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多様な人たちの移動を支えるバス

 最近、下記の本を読了しました。


 このシリーズは、お客様サービスの最前線にあって、日々、さまざまなトラブルに遭遇してきた人が、自らの経験をもとに書いた本です。

 裏話が主体で、その職業に対し、多くの人が持っている、ブラックな印象を上書きするようなエピソードも少なくないわけですが、外からはわからないようなやりがいとか、適性、仕事の厳しさのような面も語られ、少なくとも僕が読んできた何冊かについては、偏りなくまとめられているように思います。

 このバスドライバー日記を書いた人は、元は高校教師で、バスドライバーの夢を捨てられずにバス会社に転職、12年にわたるドライバーとしての勤務を経て、本を書いている時点では既にバス会社を退職し、大型商業施設の警備員をされているようです。

 独占的に施設を使用できる専用軌道が大半の鉄道に比べ、バスは公道という、不特定多数の人が利用する共用空間において、想定外のアクシデントが続出するところを、タイムスケジュールに沿って運行することが求められ、バス停はぞんざいな場所に設置されているわりには、見過ごして通過してしまおうものなら、バスドライバーは厳しいペナルティを受けるようであり、そんなにお気楽な仕事ではないと、感じます。

 特に、バスが人々の移動手段のセーフティーネットとなっており、学生はもとより、高齢であったり、障害を抱えていたりして、自ら車を運転することが難しい人が、多く利用します。

 認知能力や身体能力が衰えた高齢者にとっては、バスに乗ることもかなり大変であり、交通系ICカードの普及により、短い停車時間で小銭を用意する手間は減りつつあるものの、たまに残高不足とかになると、後続の下車客の無言のプレッシャーを受けながら、運転士の指示従いICカードの操作や現金での支払いをするのは相当なストレスで、うちの母も、あのバスの運賃支払いのプレッシャーが嫌だから、バスは乗りたくないと言います。
 
 また、体の不自由な方が利用されているのも見かけますが、ノンステップバスとはいえ、運転士が降車口に渡り板を設置し、バス停に降りる手伝いをしないと、降りることができないわけで、ただでさえ交通渋滞でバスが遅れているときなどは、他の乗客のプレッシャーもあり、運転士さんも気が気でないだろうなと、同情します。

 決まったルートを運行するだけであれば、そんなに大変ではないですが、道路事情に応じた運行や、多様な利用者への対応を求められ、道路が空いているからと予定時刻より早くバス停を通過することは許されず、いわば「貯め」のきかない状態で、予測不能な不特定多数の遅延要因との闘いを強いられ、前倒しで仕事を終わらせて余裕を持って仕事をすることができない分、精神的にはきつい面もあるでしょう。

 レベル2の自動運転をしているバスに乗車したこともありますが、現状においては、道幅の狭い街中などは、自動運転にしているといつまでも先に進めないため、手動に切り替えており、自動運転の区間はいわば「楽な」ところだけしか任せられず、BRTのような専用優先道路でない限り、バスが自動運転になるのはずっと先のように思います。

 バスの運転士不足は深刻で、それによる減便も相次いでいますので、自動運転への移行の道筋がまだまだ不透明である現状においては、社会全体がバス運転士の果たす役割に理解を示し、処遇の改善や運賃改定といったことも受容し、多様な人たちの移動を支えていく、それにより、更なる利便性の低下を食い止めるしかないですね。

 

 


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