り言いってる人がいる、ってちょっとビビったよ」

A「そういうもんだろ。ああでも、良かった。8日に来れてないの俺だけかもって思ったから。司が一緒なら、サトルも怒らないよな。にしても、ひどい汗だな」

B「今坂登ってきたんだからしょうがないだろ。お前も自分の服見てから言えよ。僕のこと、とやかく言える状態じゃないだろ。なに、もう帰るところ?」

A「いや、今来たばっかだよ。にしても、ご両親も気の毒だよな。自分の息子の名前が先に墓石に彫られちゃうなんて。だって、父親の隣に息子の名前があるんだぜ」

B「まあ、急だったからな。こればっかりは、交通事故じゃ、どうしようもないよ」

SE 水をかける音

A「こんな日が来るなんてな」

B「僕も掛けていい?」

A「うん」

SE カバンから物を取り出す(衣擦れ3)

A「サトルいつもこれ飲んでたよな」

B「コーラか。持ってきたんだ。それなんだけど…」

SE 缶を開ける

A「サトル、たくさん飲めよ!」

B「ちょっと、ちょっと」

A「何?」

B「掛けちゃダメでしょ」

A「ダメなのは分かってるよ。でも、今日ぐらいサトル喜んでくれるだろ」

B「いや、でも」

A「糖分は墓石に良くないってのは、ちゃんと調べた。でも、こういう時ぐらいはいいだろ」

B「調べてまでやるなよ」

A「でも、サトルに飲ませてやりたいって気持ち、分かるだろ」

B「僕もそれには反対してない。でも、考えてみろ。一緒にお墓に入ってるご先祖様はどう思うか、想像したことあるか?」

A「…ない。でも、きっと…美味しいとは思ってくれるよ」

B「身勝手だと思わないか?例えば、家のリビングでお菓子がカゴに入れられているとする。『好きに食べていいよ』と言われても、嫌いだったら食べなければいい。でも、掛けられたらもう…無理だろ?」

A「なあ、覚えてるか?大学生1回の夏、皆一緒に泊りがけでバーベキュー行ったろ?」

B「もちろん覚えてるよ」

A「サトルが免許取ったばっかで、皆それに便乗して『まあ、なんとかなる』って言い聞かせて。レンタカー借りさせてさ」

B「あったねー、そんなこと」

A「初日の晩に焚き火してる時にさ、実は浪人してたって言い出して。皆気づいてたのに」

B「リョウジだけは気づいてなかったけどね」

A「あー、そうそう。で、そん時に俺は日本全国まわりながら仕事したいって」

B「あれはさすがにびっくりしたけど、何か将来のこと考えてるんだなって」

A「サトルはあの時言った通り、人生を謳歌しようとしてたんだな。だから、掛けてやりたいんだ」

B「…全然だからの意味が分からない」

A「(投げやり)いいよ、ちょっとやってみたかっただけだから」

B「どうせ、そんなことだろうと思ったよ」

A「ほら、炭酸抜けちゃったじゃん。もう掛けても美味しくないよな。まあ雰囲気だけでも味わってくれれば充分なんだけど」

SE 缶を置く(ブロックを置く)

B「じゃあ、線香あげるか」

SE ライター

B「…あのさ、僕も持ってきたんだよね」

SE カバンからものを取り出す

A「考えることは同じだな」

B「流石に掛けるつもりはなかったけど」

A「今から開けるんだったら、代わりに掛けてあげようか?」

B「マジでそのつもりはないって。セカンドチャンスじゃないから」

A「折角だし、乾杯するか」

B「そうだね」

A・B「乾杯!」

SE 乾杯(瓶を叩く)

B「そういえば、立ち消えになっちゃってたし、皆揃ってないけど4人ではまた集まればいいし、いい機会かなと思うんだけど」

A「ん?」

B「昇進おめでとう」

SE 蝉の声


劇団サインカーブのメンバーが一人二役で演じたラジオドラマをYouTubeに投稿予定です。
お時間があれば、ぜひご覧ください!

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