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優しい世界

夜行バスに揺られ、真っ暗な国境に到着した。
まずメキシコを出国して、それからベリーズに入国する。

バスを降り、歩いて入国管理局の建物に向かう。
空港のカチッとした雰囲気とは違い、あっさり通過した。

陸続きの国境越えは日本では体験できないことだから、不思議な感じだ。
歩いて、別の国に入る。
他の国がとても身近に感じやすい。

全ての乗客の手続きが終わると、再びバスは出発。
ベリーズシティのバス停に到着したのは早朝だった。

私はブルーホールのあるキーカーカー島に行くため、港に向かう予定だ。
どうやっていくかを考えていると、タクシードライバーのおじさんと目が合い、港まで乗ることにした。

車内に入ると、客席のドアの取手部分がなく、中から開けられないようになっていた。
それを見て、少しだけ緊張する。

「大丈夫かなぁ。ベリーズシティは治安が悪いって情報もあるしな。
でも、このおじさんの雰囲気は大丈夫そうかな・・・」

ひとり旅をしていると、全ての選択が自分次第である。
そして責任も全て自分にある。
油断をしたら、命取りになることもある・・・と思う。


そのせいか、日本にいる時は眠っているような
野生の勘というものが、一気に研ぎ澄まされる気がする。

そうこうしているうちにタクシーは港に到着した。
私はほっと一息。

おじさんは片足を引きずって歩いていた。
たぶん足が悪いのだろう。
けれど、運転席から降りて、重いバックパックを入り口まで運ぶのをわざわざ手伝ってくれた。

優しいおじさんだった。

全ての人を信じるのは、安全面を考えると難しい時もあるけど、
でも世界にはやっぱり優しい人が多かったなぁ。


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