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春の素顔

 春というのは、冬の寒さが和らぐことによる装いの軽さや、桜が開花することによる華やかさに加え、進学や就職、転職、異動により、人生における次のステージに踏み出すことで、何か、全体的にうすぼんやりとした明るさに包まれるような感覚があります。
 大学入学時に、サークルの勧誘で湧くキャンパスの中で、自分という存在を大きなうねりの中で確認しながら、おぼつかなく歩いている、でも、期待値はまだ高いので、そこに何かが見つからなくても、深刻な失望をせずに通り過ぎることができる、そんな感覚でしょうか。
 年を経て、次なる人生に対する期待値が下がっていくと、春は次第に素顔を向けるようになり、季節の変わり目というご祝儀的な心の軽やかさが湿り気を帯びたものになり、気まぐれなこの時期特有の寒暖差とか、花粉による体調不良が、自分の心を一層重くします。
 変わり目ですから、自分の立ち位置が変わらないにせよ、周囲は変化するわけで、相応にストレスのかかる状況にあります。特に、軽くない悩みを複数抱え、それらは具体的な解消策のないまま、背負ったままですと、体調を崩しやすい要因だけがクローズアップされて、それに加えて、そうした悩みとか、自分の置かれた環境を改善できなかった行動力のなさとか、これまでの自分の考え方の甘さ、のようなものが押し寄せてきて、寝覚めの良くない朝を迎える、そうした日が続いているように思います。
 それでも、自分の人生に諦めていない、現状を是として、小さくまとまろうとしないでもがいている、そうしたところに、自分の希望を見出すしかないのでしょう。もちろん、行動も必要であり、さまざまな制約がある中で、未来の自分を思い描いての、準備を続ける気持ちを持ち続けることは重要です。
 常に死と隣り合わせの、絶望的な収容所の中で、将来の夢を持ち続けた、「夜と霧」の著者に比べれば、自分など、まだまだ動くことはできますし、恥をかいても失敗しても、致命的なことにはなりません。今の悩みの種を、災い転じて福となすこともできます。AIの力も借りながら、自分のここからの逆転の物語を多く編み出し、全ての因縁を好転させる発想を抱きながら、この変わりやすい、春の素顔に心を弱らせることなく、乗り切っていきたいと思います。

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