「ファラオの密室」を読んだ。その感想
ネタバレを含みます
剝き出しの文化に気をあてられた。
私はエジプトに関する知識をほとんど持ち合わせておらず、そんな人間が読むとエジプトの文化に対する怖さとかで、読み進める中でエジプトそのものを嫌いになってしまうかのような気もした。
人の上に立つものや環境等の圧倒的な厳しさや冷徹さ、奴隷たちの諦念と、人々を慰めるような死後の世界への期待がないまぜになって、比較的弱い立場であると言えるであろう自分はそこにひどく共感し、確実に心にダメージを受けた。
にも関わらず読後はすべてを忘れるような、興奮が痛みを忘れさせているような感覚を持った。
描かれているエジプトの文化、それに対する怖さとか嫌さとか、ともすれば拒否感とも取れる感情を整理するために、エジプトの文化についてもっとよく知りたくなった。
文化に対して湧き出る興味と、ある意味で知りたくないとも思う複雑な感情を同時に抱かせる、心に痛気持ちいい本だった。
思い返すと、主人公とその大切な人たちが亡くなり、現世に残された友人たちとの別れの後、物語は終わっている、明るい未来が望める人物はいるにはいるがそれにしても犠牲者が多く、普通でいえばバッドエンドと言うか、身を挺して世界を救った人たちの悲しみを伴う崇高なる物語だが
エジプトに生きる人々の持つ死後の世界が強く根ざした死生観がそこにあるお陰で、あぁ、これは間違いなくハッピーエンドなんだな、と思えた。
ともかく私はこの本に打ちのめされた。
良い本だった。