【批評アーカイブ・2020】うさぎストライプ「あたらしい朝」@アトリエ春風舎

うさぎストライプ「あたらしい朝」@アトリエ春風舎を観劇。青年団の作家には平田オリザのように現実をリアルは構図として切り取る人もいれば日常の隣の異界を描き出す作家もいる。後者の代表が松井周と前田司郎だが、うさぎストライプの大池容子もそのひとりかもしれない。
下敷きとなっているのはテレビ番組の「あいのり」。フジテレビで1999年10月11日から2009年3月23日まで放送されていた恋愛バラエティ番組で、7人乗りのワゴンに乗り込んだ、男女が世界中を旅しながら、そこで男女簡に起こる恋愛模様をリアリティーショーのスタイルで見せていくというもの。「あたらしい朝」は男女が一緒に旅するという物語の骨格にすでに亡くなってしまった人たちの死の世界への旅立ちを重ね合わせていく。
この舞台を見て驚いたのは五反田団「いきしたい」*1、宮崎企画「回る顔」*2といい、この「地獄巡り」的なモチーフは青年団周辺の作家たちの得意分野になっているんじゃないかということだ。
 特に前田作品とは夫に対する「あなたは本当はいない人間だから」と繰り返されるところなどが、すごく似ているのだが、作者によれば「あいのり」のように旅をするという話としてコロナ禍の前から用意していた話ということで、直接的な影響関係はなく、偶然テーマが重なったということのようで、作劇上は地獄めぐりとロードムービー的な演劇を重ね合わせるという趣向はかなり確信犯として以前から準備していたのだろうということは劇中で金澤昭が落語『地獄八景亡者戯』の一部を語るという引用場面があることからもうかがうことができるだろう。
 「あたらしい朝」では描き方が半ば寓話的でリアリズム的手法によるわけではないが、核をなすのは「本当はいない」夫と妻の関係。そして、実家から高齢者向け施設に移った後、亡くなってしまった母親と娘。娘であり、妻でもある女性を巡るこの三人の関係性が物語の軸。
 夫が運転する車にヒッチハイクで乗り込んでくる女性。彼と別れたという女性の誘いに乗って、一緒に旅をすることになるが、この旅にいつの間にか「いない」夫も参加している。
 その旅はいつの間にか妻の新婚旅行の記憶と重なり合うかと思えば、いつのまにか皆で一緒の「あいのり」の旅となり、女は若き日の母となり、この旅で父親と会うという物語がシームレスにつながっていく。

作・演出:大池容子
出演
清水緑、北川莉那、木村巴秋、小瀧万梨子、金澤昭

山道を走る、ピンク色の車。その車には夫婦が乗っていた。
夫婦はヒッチハイクをしていた一人の女を乗せて、空港へと走る。
やがて、その車に一人の男が乗り込んでくる。
どこにも行けない私たちが、あたらしい生活を始めるための旅に出る物語。うさぎストライプ2010年結成。劇作家・演出家の大池容子の演劇作品を上演します。
「どうせ死ぬのに」をテーマに、演劇の嘘を使って死と日常を地続きに描く作風が特徴。 2013年9月、地下鉄サリン事件を遠景に交差する人々の思いを描いた『メトロ』で芸劇eyes番外編・第2弾「God save theQueen」に参加。2017年5月、うさぎストライプと親父ブルースブラザーズとして上演した『バージン・ブルース』で平成30年度 希望の大地の戯曲賞「北海道戯曲賞」大賞を受賞。
スタッフ
制作:金澤昭
宣伝美術:西泰宏

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りん (id:simokitazawa) 2年前

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