月桂冠の魔法少女 総集編Ⅰ#1~4 『サイは投げられた!』alea iacta est!
注意点
・以下に登場する人名、地名、団体などは実在のものと一切関係がありません。
・作者の経験不足により、魔法少女よりも特撮のノリになる恐れがあります。
・歴史上の人物をモチーフにしたようなキャラクターが出てきますが、独自解釈や作者の意図などで性格が歪められている可能性があります。
今回は#1~4を再編集した総集編となります。
#4終了後に変更点をまとめてあります。さらには最後にちょっと続きも書いたので、よろしければお楽しみください。
#1 天使の矢 sagitta anglicae!
「久しぶり。って、さすがに覚えてないか。」
夕焼けの河原に、彼女はいた。
「…どうかしたの?」
しょんぼりとしていた少年に、黒髪をなびかせた彼女は優しく問いかける。
「そっかー。友だちを傷つけてしまって、キミは後悔しているんだね。」
まとまりがつかない話を、赤いマントを羽織り、左肩掛けの布をまとった彼女は笑顔で聞いてくれた。
「サイは投げられた!これからキミがどうするかが大切だよ。」
夕闇に沈む世界で、月桂樹の冠をつけた彼女はそう言った。
「授業終わったぞ!起きろ晴人!」
「は!」
生地が固い学ランのせいで体が少し凝っている。夢、だったのか。
「起こしてくれてありがとう。前田くん。」
「気持ちよさそうに寝てたなー。惚れた女の夢でも見てたか?」
「そんなところかな。」
今まで何度も見てきたが、その度に初めてであるかのような昂揚を覚える。
「ひゃー!女には気を付けろとあれほど言っただろ!いいか、見ない、聴かない、話さない、あの娘の視界に入らない、これを貫くんだ。」
都心から少し離れた地方都市、そこにあるなぜか男子しかいない学校、滝の宮学園。ここには様々な人間がいる。
「え、じゃあ私は?」
ショートヘアーのかわいい女の子、ではなく学ランを着ていなければ女の子に見紛う男の娘が通りかかる。
「愛してるぜマイハニー!」
「私もよ!マイダーリン!」
前田裕介くんと瀬宇薔薇(せうばら)くんの鉄板ネタである。
「ああ、掃除の時間か。」
晴人は夢に気を取られつつも、現実に戻される。
「いつものことだがノリが悪いぞ晴人。何か悩みでもあるのか?」
「いや、まぁ大丈夫。ありがとね。」
「そうか、いつでも相談に乗るぞ。」
「私も。」
「重ねてありがとう。」
202X年、5月7日。ゴールデンウィークも明けて、初夏の日差しを感じ始めたこの頃。晴人は2年生としての生活に慣れ始めていた。授業、そして掃除をそつなくこなし、帰路につく。
ドン、掃除を終えた帰り道、他校の生徒に軽くぶつかった。
「チッ」
「スミマセン。」
晴人は無感情に謝る。
主人公となるこの男、阿具里晴人(あぐりはると)は日々を無感情に過ごしていた。
学園の最寄り駅から電車に乗り、降りて家まで帰る。
「ただいま。」
家のリビングの戸を開け、ため息をもらすように口から出る。
「お帰り、おにいちゃん。夕飯はまだ?」
晴人とその妹、阿具里由利亜(あぐりゆりあ)には親がいたものの、仕事で帰りが遅く、夕飯は当番制で回していた。
「帰ってすぐそれかよ。ユリは今日もちゃんと授業受けたんだろうな。」
「あんな授業見る必要ないよ。テストも簡単だもん。」
由利亜は滝の宮学園の通信制(こちらには女子もいる)に在籍しいている。だから登校も月一程度と、ずっとリビングでネット世界に籠っていた。
「それよりお兄ちゃん、浮かない顔してるね。何か悩み事?男優の新説?それとも次に来る音mad素材?」
ニヤニヤした顔で問いかける
「そんなことで悩むかよ…。」
すぐに夕飯の支度を始める。長ネギを切って目に染みる。
「そうか、やっと二年生になったんだね。」
「留年したことないし、不祥事も起こしてないし。」
夕飯を済ませ、とりあえずベッドに横たわる。
「ユリハラ カエサ…」
何度も思い出し、夢に見たあの人の名前。今日も自然と口ずさんでいた。
あれは夢だったのだろうか、それならどうして、あの奇妙な格好も、月桂樹の冠も、あの時の気持ちも、鮮明に覚えているのか、晴人にはわからなかった。
(やっぱり遠いな…)
翌日、学校も終わり、その後の塾も終わった帰り道、晴人は由利亜から頼まれた漫画を買いにリゲル通り(商店街)を歩いていた。
多くの人に、「シャッター街」と揶揄されるこの通りも、新しい店が続々と入ってきて、空は暗くても昼間のような活況を呈している。
(家より塾からの方が近いという理由だけで、何で俺はマイナー漫画のお使いやってるんだ…?)
そう思ったそのときだった。
ヒャアー!
後ろから悲鳴が聞こえる。振り返ると、商店街の中を、自転車に乗った男が暴走していた。制服を着ているので学生だろうか。この商店街を自転車で通り抜ける学生は少なくないのだが、明らかにスピードが速い。さらに男は黒い雰囲気というかオーラと言うか、そのようなものをまとっていた。
ドンッ
鈍い音を聞く。気づいた時には、もうすぐ近くに迫っていた。晴人は避けきれず、衝突して宙を舞い、地面にたたきつけられる。
ガハッ、
全身が痛む、意識が遠のく、それでも晴人にはやらなきゃならないことがあった。
「スミマセン。」
平静を装い、平謝りする。相手に非があるのは間違いない。けれど、とにかくこの怪しい男の怒りに巻き込まれたくなかった。
晴人と男を野次馬が囲む中、男はうなり声を上げる。
(この人、正気じゃない…。)
心の中の焦りを抑え込んでも、ここから逃げる方法が思いつかない。体の節々は痛み、立つことさえままならない。
(来るか…)
男が晴人に襲い掛かる。その一瞬、
「サジッタ・アングリカエ(天使の矢)!」
一本の矢が、群衆の隙間を縫うように飛び、男に突き刺さる。ふんわりとした矢羽根に、ハート形の矢尻。「天使の」と形容するにふさわしい矢だ。
群衆が騒ぎ出す。群衆が向いた方向を、晴人も見た。
そこにいた少女も、あの人と同じように、赤いマントを羽織り、月桂樹の冠をつけていた。
カエサさんと違うところと言えば、赤いセミロングの髪の毛と、天使のような羽と、あと、笑顔の入るスキのない、無表情だった。
羽をはばたかせ、群衆の頭上を飛び、晴人の傍にやってくる。群衆はあっけにとられ、声が出ない。
「大丈夫?」
女の子にしては低めの声で問いかける。
「は、はい。」
曖昧に返答する。
グワァァァー!
あの男が、さっきよりも張り上げたうなり声で、少女に襲い掛かる。
少女は造作なく再び矢を放ち、命中させる。
ガッ…ガハッ…
男は目に見えて弱っている。少女は弓を引き狙いを定める。
「うわぁっ!」
少女は急に、甲高い声で驚きながら、バランスを崩してよろけた。
誰かが少女の足首をつかみ、引っ張った。晴人だ。
「ダメ…だ。」
晴人は足をつかんだまま、手放さない。
「放して。」
元の低めの声に戻る。天使の羽をはばたかせることによって体勢を立て直し、改めて弓を引く。
「相手がどんなに悪くても、傷つけちゃ…ダメなんだ…。」
「やっちまえー!」「負けるな少年!」
周りの野次馬は、何かのショーと勘違いしているようだ。
「どいて。」
少女は足を動かし、手が払いのけられた。
「うぉぉぉぉぉぉー!」
晴人は力を振り絞り、立ち上がる。冷徹な少女の前に立ちはだかる。
「俺は、あの人と、カエサさんと、約束したんだ…!誰も、傷つけないって…!」
息を切らしながら、晴人は叫ぶ。
「…!」
少女が目を見開いた。それも束の間、
グォォォー!
暴漢が晴人を襲う。
パキッ、ガシャン
晴人の中で、何かが壊れた音がした。
晴人は叫び声をあげ、前方に倒れた。
目を開ける。ぼやけた視界の焦点が定まってゆく。見慣れた天井だ。
「あ、起きた。」
聞き慣れた声を聞いた。
「…。」
「無理しなくていいよ。昨日あれだけボロボロになって帰ってきて、お母さん心配してたよ。」
「あ、ああ、すまない…。もう大丈夫だ。」
昨日のことが夢だったかのように、体に痛みはない。
「『大丈夫だ、問題ない』じゃないよ。昨日は何があったの?」
「…まぁ…後で話すよ。」
(お兄ちゃんがミームにツッコまないなんて…。)
「今日もかわいいよマイハニー!」
「あなたもかっこいいわマイダーリン♡」
「…。」
教室のドアを開け、晴人が入る。
「おはよう。晴人。」
「私のアイジン!」
「もーう、浮気はダメって言っただろ!」
「…。」
晴人は黙り続ける。
「どうした?いつにもましてつれないなー。」
「何、私のアイジン、そんなに嫌だった?ごめんね…。」
「いや、何でもない…。」
晴人は窓際の席から、外の風景を眺める。
「お、おう、それならよかったけど。」
「私たちのは、全部、冗談、なんだからね…。」
二人は困惑する。
授業も休み時間も、まったく気力が出ない。いつにもまして必要最低限しか喋らず、ボーっと過ごしていた。
「やっぱりここだったんだね。」
帰り道、再び低めの声が聞こえた。
赤いマントに月桂樹の冠、あの少女がいた。
「学ランから調べさせてもらったよ。こっちに来て。」
晴人は手を引かれるままに、帰路に面した公園に連れられた。
二人はベンチに腰掛ける。
「まずはあなたのような一般人を巻き込んでしまったこと、謝ります。」
「はい…。」
「同僚から薬をもらってきたから、お詫びのしるしに。」
少女に補助されながら、差し出された真っ白な錠剤を飲み込む。
バラバラになった心が、形を取り戻し、組み合わされて、元の状態に戻る。そんな気がした。
「はっ!あなたは…」
気力を取り戻した晴人は、目の前の少女に驚く。
「治ったようだね。早速だけど、君は『ゆりはら かえさ』という人のことを知っているの?知っていたら、教えてくれる?」
「あなたは…何者なんですか。」
「質問に質問で答えるの。まぁ、いいわ。オクタウィアナ。ウィアナでいいよ。カエサさんの姪。」
(それにしては似てないような…)
昨日の一件といい、表情、話し方といい、格好と外見以外、カエサとは似ても似つかなかった。
「それで、教えてくれる?」
「わかりました。俺は11歳のとき…」
その時だった。急に強い風が吹く。砂ぼこりを防ぐために腕で目をふさぐ。
「晴人ォォォ!」
「か、和也(かずや)!」
「友達?」
ウィアナは問う。
「はい、小学校時代の友人です。しばらく会ってなくて…」
「あの時の…仕返しだ!!」
和也が黒いオーラをまとい、オーラは右手に集まる。
「あの時のこと、すまなかった!」
晴人は頭を下げ、謝罪する。それも普段の無感情なものではなく、しっかりと誠意を込めた謝罪である。
「ずっと、悪かったって思ってたんだ。それでも、お前が転校しちゃったから、ずっと謝れなくて…。」
「また、優等生のフリかよっ、」
和也は右の拳を振り上げ、またもや風が吹き荒れる。
「くっ…!」
晴人は紙で作った人形のように吹き飛んだ。地面が近づいていく…たたきつけられたらひとたまりもない…
「アングリカ・ヴォロー(天使は飛び立つ)!」
ウィアナが天使の羽で飛び立ち、晴人を抱え、背中でおぶった。
「とりあえず、逃げるよ。」
空中で加速し、街の上空を低空で飛行しながら、公園から逃れた。
(あの時と…似てる。)
心の中で、晴人はそう思った。
#2 淡い記憶の続き continuatio de tenui memoria (前編)
前回の続きの一日前、晴人が暴漢に襲われた日のこと。
「シャッター街」と揶揄される割には活気の残る商店街、リゲル通り。そんな通りも、少し外れれば薄暗い路地裏に続く。そんな夜のこと。
「俺たちと遊ぼうぜー、姉ちゃん。」
「ヤベェです!小川さん、パネェです!」
制服らしきものを着ているので、どこかの学生だろうか。ブレザーを着たガタイの良い男と、学ランを着た小柄な男が二人、一人の女に押しかけている。
「あなたは…、私の王になってくれる人?」
黒いヴェールの向こう側、女はガタイのいい方を見上げる。
「商〇女風情が、俺に訊くんじゃねぇ!」
黒いドレスに、後ろで団子にまとめた長髪。確かにそういう仕事をしているように見えなくもない。
その女の大きめな胸を男は乱暴につかんだ。
「マジパネェです!小川さん!」
「・・・。」
二人の興奮をよそに、女は声一つ出さない。
「はぁー…。女を惚れさせる言葉の一つも持たないのね。」
「何だとぉ――!」
「こいつ生意気ですよ!やっちまいましょうです!」
大柄な男が拳を振り上げる。
「ウフッ。かわいい猫ちゃん。」
「・・・、へ?」
小柄な男はすぐに異変に気が付いた。小川、という男の動きが止まったのだ。
「動け…ない」
二人とも、何が起こったのかわからない。
バタッ
「お、小川さん!」
「大鳥、お前だけでも、逃げろ…。」
「・・・お、小川さんに、何をしたんですか!」
女の方を向き、得体のしれない恐怖を振り切り、叫ぶ。
「フフ。女はミステリアスな方が光るものよ。」
「こ、答えになってないです!」
「…美しいバラにはトゲがある、もっと美しい女には、毒がある、ただそれだけのことよ。」
女は笑みを浮かべ、しゃがんで大鳥に顔を近づける。
「弱い犬ほどよく吠える、と言うけれど、あなたの匹夫の勇、気に入ったわ。名前は何て言うの?」
「お、大鳥、雄舞(ゆうま)…です。」
「ユウマ…、男らしい名前ね。私はナナ。」
ナナと名乗る女は、大鳥のあごを引き寄せる。ヴェールが雄舞の顔をこする。
「ねぇ、私の犬にならない…?かわいいワンちゃん…♡」
チュッ
「んんっ…」
男子しかいない学校に通っている雄舞には刺激が強すぎる。だけど…
「許さないです…。」
「あら?」
ナナをにらみつける。
「小川さんをこんなにして、俺は許さないです!」
ハァ、ハァ、興奮に息を切らす。
「まぁ、それは悪いことをしたわね。」
ナナは立ち上がり、倒れたままの大男の前に立つ。
「俺を、どうするんだ…」
「あなたも…まぁ、私のネコとして飼ってあげる。私を楽しませて。」
ナナは胸の谷間から、何かを取り出す、というより、何かがパッと出現したようだった。
横向きの洋封筒に見える。
「これは招待状。受け取って。」
動けなくなっていた小川の口に、「招待状」が差し込まれる。有無を言わさず押し付けているのに近い。
「ウ、ウガァァァァ!」
急に元気になったかと思えば、黒いオーラを身にまとい、正気であるようには思えない。
「男の暴走は時に頼もしいのだけれど…これではエサの切れたネコね。」
小川は近くに停めていた自分の自転車に乗り、リゲル通りを爆走する。
雄舞は、ナナの興味が小川に移ったように思い、安堵と共に恐怖がよみがえる。空の月だけがまぶしく光る路地裏の中、ただ茫然と、友人の暴走を眺めていた。
「サジッタ・アングリカエ!」
天使の矢が放たれた。
途中に晴人の妨害も受けながらも、月桂冠の魔法少女は小川を仕留める。
「やっぱり、所詮はかわいらしいネコね。」
野次馬の後ろでつぶやく。雄舞は手を引かれ、ナナについてきてしまったのだ。
「どう…なったんですか…」
「ウフッ。」
ナナは再びしゃがみこみ、耳元でささやく。
「あのネコちゃんより、かっこいい男のところに、連れてって♡」
ペロッ。彼女は雄舞の耳の付け根をなめる。
「んんっ…」
女への恐怖か、官能か、全身に刺激が走る。訳も分からず混乱したまま、言われるがまま、彼はナナと夜の闇に消えた。
・・・
日の光が暖かい週末の昼下がり、親の車の窓からいつも見ていた景色。遠くにそびえる名前の知らない山々の新緑がきれいで…。眠気でぼんやりとした、そんな記憶を晴人は思い起こす。
で、彼は今、その山々のどこかにいるわけで。
「何でこんなに逃げるんですか!ここは一体どこなんですか!」
急に襲ってきた旧友から逃げ、二人はかなり遠くまで来た。
「晴人くん…で合ってるよね。じゃ、私はちょっと行ってくるから。迎えに来るまで宿題でもして待ってて。」
小学生の親かよ…、心の中で思う。
「ひとつ、質問、いいですか。」
ウィアナが翼を広げ、今にも飛び立とうとしたそのとき、晴人は言う。
「…、なるべく手短に。」
「あの人は、あの、俺を襲った男は、あの後どうなったんですか。」
ウィアナに飛びながらおぶられ、カエサとの約束を思い出したのだ。
「…、さっきのあなたと同じ。心の『秩序』を失って…、考えにまとまりがつかなくなって、気力がなくなって。傷つくこともできなくなってるから…だから、傷つけてはいない。」
「・・・、それは、ウィアナさんの、本心ですか…。」
晴人はあの男に同情するとともに、ウィアナの、何かを隠すような、言い訳するような、そんな物言いが気になる。
「私は…カエサのようには、なれないから…。」
ウィアナはさっきよりも静かに、空へと飛び立った。
(これで、もう彼には邪魔されない、ね…。)
(このままだと、和也も…)
そう考えるものの、この山から下りる方法がわからない…。周りには木と草しかなく、舗装された道も見当たらない。下手に動けば遭難、動かなくても…まぁ、遭難中なのだが。おまけに日は傾きはじめ、夜の森は獣がコワイ。ああ、近所でイノシシが出没したんだっけ。自分には関係ないと思ってたな…。
「…君のトモダチを、助けたいか。」
諦めかけた矢先、どこかから声がする。太めの女声。ついに俺にも幻聴が…。まぁ、幻聴でも、何かもういいや。
「助けたい、けど、どうすれば…。」
「私が下山の案内をすると言ったら?」
「…、それなら、勝機があるかもしれない…。」
「うむ。わかった。ウィアナにはいざというときの見張りをしろとだけ言われていたが、案内してやろう。」
「あなたは…一体?」
声だけの存在を怪しむ、というよりもうこれが現実なのかと怪しんでいた。
「私か、私は、上院セナ(じょういんせな)だ。まぁ、『すべての道がローマに通ずる』なら、おそらくいずれ会うことになるだろう。今日は見せてやろう。『秩序』の力をな。」
瞬間、あたり一面がピカッと光る。カメラのストロボを強くしたような光だ。
光が消え、目が慣れるまで少しかかる。視界が定まると、そこに道ができていた。
「君のために登山道を作った。といっても、仮のものだからすぐに消えてしまうがな。」
「ありがとう…ございます。」
一礼して、晴人は駆けだす。
「トモダチを…、そして、ウィアナを助けてやってくれ。」
既に遠く、晴人には聞こえなかった。
「やっぱりここか。」
晴人は下山し、帰宅する。
「待っていたぞ、晴人ォ!」
自宅の屋根の上に和也が座っていた。屋根から飛び降りる。
「すまなかった。あの時のことは謝る、お前が許してくれるまで、何度も!」
「だから優等生ぶってんじゃねぇ!」
和也から再び黒いオーラが出る。
(来るか…)
そのときだった。
「サジッタ・アングリカエ!」
グサッ。二人の間、家の庭の地面に、一本の矢が刺さる。上からだ。
「…自力で下山してきたんだ。それでもごめんね晴人くん。アウグルの占いがなかなか上手くいかなくて。でも、何とか間に合ったようだね。」
ウィアナは肩に鷲が乗っている。なるほど、あの鷲が攻撃対象の場所を占っているのか。
ウィアナにそんな能力が何かしら備わっていることを、晴人は想定していた。なぜ、まだ大した騒ぎになっていなかったリゲル通りの暴漢を察知できたのか。偶然にしては妙だった。しかしそんな能力があるとしても、ウィアナよりも先に和也を見つけ出す勝算があったのだ。
小学校時代の友人とは、よく互いの家に行ってゲームをするものだ。そんな仲だった和也なら、晴人の家を覚えているであろう。和也が晴人を狙っているなら、確実に会えるのは、晴人の家だ。晴人の学校、二番目に確実に会えそうな場所、の近くまで来ていたのは、彼の気持ちがはやっていたのだろう。
勝算といっても、ウィアナの能力の精度が高ければ負けていたのだけれど…、それでも勝算に賭け、辛うじて勝利した。
「テメー!さっきはよくも晴人を逃がしてくれたな!先にお前をぶっ〇してやる!」
和也はもう一度下へ振りかぶる。
「させないよ。」
ウィアナは弓を引く。
「待て!」
晴人だ。和也ではなく、ウィアナの方を向いている。
「これは俺らの問題だ。助けてくれたのはありがたいが、これ以上首を突っ込まないでほしい。」
「…あなた、本気で言ってるの…。」
「ああ、俺は、カエサさんとの、約束を果たさなきゃならない。」
「…そう、勝手にすれば。」
晴人は和也の方を向く。
「じゃあ、少し場所を変えよう。」
「懐かしいな。ここで日が暮れるまで遊んで、お互い親に叱られたっけか。」
互いの家に近い公園にやってきた。遊具や樹木もないわけではないが、所々はげた、だだっ広い芝生ばかりが目立つ。
「余計な御託はいい…あの時の、仕返しだ!」
「まだ、怒ってたんだな…。あのときはすまなかった!」
何度でも頭を下げる。
「あの時は、お前の気持ちを全く考えてなかった!ただルールさえ守ってればいいと思ってたんだ…傷つけてしまったこと、全部謝る!」
「・・・。」
沈黙が続く。しばらくして見上げると、驚きと共に、失望した表情を、和也は浮かべていた。
「そればっかりだな…。やっぱりお前は…もう、あの時のお前じゃないんだな…。」
和也は後ろに振り返り、ゆっくりと歩いてゆく。
「…、待ってくれ…和也!」
追いかけようとしても、追いかけられない。走れば絶対に追いつく。無理やりにでも手を引くことだってできる。でも、その気になれない。
離れてゆく背中。これが、幼なじみであった二人の、心の距離なのかも、しれない。
#3 淡い記憶の続き(中編) continuatio de tenui memoria
前回の続きの一日前、大鳥雄舞とナナのその後の話。
「ここは・・・、前にも来たことあるわね。」
ナナは晴人を襲った暴漢に真っ黒なオーラをまとわせ、暴走させた後、雄舞に連れられ、怪しいネオン街へ赴く。
「俺らも時々ここに来るんですが、今日はとんでもないバトルがやってるって小川サンから聞いたです。ほら、あそこです。」
雄舞はY字路の中心を指さす。タバコ屋の前、ガタイのいい男たちが取り囲む中、二人の男がにらみ合っていた。一人は長身で、袖の隙間から入れ墨が見える。30代前半くらいだろうか。もう一人はそれよりずっと若い、髪で目が隠れた中くらいの伸長の青年だ。
「泣いて謝るならやめてもいいんだぜ、坊ちゃん。」
「「「ア・ニ・キ!ア・ニ・キ!・・・」」」
オーディエンスたちが歓声を上げる。どうやら入れ墨の男はそういう職業なのだろう。
「・・・、お前が泣くのか・・・?」
「「「生意気だー!ひねりつぶせー!」」」
「なかなかやるじゃねぇか坊ちゃん、ちいせぇ頃の俺みてぇだな。あ、ちいせぇ頃って言っても、小坊んときのことだけどな!ガーハッハッハ!」
「・・・。」
青年は少しも表情を変えない。
「ハッハッハ・・・、笑いつかれたぜ。おい、何か言えよ。」
「・・・。俺はお前を倒して強さを証明する、それでいいか。」
「面白ぇこと言ってくれるじゃねぇの。じゃ、特別に、こいつは使わないでおいてやるよ。」
男は懐に隠し持っていた拳銃を捨てた。
「はぁ~。」
二人の掛け合いを見て、ナナはため息をつく。
「お気に召さなかったですか。」
「あの男はもう知ってるわ。手下には虚勢を張ってるけど、親分の力がなければ極道の世界では何もできない、つまらない男よ。」
「そう・・・なんですか・・・。」
不良もどきの自分が住む世界とは違う…、雄舞は感じた。
「私は帰るわ。あなたに期待したのが愚かだったようね。」
振り返ろうとしたその瞬間だった。
「・・・へ!?」
バタン、人が倒れる音。音の持ち主は、入れ墨の男だった。
観衆がざわめく。入れ墨の男は鼻血を出して仰向けに倒れている。青年の拳が、入れ墨の男の顔面に当たったらしい。
「何で・・・だ・・・」
「俺はお前の拳から目をそらさなかった。お前は俺の拳で目を閉じた。それだけの違いだ。」
「ふ、ふざけるなーーーーー!」
男は懐のもう一方から新たな拳銃を取り出し、突きつける。
「お、お前、使わないんじゃなかったのか!?」
「俺たちはなぁ、お天道様がとうの昔に見捨てたこの道の人間はなぁ、嘘をついてでも勝ったやつが偉いんだよ!」
「「「さすが兄貴!組長就任秒読みですぜ!」」」
「チッ」
青年は周りを見渡す。完全に取り囲まれている。
「へへ、そういうこった。こっちはメンツがかかってんだ。俺はな、このシマのやつら全員を騙して組長になる男だ!そんじゃ、あーばよ!」
引き金が引かれ、鈍い銃声が鳴る。
(へへ、勝ったな。)
銃口からのぼる煙に阻まれて、前が良く見えない。
「「「・・・」」」
(どうして・・・こんなに静かなんだ・・・まさか、銃声で耳をやっちまったか・・・?)
段々と煙が消えていく。耳も聞こえるようになっていく。
「やっぱり、あなたってくだらない男ね。」
(へ、ヘビ・・・!?)
ナナは細長い蛇を右手で握り、蛇は銃弾を咀嚼する。
そこにいた一同の、誰もが状況を理解できず、ただ黙っている。
「!?」
青年はナナと目が合う。
「あなたの目をよーく見てみると・・・、感じるわ。世界を恨む気持ちと、偽りでない強さが。ああ、『あの人』そっくり。」
「お、俺は、誰かに似てなんかいない!」
「じゃあ、そうなってみる?」
左手で「招待状」を渡す。青年は怪訝なままで受け取った。
「あなた、名前は何て言うの?」
「・・・和也」
「強いあなたにぴったりの、男らしい名前ね。じゃあ、行きましょうか。」
「ちょ、ちょっと待て!」
ナナが和也の手を引いた時、入れ墨の男が制止する。
「まだ、終わってねぇ・・・。」
立ち上がってゆく手を阻む。
「そう。だけど生憎、和也さんにこんな男と戦わせるわけにはいかないわ。私がトドメをさしてあげる。特別に、この蛇を使わないで、ね。」
(それなら、勝てる・・・)
長身の男にとって、小柄なナナは相手ではなかった。
「言ったな、後悔させてやるよ…うっ・・・」
「あら残念。私も『この道の人間』だったみたい。」
ナナの蛇が男の腕にかみついている。一匹、二匹、三匹・・・十匹は軽く超えている。
男は悲鳴を上げ、卒倒した。
「道を開けなさい。」
観衆たちは急いで輪に穴を空ける。
「あなたも・・・ついてきてもいいわよ。」
「へ?」
雄舞は夢中で、ナナたちについてゆく。
「これが、俺の力・・・」
「やっぱり、あなたならこの『渾沌』の力、使いこなせると思ってたわ。」
以前の小川のように、暴走している様子はない。
「・・・これから、俺はどうすれば・・・」
「行きたいところに行きなさい。あなたは世界を恨んでいるようだけど、世界よりも、もっと恨んでるものがあるんでしょ。」
「何でもお見通し、というわけか。昔の母さんみたいだな。」
「なってあげるわよ。いい女は、ママにも、姉にも、妹にも。」
「気持ち悪ぃ・・・」
そう言って和也は闇の中へ消えた。
チラッ
「な、何ですか…。」
「雄舞さん、私、和菓子屋の大福が食べたいのだけど・・・」
「こ、こんな時間に空いてるわけないです!」
「和菓子屋のが・・・食べたいのよねぇ・・・。」
「わ、わかったです、ちょっと待ってるです!」
(結局、またパシリに逆戻りです・・・)
三者三様のまま、夜は明ける。
時間進んで翌日。晴人と和也が分かれた後、和也は家に帰る。
「ただいま。母さん元気?」
返事は返ってこない。散乱したゴミの中、床を探して進む。
(今日も、ずっと寝てるか・・・)
親が離婚してから、和也の母は夜に遊び歩くようになった。いや、元々遊び歩いていたから離婚したのかもしれないが、今となってはわからない。
「は、和也、帰ってきてたのね。ねぇ聞いて、○○さんがひどいのよー。いい歳したオバサンとは話さないって。私だって、九捨九.五入すれば30歳なのに、ひどくない?」
母親が布団に寝そべりながら話す。
「・・・、39なら、四捨五入しなくても40だろ。」
「冷たいわ・・・息子にも振られちゃったかしら。」
(もう・・・やめてくれよ。)
息子も大きくなったというのに、恋愛にかまけている姿は和也にとって片腹痛いものがある。彼は無造作に横たわっているペットボトルを避け、そこに横になる。
さらに翌日に進もう。
「昨日はよくもやってくれたな・・・」
学校の中、和也は眉毛が薄い同級生ににらまれる。「渾沌」の力が如何ほどのものか、周りの不良たちで試していたのだ。
「今日は隣町の学校からアニキを連れて来たぜ・・・、アニキ、よろしくお願いしまーす!」
「おう、てめぇがおれの子分をかわいがってくれたとかい・・・キャッ!」
「ガタイの割に可愛い悲鳴だな。」
造作なく親分を吹き飛ばす。
「え、アニキまで・・・すいやせんでしたぁ!」
不良二人は走って逃げる。
(・・・なぜ、満たされない・・・。こんなに「強く」なったというのに、空っぽのままだ。)
和也は窓から外を眺め、しばらくして立ち上がる。
「喧嘩は外でやれと言っただろう!え、どこへ行くんだ、和也くん・・・?」
先生の声も聞こえず、ただトボトボと学校を出る。どうせ真面目に受けてない授業だ。出てなくたって変わらない。
「また会ったわね。」
校門でナナが日傘を差しながら待っていた。
「じゃねぇだろ、どうしてここがわかった。」
「この学校は、できたばかりの頃はもうちょっと落ち着きがあったけれど、今じゃ・・・お察しね。」
「うるせぇ。」
「ところであなた、自分の力を使う、目的を失ったみたいね。」
「・・・。」
「沈黙は・・・雄弁よりも多くのことを語る。」
「何で分かった!」
「何人、そして何年、男を見てきたと思ってるの?」
(コイツ、苦手だ・・・。)
母親のことを重ねていた。
「ねぇ、教えて、あなたのこと。もっと、知りたいの。」
ナナは和也の顎を、左手で引き寄せた。
「・・・わかった。」
ナナは苦手でも、藁にもすがるような思いだった。
「探したですよ!大福、買って来ましたです!」
雄舞がやってきた。
「あら、ありがとう。・・・美味しいわ。でも、今度はお茶が飲みたくなっちゃった。」
「・・・自販機探してくるです。」
「あったかい、急須で入れたお茶を・・・お願い。ウフッ♡。」
ナナはパチリとウィンクをする。
「・・・わ、わかったです!」
雄舞はまた、夢中で走った。
キーンコーンカーンコーン
晴人が通う、滝の宮学園では、チャイムが鳴る。
「三角比できたか?晴人、そしてマイハニー。」
「余弦定理はあれで合ってたかしら?」
「お、おう・・・。」
数学の小テスト。他人の出来は、ひょっとしたら自分の出来以上に気になるものだ。しかし、
(俺は、どうすればよかったんだ・・・)
晴人は昨日と幼い頃の記憶を反復したまま、心ここにあらず、といった風である。
「昨日の件、あなたのせいだよね。」
世界の人々の心の奥深層はつながっている。神話に共通性が見られるのはそのためだ、と誰かが言う。その奥深層に魔法少女たちの拠点はある。凱旋門や古代式の柱が立ち並ぶその「精神世界」に位置するこの地で、ウィアナは上院セナを問い詰めていた。
「やはりばれてしまったか。」
「あのとき彼を逃がせられるのは、セナさんしかいないから。安全を見張るだけって言ったよね。」
「確かに私は彼を逃がした。」
「それで、『渾沌の存在』を、取り逃がしてしまったのだけれど。」
「・・・私は、たとえ渾沌に飲み込まれた者でも、彼らの心の『秩序』を破壊して無力化するより、鬱屈とした気持ちを取り払い、秩序を回復させてやった方がいいと思っただけだ。カエサだってそうしていた。」
「だから、カエサは消えていった。」
精神世界は現実世界よりも静かだ。
「・・・そんなに深く考えこまなくてよい。お前はまだ若いのだ。」
(若いなら、どうして―。)
ウィアナは涙をこらえた。
「ああ、お前には相当な負担をかけてしまったな。もう、辛いことはガマンしなくていい。」
「でも、そしたら、世界の『秩序』が・・・。」
「魔法少女はお前だけではない。それに、あの青年は、お前を救ってくれるだろう。」
「どうして、そんなことがわかるの。」
「そうだな・・・。」
セナは後ろに振り返り、上を見上げる。
「彼は、カエサの希望だからな。」
「・・・まだ、私にカエサのこと、何か隠してる。」
「冗談だ。しかし、カエサがかつて彼に会ったというのは間違いない。一度、話を聞いてみるといい。」
(ホント、遠回しにしか話してくれない・・・)
「そうだ、晴人君に会ったら、これを渡しておいてくれ。」
アルファベットとローマ数字が書き連ねられた一枚の文書を渡される。
「請求書?」
「晴人君が飲んだ薬代だ。」
「巻き込んだのは私の責任だから、私が払うって言ったよね。」
「それなら、そうしてもいいのだが…、とにかく、必要な時が来るまで持っておくといい。」
(もうわけが分からない…。)
カエサは現実世界に戻り、天使の羽で飛び立った。
「見つけたよ。晴人くん。」
殺風景な河川敷に、晴人は来ていた。ウィアナは上空より、そこに着地する。
「お、俺に、何をする気だ。」
晴人にとって、彼女は自分を助けてくれた恩人であるとともに、友人を狙っている敵でもある。おまけに避難のついでに山奥に拉致されたこともあった・・・。
「・・・懐かしいな、この河川敷。よくカエサが連れてってくれた。」
「・・・。」
二人は川の浅瀬をしばらく見つめる。
「サイは投げられた!」
「!?」
「カエサのマネ。似てた?」
「・・・はい。」
かすかに聞こえるだけの声で、晴人は答える。
「・・・今日は、あなたをどうするつもりもないから。・・・カエサとの『約束』について、聴かせてくれる?」
「・・・わかりました。」
「あ、多分同年代だから、敬語は使わなくていいよ。」
「わ、わかりました。じゃなくて・・・、わかった。じゃあ、最初から、順を追って話そう。あれは、小6のときのこと・・・」
さっき涙をのんだせいか、ウィアナは以前の冷酷さとは対照の、やさしい目をしていた。
日が沈みかけた空と、やわらかい眼差し。晴人はカエサさんとの思い出を重ねたのだ。友人を傷つけたことに気づき、深く悲しんでいた少年の手を、強く、やさしく握ってくれたあの人との思い出を。
#4 淡い記憶の続き(後編) continuatio de tenui memoria
「俺は、少しだけ勉強ができるけど、人付き合いが苦手な子供だった。」
晴人はウィアナに語り始める。
「人に合わせるのが苦手で、いや、できるけど嫌いだったのかもしれない。最初は相手と楽しく遊んでいても、途中で自分勝手なルールを作ったり、会話を無理やり変えて自分の好きなことを話し始めたり。初対面では仲良くできても、段々と相手のペースに合わせられないことがわかって、お互いを嫌いになってしまう。そんな子供だった。」
「よく覚えているね。」
「まぁ、よく周りの大人から文句言われたからね。」
「…続けて。」
「わかった。小学校に入って、また友人ができるか不安だった時、和也は俺に話しかけてくれた。なんというか、俺も、アイツも、自由だったんだ。自分の好きなことを好きなだけやって、飽きたら一人でやめる。同じことをやってなくても、よく一緒にいた。お互いの家に行ったり、この川とか、公園とか、いろんなところで、俺たちは一緒にいた。小4くらいの頃は、毎日遊び歩いていたっけな。」
「だいぶ仲が良かったんだね…。」
ウィアナは空を見上げる。
「それから小5に上がって、あるとき、俺は親に進学塾に連れていかれた。」
「中学受験してたんだ。」
「まぁ、勉強は少しできたのと、親が熱心だったから。塾でも、おれはそれなりにうまくやっていた。小学校では井の中の蛙だと思っていたけど、勉学に秀でた人間が集まる塾でも俺は勉強がそこそこできる。そんな自信がついた。」
「どおりで、県一の進学校に通っているようだね。」
「きっとアイツも、俺ならそこへ行っているだろうと思って、学校前まで襲いに来たんだと思う。」
「なるほど。」
「…話を戻そう。自信を持つ、ということは、いいことのように聞こえるけど、恐ろしいことでもあったんだ。通っていた塾では、成績でクラスが決まった。その中で、上のクラスに行こうと、みんな必死で努力してた。数多くの宿題をこなし、テストが終わっても間違ったところをしらみつぶしに直して。クラスが上がれば、先生も親も、友人も、みんな褒めてくれた…。その反面、いや、だからというべきか、俺は真面目に努力している自分を『偉い』とか、『正しい』とか、思いこむようになった。」
「それで成績が上がるなら、悪い人にあこがれるよりいいことだと思うけど…。」
「思い込み方が問題だったんだ。俺はその自意識を、塾だけじゃなくて、小学校にも持ち込んだ。普段遊び歩いている周りの奴らより、将来のために勉強している真面目な生き方が『正しい』と思ってしまったんだ。その盲目的な正しさを信じて、俺は荒れた。具体的には、宿題のチェック係に就任したのだけれど、一人、ずっと宿題をやってこなかったやつがいた。」
「まさか…。」
「そう、和也だ。俺はアイツも『正しい』生き方をさせようと、押し付けてしまったんだ。普段の会話の中で宿題を勧めたり、挙句の果てにはクラスメートの前で糾弾したこともあったかな…。」
「そう、だったんだ。」
「後から聞いた話だけど、アイツの家、その時親が離婚したらしいんだ。大事な家族の問題を抱えているのに、勉強に割ける精神的余裕なんてなかったよな…。でも、俺はそんなことも知らずに、ただ自分の『正しさ』を押し付けていた。そしてあるとき面と向かって言われたよ。『お前はもう、友達じゃない』ってね。ショックだった。俺のやったことは正しいと思っていたけど、それが友だちを傷つけていたんだ。」
(…。)
二人はしばらく沈黙する。
「友人を失った悲しみと、傷つけてしまった後悔で、その日はずっとぼんやりとしていた。そんな時だった。俺の前にカエサさんが現れたのは。」
「…詳しく聞いていい?」
「うん。学校からの帰り道、よく和也と遊んだこの河川敷に来ていた。殺風景で何もない分、一人で悩むのにはいい場所だと思った。そこで、あの人は、現れた。」
「どんな風に?」
「悩み事で頭がいっぱいだったから、よく覚えてない。とにかく、そこにカエサさんは現れて、俺の悩みを聞いてくれた。」
「そっかー。友だちを傷つけてしまって、キミは後悔しているんだね。」
晴人の頭の中に、あの日の記憶がよみがえる。
「私も、思ってることが友だちと違って、相手を傷つけてしまったこと、あるよ。」
「その友だちは、今、どうなっているんですか。」
「ちょっと、寝込んじゃってるかな…ハハハ。」
「それなのに、何で、平気そうなんですか…。」
「あの時は、私も、彼女も、自分の思う『正しさ』を互いにぶつけあったの。その結果だから、私は後悔してない。結果的に相手が寝込んでしまったのは、とっても悔しいけど。」
「・・・。」
「キミは真面目に努力するのが正しいと思ってた。けど、友だちには、もっと大切なことがあったんじゃないかな。」
「そう…ですか。」
「キミが思う『正しさ』はきっと間違ってない。けど、そう思うなら、友だちが思う『正しさ』も、気づいてあげなきゃ。それに気づけたら、後はキミたち次第。」
「それでも…アイツは許してくれるかな…」
「サイは投げられた!」
「!?」
「昔のことわざ。今まで何をしたかよりも、これからキミがどうするかが大切だよ。」
「で、でも…。」
「もう、しょうがないなー。今からキミに魔法をかけるね。」
「え?」
カエサは晴人の手を取る。
「私、魔法少女だから。ユリハラ・カエサ。覚えててね。今からかける魔法は、キミが、そしてキミの友だちが、苦しいこと、辛いことがあっても、いつかは立ち直れるようになる。そんな魔法。目をつむって。」
カエサは晴人の手を強く握る。
「完了!これできっとうまくいくよ。」
「ありがとう、ございます。」
「あ、ちょっと待ってね。今日は送ってあげる。乗って。」
「もう、そんな歳じゃないです。」
「いいから。」
仕方なく、晴人はウィアナの後ろに乗る。
「しっかりつかまっててね!ウェヌス・ヴォロー(女神は飛び立つ)!」
「わぁー。」
街の上空を飛び、まさに夢見心地で、声にならない声が出る。
家まで案内し、そこでカエサと別れた。
「それ以来、相手にも『正しさ』がある以上、相手を傷つけないようにしよう、って思ったんだ。」
「和也くんとは、それからどうなったの。」
「あ、ああ、そうだったな。俺は傷つけたことを謝ろうって、翌日学校に行ったら、アイツは急に転校していた。」
「・・・。」
「謝ることすらできず、俺たちは別れてしまったんだ。だいぶ精神に応えたね。でも、だから、嬉しかったんだ。久々に和也に会えて。それなのに、謝っても、許してもらえなかった。というか、しっかりと謝ることもできなかったんだ。『サイは投げられた』って、もう、こうなることも決まってたのかな。」
「カエサは、謝らなかったよ。」
「え?」
「カエサは、借金をなかなか返さなかったり、少し煽られただけで怒って手が付けられなくなったり、よくないこともいろいろしてた。だけど、決して謝らなかった。」
「どうして…」
「きっとカエサは、相手の『正しさ』を尊重するとともに、自分の『正しさ』を信じて疑わなかったんだね。それでも、なぜか、私も、みんなも彼女の周りに集まった。」
ウィアナはまた空を見上げる。青空は段々と夜空に変わっていく。
「…そうか、そういうことか。」
晴人は何かに気づき、立ち上がる。
「どうしたの?」
「あの淡い記憶の続きを、始めたい。協力してもらえる?」
「と、いうことがあったんだ。」
和也もナナに、いままでのことを話す。
「その困難を乗り越えて、今のあなたがあるのね…。深みがあって好きよ。」
「気持ちわりーな。」
「そう。もっといろいろお話したいけど、どうやらここまでのようね。」
「和也ァー!」
ウィアナにおぶられ、晴人は上空より着地する。昨日別れた公園だった。
「いらっしゃい。待ってたわ。」
「やっぱりあなたのせいだったんだね。一般の人に『渾沌の気』を与えて世界を渾沌に陥れる。今度もそうはさせないよ。」
ウィアナはナナに向かって弓を引く。
「あら残念。私も和也さんも、あなたと戦っている暇はないの。行きなさい、私の子供たち。」
「クッ!」
ナナが手を前に伸ばした瞬間、うろこ状の鎧を着た、兵士が現れた。数にして10,20,30…古代エジプト風の兵士が広くて何もない公園を埋め尽くす。手には弓、剣、そして似つかわしくない、銃を持っている者もいた。
「プリューマ・テンペスタース(翼の暴風)!」
ウィアナは羽ばたき、嵐を巻き起こして兵士たちを遠ざける。
「つかまって」
巻き添えをくらった晴人の手を、ウィアナは強く握る。
「ごめんね。でもあとはまかせたよ。」
風が収まると晴人を下ろし、ウィアナはナナに襲い掛かる。
「やっと一対一になれたな。」
「また、謝りに来たのか?」
「いや、俺はお前には謝らない。」
「じゃあ、自分こそが正しかったと言いに来たのか?」
「それも違う。」
「じゃあ、何しに来た。」
「お前を、受け入れに来た。」
真っ暗な空の中、二人は対峙する。
「どういうことだ。」
「気づいたんだ。自分を正しいと思い続けるのも、相手を肯定し、自分を否定してただ謝罪するのも、それはお前と本気で向き合ったことにはならない。俺がやらなきゃならないのは、自分の思う『正しさ』と、お前の正しさをぶつけあうことだって。それこそが、お前を受け入れることなんだって、やっと気づけた。」
ウィアナから聞いたカエサの行為を通して、晴人はカエサの真意を理解した。
「そうか、それがお前の思う、『正しさ』というわけか。」
「そうだ。」
「ハッハッハ!」
「何がおかしい。」
「俺はな、お前に勉強のことを言われるのが嫌いだった。血反吐吐くほど苦しかった。けど、お前に言い返すことはできなかった。なんでだかわかるか?」
「何で、って…。」
「それはな、お前が勉強ができた、つまり、学校と言う場所の中で、お前の方が『強かった』からだ。人はいつでも、自分の『正しさ』を証明するために、『強さ』を証明してきた。何がお互いの思う正しさだ。強いものが思う正しさこそが受け入れられる。そうだろう。」
「違う、俺たちなら、二人の正しさを、両立できる!」
「いまさら遅いんだよ!」
和也の周りに竜巻ができる。
「っ…。」
「俺はな、お前と別れてから、強さを極めた。町中の不良たちと毎日喧嘩に明け暮れて、俺は強くなっていった。そして今度は、この渾沌の力を手に入れて、俺は最強になった。」
「う…。」
「もう、昨日みたいな迷いはない。俺はお前を倒し、そして世界中の奴らを倒し、俺の『強さ』を証明する!」
「そうか…。それがお前の『正しさ』か。だったら、俺はそれを受け入れる!」
荒れ狂う暴風の中、晴人は必死で前に進む。
「プグヌス・アウグステイ(正帝の拳)!」
紫色の魔法少女が敵の兵士を殴りつける。
「ト・ヘーゲモニコン(指導理性)。」
青色の魔法少女は敵の矢をよけると、別の兵士に命中する。
「ティアナ、アウレリア、もう少しだけ耐えて。」
「言われなくてもわかってるよ/わかってるッス!」
ウィアナのもとへ仲間が駆け付けたようだ。
「あらあら、よそ見は感心しないわね。」
ナナがヘビを放つ。
(右上、下、左、左上4匹。トリッキーな出し方を。)
「サジッタ・アングリカエ(天使の矢)!」
一度に5本の矢を射る。4本は蛇、1本はナナであった。
「防御だけに気を取られず、私を狙う。その戦略は褒めてあげるわ。」
(まだヘビを隠し持って…!)
矢はもう一匹のヘビに食べられる。
二人は一進一退の攻防を続けていた。
「ユリアーナよ、お前はこの戦いをどう見る。」
公園近くの民家の屋根の上、ガタイのいい老紳士と、一人の少女が遠目で戦闘を見ている。
「ほんと、『どうしてこうなった』て感じだね。」
少女はため息をつく。
「いや、どちらが勝つと思う。」
「まぁ、お兄ちゃんからすれば、どっちでもいんじゃない?」
「お前は『戦い』に興味はないのか?」
「ないね。だって逆張りオタクだから。」
「そうか。残念だのう。」
男は真剣に、少女はぼんやりと戦いを眺めている。
「クッソ、前が見えない…。」
和也の風は段々と勢いを増してゆき、目を開けることもままならなくなってきた。
「…君のトモダチを、助けたいか。」
(その声は…)
「ああ、上院セナだ。やはりまた巡り合うようだな。今は、お前の心を読んでいる。心で返事をしろ。」
(助けたい…というより、もしかしたら自分の後悔とか、そういう気持ちを晴らしたいだけなのかもしれない。)
「そうか、ならただの自分の願望というわけか。」
(それでも、俺は俺のこの思いを、アイツにぶつける!アイツの正しさと、俺の正しさをぶつけ合う!それが俺たちの、自分勝手な俺たちの望みだから!)
「そうか…。お前に『秩序』の力を分けてやろう。彼の『渾沌』とぶつけ合うといい。」
(少しずつだけど、力が、みなぎる…)
「トランサベオ(変身)!」
晴人は叫んだ。変身の呪文は、自然に頭に上ってきた。
(これが、俺…)
晴人は長い白Tシャツを腰のベルトで巻いた、古代ローマで言うトゥニカスタイルに変身した。しかしなにより、頭には月桂樹の冠が乗っていた。
(これなら、いける。)
「うぉぉぉぉぉ!和也、今そっちへ行くぞ!」
晴人を中心に赤々とした火だるまができる。晴人は少しも熱そうなしぐさを見せない。
火だるまはどんどん大きくなり、和也の竜巻とぶつかる。
(何だ…)
和也はもちろん、魔法少女たちも、ナナも、そして少女と老紳士も、晴人の方を見やる。
「トーメントゥム・オードゥム(秩序の火砲)!」
火だるまが和也の竜巻へと飛ばされる。
「俺は負けねぇ!」
和也は叫ぶ。
「俺は、俺のすべてを、お前にぶつける!」
少し前に少女が言ったように、晴人には勝敗よりも、自分の思いをぶつけることこそ重要であった。
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」
自分の思いをすべてぶつけ合っていた二人は、不思議と心地よかった。しかし、そんな時間は長くは続かない。
「「う、うわぁぁぁぁぁ!」」
二人は同時に上空へと飛ばされ、地面にたたきつけられた。
「おそらく、先に立ち上がった方が、今回の勝者だろう。」
老紳士は言う。
「まだ勝敗にこだわってるの?」
「男と生まれたからには、なぁ。」
「そーいうもんなのかな。」
少女と老紳士が遠目で見る中で、一人が立ち上がった。晴人だった。
晴人はよろけながら、和也の方へと歩いた。
「何をしに来た。」
晴人は何も言わずに、手を差し伸べた。
「また、友だちになりたい、とか言い出すのか?」
「そんなところかな。」
「もう、無理なんだよ。」
「どうして。」
「エリートコースを進んだお前と、底辺の俺では、住む世界が違うんだよ。もう、一緒にはなれない。」
「・・・。」
「ハハ。本当はあの時から寂しかったのかもな。だからお前にかまってほしかった。そんな自分勝手な奴なんか忘れて、お前はお前の道へ行けよ。」
「…。お前も俺も、もとから自分勝手だっただろ。」
「!?」
「この公園で、俺はブランコを漕いでいたけど、お前は滑り台で滑ってた。でも、お互い何か話したくなったら、急に話し始める。それでも一人でいるより楽しかった。そうだろ。」
「そう…だったな。」
和也は晴人の手を取る。黒い、渾沌のオーラが段々と消えていく。
「期待はずれだったわ。」
ナナは渾沌の兵士たちを引っ込めた。
「よそ見は禁物だって、言ってたよね。」
「大人の女には余裕があるものよ。また会いましょう。天使ちゃん。」
「無駄口をたたくな。サジッタ・アングリカエ!」
ナナは空気に溶けだしたかのように消えていった。ウィアナの矢はむなしく空を切る。
「じゃ、こいつのことは俺らに任せろ。」
紫色の魔法少女が和也を抱えて言う。
「気を付けてね。」
「もちろんッス!」
青色の魔法少女が答える。
二人は去っていく。
「和也は、どうなるの?」
和也は晴人の手を取った後、気絶していた。
「私たちの療養施設に運ばれて、しばらくは安静かも。渾沌の力は普通の人間には重すぎるからね。」
「そうか…。」
「でも、きっとすぐ治るよ。」
「どうしてわかるの。」
「カエサも、渾沌の力を受け取ってしまった一人一人に向き合って、彼らの気持ちを晴らしてあげた。そういう時は、だいたいすぐに回復してたよ。」
「よかった。」
晴人は安堵感から、公園の芝生に座り込んだ。
「あれ?なんであんな竜巻の後に芝生が残ってるんだ?」
「あ、それは私たちの魔法。『ダムナティオ・メモリアエ(記憶の抹消)』。魔法少女と渾沌の戦いの記録をすべて消し去る魔法。」
「そんなこともできるのか…。」
(どおりで、魔法少女の存在が知られていないわけだ。)
「今回は、ありがとう。それじゃあ。」
「あ、ちょっと待って。はいこれ。セナさんから。」
忘れていたウィアナへの感謝を伝えて、別れようとしたその時だった。
「これ、何?」
アルファベットとローマ数字が書かれているだけで、内容はよくわからない。
「請求書。」
「は?」
「あなたが心の『秩序』をなくしたとき、回復のために使った薬。あれ、高かったんだ。」
(まさかの、自腹…。)
魔法少女との出会いとか、渾沌との戦いとか、夢見心地になっていた途中で突きつけられた「現実」。晴人は唖然とした。
「ま、まぁ、俺があのときやられたのは、君を邪魔した俺のせいだし…。で、いくら?」
「しめ70万円。特別に利子無しでいいって。」
「え、えーーーーー!」
晴人の中で、ウィアナが恩人から恐ろしい借金取りに変わったような気がした。
「俺、学生だから…出世払いでいい?」
「ダメ。毎月5万円ずつ、14回で返してもらうよ。大丈夫。私も手伝ってあげるから。あ、逃げても無駄だよ。この世に『秩序』がある限り、セナさんは追いかけるから。」
「は、はい…。」
5月某日、阿具里晴人、学生。何かよくわからない存在に借金70万円をすることになりました。
まぁ、そんなわけで、俺とウィアナの「淡い記憶の続き」は、もう少し長く続くことになったのでした。
第一稿とのおもな変更点
「カズヤ」を「和也」に変更
名前がカタカナだと物語の中で浮いてしまった。書くたびに違和感を覚えていた。
彼にもローマ風の名前を与えたかったけど…ローマの偉人の功績をカバーするほどの活躍はさせてあげられないような気がして…
これからは味方にも敵にもローマや古代の人々をモチーフにしたキャラクターが出てくるからご了承を。
セナがウィアナに請求書を渡すシーンを追加
このシーンがなきゃどこで手に入れたんだって話だし、晴人に請求書を渡したウィアナの行動の真意がわからなくなってしまうね。
他、各種表現を削除、追加
少し続きを(草稿)
「フ、フフフフ。」
晴人は学校帰り、不気味な笑みを浮かべる。
「どうした晴人?最近元気ないと思ってたが…、何かあったら相談に乗るぞ…。」
「大丈夫。きっとどうにかなるさ。ハハハ…。」
「こんな投げやりな晴人君、初めて見たわ…。でも、いつもより感情豊かね。」
「良い…意味なのか?」
「ハハハハハハハ!」
急に地味に高めの借金を背負い、晴人は笑うしかなくなっていた。
「じゃあな、晴人」「またね。アイジン。」
「明日会えるといいな!」
「・・・。」
ブラックなジョークを交えつつ、友人と別れる。
「ヤッホー!待ってたよ晴人くん!」
高めの女声が聞こえる。
女性の声。妹の由利亜はこんな高い声じゃない。瀬宇くんとはさっき別れたばかり。母親はこんな話し方をしない。
改めて女子(+男の娘)との接点が少ないなと思いながら、残る可能性は…
「ウィ、ウィアナさん!?」
似ているところと言えばセミロングの赤髪くらいで、着崩したパーカーに、明るい笑顔。高めの声も相まって、以前と同じ人とは思えない。
「あ、変身前だから…、百合原葉月(ゆりはらはずき)、葉月って呼んで。」
「葉月さん…まさか、取り立てに…」
「あれはセナさんが債権者だから、私は取り立てるつもりはないよ。」
ニコニコ笑顔が晴人にとっては逆に怖い。
「に、逃げろ!」
晴人は走り出す。
「待ってよー!晴人くん!」
オクタウィアヌスは、公私の区別がはっきりしていたという。
(本村凌二,2016『ローマ帝国人物列伝』祥伝社)
次回 3人の皇帝 tres imperatores
他参考
服装参考
樋脇博敏,2015『古代ローマの生活』 角川ソフィア文庫
サムネイル画像引用
PAKUTASO
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