1型糖尿病とセルフコントロールの職人芸

 以前も1型糖尿病のことについて書きましたが、1型糖尿病については、2年ぐらい前までは、生活習慣で発症した2型と異なり、先天性の要素があるので、若くして発症している、若い時からインシュリンを投与したりして、体調管理が大変そうだ、ただ、基本のところは1型と2型で変わるところがないのだろう程度の知識でした。

 ですが、2年ぐらい前に、職場の親しい同僚が突然発症しました。年齢的にはだいたい同じですので、1型には子どものなるものだと思っていた自分は、驚きでした。

 それでも、食生活に気を付ける必要があるんだろうなという認識でしたが、どうも、血糖値のコントロールが肝要で、そこを根気強くできる人は、日々の食事についてはそれほど制約がないと聞きました。

 ただ、忘れずに毎日決まった時間に、インシュリンの注射をしていれば安定する、というわけでもないようで、なかなか難しいものだと思い、最近になって、宮川高一さんという糖尿病専門の医師の書いた「1型糖尿病をご存知ですか?」という本を手に入れ、より深く知ることにしました。

 まず、1型糖尿病は自己免疫疾患であり、何らかの要素が複数重なり、インシュリンを分泌することで体内の血糖値をコントロール知る役割を持つ、膵臓のランゲルハンス島という細胞の集まりが、自己免疫の攻撃対象になってしまい、ランゲルハンス島が壊滅的な打撃を受けて、血糖値のコントロールをする機能が大幅に低下し、最悪の場合、完全に失われるということです。

 自分なりの理解としては、不摂生な生活習慣により体内の防衛能力を弱め、外敵の侵入を許すことでダメージを受けていく2型と異なり、これまで王を警護していた近衛兵師団がいきなり王を攻撃するようなもので、確かに、どうにもならないし、徹底的にダメージを受けるのは、理解できるような気がします。

 それでもその攻撃が猛烈なものか、ある程度緩慢なものかは、個人差があるようで、友人の場合限りなく劇症、短期間で猛攻を受けて急速に機能が失われ、ほぼ全滅の状態に至り、その変化は見えないことから、初動では1型糖尿病と診断されず、一時は昏睡状態に陥ったそうです。

 今は、インシュリンを注射により投与することにより、生活の質を維持していますが、糖質を取らないことも、低血糖となって脳にダメージを与えることから、毎食、間食の糖質の摂取量を予測し、それによる血糖値の上昇予測を立て、血糖値をレンジ内におさめるのに必要な投与量を決める、こうしたセルフコントロールが、本人に求められるようです。

 友人の場合、フリースタイルリブレという機器を腕に装着し、そこから得られる血糖値の予測データをスマホのアプリで常時把握し、自分の予測どおりコントロールがされているか確認するそうですが、予測データにタイムラグがあり、精度がそこまで高くないのと、日々の体調でインシュリンの効き方が異なることから、レンジの中に収めるのは非常に難しいようです。

 実際、友人のアプリをみせてもらいましたが、グラフはレンジ内を上下に揺れ動いているというより、レンジの外にある、極端な高血糖から極端な低血糖へ、一日の中で激しく上下を繰り返しており、コントロールが難しいものだと、実感しました。

 とはいえ、とにかく、自分の経験値を積み上げ、職人的な勘を研ぎ澄まし、インシュリンの投与量を決め、その結果をフィードバックして、さらに感を磨いていく、一生、そうした、何か陶芸職人が気候や湿度に応じて、窯の温度を調整する、そうしたことを亡くなるその日まで繰り返していく、そのような、自分の体調のコントロールに関する職人技を、どこまで高めていけるのか、そこが長期に体調をコントロールし、人生の質を維持したまま天寿を全うする、鍵のように思いました。

 つまり、1型糖尿病でない人であれば、自暴自棄になって、飲んだくれたり、どこかにふらりとでかけて気ままな旅をしたりといったことはできますが、1月糖尿病の人は、そうした自分の感情に任せた衝動的で身勝手な行動は、命取りになるようです。

 実際、血糖値コントロール不良となる人の多くは「なぜ、自分だけ、こんなつらい運命を与えられたのか」と嘆き、血糖値のコントロールという精妙な職人芸を磨くことに意義を見出せず、結果的に、高血糖と低血糖の状態が長くなってしまい、それにより、身体上のさまざまな不具合が生じ、ますます気持ちがすさんで、命を縮めてしまうことになるようです。

 唯一無二の職人芸を磨く覚悟と、そこに意義を見出し、ドラクエ2のロンダルキアの洞窟に、セーブなしで地上の入り口から雪原広がる出口まで、セーブできずに乗り切った時のような、さらに、雪原のほこらで教えてもらったふっかつのじゅもんを間違え、再びロンダルキアの洞窟に入っても、新たな発見があると思える、無理ゲー空間をむしろ楽しむ、そうした強さが求められるようです。

 セルフコントロールを求められるという点では、1型糖尿病以上のものはないような気がしますが、それでも、一人ではしんどい時もあるはずで、良き伴走者としての医師は、1型糖尿病と付き合っていく上では、非常に重要なようです。

 とはいえ、本人のストレスは相応なものがあるはずで、私にとって大事な友人が、長生きできるよう、医療技術の進歩による、こうした機能不全の克服がなされることを、願わずにおれません。

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