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巣鴨の顔

私の勤めているケアハウスのU松さんを紹介します。
U松さんの見た目はちょっと怖いです。はっきり言うとカタギには見えません。そして昔の話を聞いても、そのスジそのものではありませんが、わりと近いところを歩いてこられた方ではないかなと思います。そしてこの方はかなりの認知症で、少し前のことはいつも綺麗に忘れてしまうし、季節や時間もほとんどわからないことが多いのですが、わからないことは常に私や職員に聞いてくれるので、全く支障なくケアハウスでの暮らしで自立が保たれています。認知症になって自分の記憶に自信がなくなったら遠慮なく人に頼る・人に聞く。これさえすれば認知症になっても自立して暮らしていくことができることをU松さんは教えてくれます。U松さんは「俺もボケたなー」「ありがとな」と言って笑うだけです。
関西生まれで、関西弁。身寄りのない方で、お父さんの話はあまりされませんが、お母さんが道頓堀で働いていたので俺は大阪で育ったようなもんや道頓堀やら心斎橋は庭みたいなもんだとよく言っています。

関東に来てからは、夜の街で呼び込みの仕事やってたことや、ボクシングのガッツ石松さんや輪島功一さんと後楽園ホールの控え室で一緒に撮ったスナップを見せてくれたり、韓国によく遊びに行ってたんだとパスポートを見せてくれたりするのですが、一番、誇りに思っているのは自衛隊に勤務していたことと警備員として東京駅を警備していたことです。そのせいなのか、規則に厳しく、規則は必ず守ってくれます。例えばケアハウスは館内禁煙で喫煙所は玄関の外に設けており、ライターもタバコも事務所で預からせてもらってるのですが「共同生活なんだから当然だ」と率先して預けてくれています。どんなことでも「規則だから」とつけるとなぜか「そやな」とすぐに納得されます。血液型を聞いてみたらA型でした。「俺はウソは言わんで」となぜかいつも付け加えます。

そしてU松さんがよく楽しそうに話されるのは巣鴨の地蔵通りの刺抜き地蔵の前で靴屋をやっていた話です。巣鴨のオバちゃん達が自分目当てでよく買いに来るんやと、自分がいないとがっかりして帰っちゃうんだと話されていたのですが、話半分で聞いておりました。

が、昨年ようやく外出できる雰囲気になり、ケアハウスの皆さんと巣鴨の地蔵通りに行く機会が訪れたのです。

言ってみるとなんと刺抜き地蔵の前には立派な靴屋があり、U松さんさんが中に入ると若い店長が出てきて、先代がお世話になりましたと頭を下げていました。それどころか刺抜き地蔵の団子屋のおばさん(すみません)まで出てきて「え!U松さん??」「今どこにいるの?」と近くの商店街の人まで出てきてくれたのです。・・・いやあ感動しました。

「俺はウソは言わんで」by U松さん