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限界ニュータウン

 本日、「限界ニュータウン: 荒廃する超郊外の分譲地」という本が発刊されます。この本の著者の吉川祐介さんは本業は運輸業に勤務していたのですが、合間を縫って主として千葉県内にある、高度成長期~バブル期に造成された、交通不便な分譲地を「限界ニュータウン」としてブログでレポートしており、僕も3年ぐらい前から愛読者になっていました。

 限界ニュータウンも多種多様で、ある時期までは多くの家族連れ世帯が入居してニュータウンとしての役割を十分果たしていたものの、高齢化が進んで地区内のスーパーが撤退しバス路線も減便となり、車の運転ができない高齢者は買い物に不便を強いられているという程度のところもあれば、簡易水道や下水道も自前で管理する分譲地で住人が減少したことで管理費が上昇し、その維持管理に苦しんでいるという場所もあり、ひどいところは、分譲はされたけれど、交通不便なうえに分譲地と幹線道路を結ぶ道路さえまともに整備されておらず、ほとんど入居者のないまま半世紀が経過し、原野に戻りつつあるというような場所もあります。

 これらの分譲地ができた半世紀~30年前までは、日本の成長神話みたいなものが根拠なく信じられており、土地は上がり続け、マイホーム信仰も今よりずっと強くて、何が何でもマイホームをという思いと、土地を買って将来の上昇を期待するという思いが交錯し、それらはバブル崩壊とともに大きく前提が崩れたにもかかわらず、人生賭けた買い物の損切りは容易ではなく、実勢には合わない価格で売りに出されているという物件も多いようです。

 今後は、この国もインフラを隅々まで維持する体力がなくなってくるでしょうし、限界ニュータウンは、ある意味、中途半端な住まいとして、分譲地の新陳代謝が進むことはなく、ただ朽ちていくだけでしょう。バブルの前までは、都市部の交通渋滞や公害もひどかった時代でもあり、通勤圏の限界に住まうという選択肢は当時の判断としてはありだったのでしょうが、これから先は自分の老いを考え、終の棲家をどこで手に入れるか、災害のリスクが高まっていることもあり、難しい選択になっているように思います。

 吉川さんは、何となくみんなが問題意識を持ちながらも触れずにおいてきた、この社会問題に対し、専門家ではなかったものの、強い問題意識を持って現場取材を重ね、考察を続け、ついに一冊の本を上梓するに至りました。僕も購入しますが、この本が多くの人の手に渡ることで、地域が抱えている問題に多くの人が関心を持ち、即効薬はないにせよ、関係者の協力により、活用方法を見出すことで、少しでもそこに住まう人たちにとってプラスになればと思います。

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