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新世界より

 僕は過去の読み終えたいくつかの本については、一定程度の周期で、読みなおすようにしています。
 多くの本は、情報を得て、小説であれば自身の感情を揺り動かされて、それで自分の中の物語に編みこんでしまって終わりなのですが、いくつかの本については、その都度、新たな発見があるため、何度も読み返すに耐えうる本と自分で勝手に認定しています。
 その代表選手は、銀河英雄伝説で、これは10回ぐらいは読み直していると思いますが、最近、読みなおしをはじめているのは、貴志祐介の「新世界より」という小説です。

『新世界より(上) (講談社文庫)』(貴志祐介)の感想(1068レビュー) - ブクログ (booklog.jp)

 1000年後の日本が舞台で、東京は呪われた地となり、途中での取水や江戸川への分流などにより、東京方面へ多くの水を供給していた利根川は、その豊かな流れをたたえたまま千葉と茨城の県境の下流域に向かったため、しばしば洪水を引き起こすことになり、治水対策として霞ケ浦と利根川を一体化しして、この小説から2千年以上前、現代から千年以上前に実際に存在した、広大な内海「香取の海」が再現され、小説の舞台は、香取の海の先の利根川河口に近いところにある小さな町になります。
 確かに現状では、利根川は江戸川に流量の4割を持って行かれ、その上流の利根大堰でも、武蔵水路などを介して相当取水されているため、これらの流れがすべて利根川本流を下った場合は、香取の海の再現もありえなくはない気がします。
 https://dil.bosai.go.jp/workshop/02kouza_jirei/images/fig01_04.jpg

 とはいえ、この作品のすごいのは、人間が無限の念力(PK)を手にしたとき、どのような事態が引き起こるのかを、突き詰めて考え抜いて、まずは前史として「語り部」に、念力の行使が続いたことによる悲惨な歴史を語らせたうえで、未来のPKを持つ人々が、PKの相互行使による破滅的状況回避の方策を講じたか、そこにも残酷さがあり、また、PKを持つ者と持たざる者の結末もなかなか衝撃的で、いろいろ考えさせられる作品だと思います。

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