その場のルールと遍く倫理

ルールと倫理は別物だ、と言う人はこの問題は特に気にならないと思う。しかし、倫理を第一に考える人はこの記事を読んでほしい。いや、間違ってると思うなら遠慮なく指摘してくれて構わないが。
 
 
 
 
 
 
 
自分はお持ち帰り専門の寿司屋で働いている。
その店では、メニューに載った商品で苦手なネタがあれば別のネタに変更することができる。
しかし。オープンケースに並べてあるお買い得の商品はネタ変更ができない。そういうルールなのだ。
 

ある日曜日、こんなお客さんが来た。
 
「このお買い得の商品二つ買う、片方トロサーモン食われへんからタコに変えてくれ」
 
当然だめだ。ルールとして認められない。当然こう返す。
 
「お買い得の商品はネタ変更できないんですよ。申し訳ありません(何故ルールで決まってることを言うのに謝らなければならないのかはわからんが)」
 
すると軽く怒りながらお客さんはこう言う。
 
「前にしてもろたで」
 
確かに過去に一回後輩が知らず知らずに受けてしまったことがある。その時のお客さんか……と思いながら
 
「その時はこちらの手違いで……。本来はネタ変更ができないルールとなってます。お買い得商品はそのネタの盛り合わせでお買い得とさせていただいてますので。ご了承ください」
 
毅然とこう伝えると、少し考えたそぶりを見せた後、お客さんはこう言った。
 
「食われへんネタをそのまま捨てるのはどう思うよ?」
 
「どういうことでしょうか」
 
「食われへんネタが入ってて、食われへんから当然それは捨てるわな?それは倫理的に兄ちゃんどう思うんやって聞いてんねん」
 
まさかいきなり倫理を問われるとは思わなんだ。
確かに食べ物を捨てるのは倫理的によろしくない。しかしそれはお客さんの買ってからの行動であって、売り手はそこには干渉しないだろう。買われて所有権がお客さんに移ったのならそこから捨てようが踏みにじろうがなんだろうがお客さんの勝手なのだから。どう思うかは横に置いておいて。
 
「そりゃあ倫理的にはよろしくないでしょうけどルールはルールなので……。他の定価の商品からならネタ変更できますよ」
 
「倫理的に良くないやろ?やったらネタ変更してくれや。食われへんならアレか。お買い得買われへんのか。そんな冷たいこと言うんか」
 
知るかいやそんなこと。と言いたい気持ちをグッと抑え込んで
 
「ええ、ルールですので」
 
「もうええ!お前やったら話にならん!店長呼べ!」
 
ついにキレだした。
結局店長が騒ぎを聞きつけて前に出てきてお客さんに対応。騒ぎが大きくなる前に店長はお客さんの要望を呑んでしまった。
帰り際に「毎週日曜日来るわ!」とか言い残して帰っていった。二度と来るな、と思ったがその言葉の通り未だに毎週日曜日にそのお客さんは来店している。
 
確かに自分の対応は優しいものではなかっただろう。しかし、苦手なネタがあろうがアレルギーがあろうが関係ない。別の定価の商品を注文してネタ変更すればいい。何ならひとつひとつネタを指定して単品注文だってできる。片方変えるということは二人いるのだろうしトロサーモンだけ食べられる人が食べれば別に注文すらしなくても回避できる。捨てるというのに倫理観が咎めると言うのなら、ちゃんと抜け道はある。ルールを守って倫理とやらに反しなければいいだけだ。
なのに無理に押し通ってきた。騒ぎを大きくしないために通ってしまった。
自分は何回も似たことでお断りしている。他のお客さんはお買い得商品だし仕方ないか……って諦めてくれる。他のお客さんに申し訳が立たない……。
 
更に腹立つのは倫理がどうとか吐かしたときに正論言ったった感が出ていたことだ。そりゃ咄嗟に言われたら『ん?確かにそうかも?』とか思うかもしれんが、そんな倫理なんてルールとは関係がない。
店に限らず倫理とやらに絆されてルールを捻じ曲げるのであればルールはいらないし裁判所も必要無くなってしまう。あのお客さんは義理人情、などという曖昧なものに絶対を感じているのだろう。おそらく。だからルールを軽んじる。何故ルールがあるのかを考えず。
 
 
 
倫理を問われ、ルールを壊すというのなら。
倫理というものは絶対なのだろうか?
絶対だ、というのなら自分はあの人にこう問いたい。
 
 
「ルールを無理やり倫理とやらで捻じ曲げて、店の人間を困らせることは倫理的にいかがなものでしょうか」
 

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