巨大地震注意情報の評価の難しさ
九州・日向灘で起きた地震により、南海トラフ「巨大地震注意」情報が発表されたことで、関係自治体では災害対策本部の設置や、避難所の開設などの動きがあり、列車の運行などにも影響が出ています。
国内唯一の定期列車寝台特急である「サンライズ瀬戸・出雲」についても、1週間程度運休が決まったようです。
人気列車であり、この時期の予約を取るのは簡単ではなかったと思いますので、お盆休みの時期家族旅行などで乗車を楽しみにしていた人たちは、さぞがっかりしたのではと、お察しします。
この注意情報は、南海トラフ地震の発生確率が、1000分の1程度から、数百分の1程度に上がったとのことで、単純に考えると3倍ぐらいに高まったということなのかと思いますが、呼びかけに対し、個人や企業としてどう評価し、行動に反映させるは、非常に難しいと思いますね。
じっさい、愛知環状鉄道では、注意情報を受けて、一時、利用客に不要不急の旅行を中止するよう、ホームページや駅の電光掲示板などで呼びかけたのですが、ネットでの疑問続出やお客様の心配の声などもあり、今は、そうした内容は削除したようです。
かといって、日ごろの備えの点検を、と言われても、9月1日の防災の日とかと同じような感じになり、一方で首相が外遊を中止したりして、このメッセージ、重くならず、軽くならずの「制球」が難しく、政府も含めて、この注意情報の取扱いに苦慮しているように思います。
そもそも、1000分の1というのが、ジャンボ宝くじで5等の1万円が当たるぐらいの確率で、数百分の1というのが、6等の3千円の確率が100分の1,1年間で交通事故に遭う確率が500分の1ぐらいのようですので、とんでもなく低い確率でもないですが、今回の情報を受けて、急激にリスクが高まった、と思えるほどの劇的な変化とも言えません。
今後、こうした注意が繰り返し発表されるのか、わかりませんが、注意情報への対応に具体的な決めがないため、企業や自治体の対応も、発表頻度のとの兼ね合いなのかなと感じています。
頻繁であれば、避難所の開設や列車の運行休止をその都度、実施してしまうと、普段どおりの生活をするのに支障を来しますので、いずれは体制縮小や徐行運転に切り替えるなどの対応に変わるでしょうし、人々も慣れてしまって、効果が薄れることでしょう。
先ほど触れた1000分の1の確率について、ガチャでのレアイテムの出現確立0.1%に置き換えると、80%の確率で出現するのは、1609回まわす必要があるようです。
南海トラフの1000分の1が、どこに母数があるのか、よくわかりませんが、他のリスク要因の発生とは関係なく発生する確率であれば、仮に1日1回ガチャを回すとすると、5年を待たずに発生することになるところ、政府の地震調査委員会によると、30年以内に7~8割といったところのようです。
そうなると、むしろ今回のような震源域での地震の発生、その他のリスク要因の発生についても、今後30年の発生確率をもっており、そこも踏まえての数字なのかもしれませんが、いずれにせよ、数字が独り歩きしており、どの程度切迫しているのかは、先の交通事故とか宝くじに引き寄せて、漠として捉えるしかないように思います。
自分の死が将来確実なものであるにも関わらず、今は死を前提にして仕事を投げ出したり資産運用をやめたりしないのと同様、社会を安定化させる、人々の正常化バイアスと同調性バイアスによって、リスクの発生は少なくとも今日明日ではないという整理をして、現在の延長線上に自分の人生が続くものと考えて、行動を組み立てざるを得ないでしょうね。
今回の注意情報は、地震予知に関わる人々が、日ごろの仕事ぶりをアピールするような機会として、また、政府としても注意を喚起するツールとしてだけでなく、世論の動向を見極める観測気球の意味合いもあって、日向灘の地震が使われたのではないかと、感じています。