7.十数年ぶりの発表会
高校生のときから習い始めた エレクトーンは
中断したこともあったが
結婚して子どもができても 続けていた。
***
子どもの結婚式で
子どもと アンサンブルするつもりでいたのに
子どものエレクトーンは 続かなかった。
それでも
発表会で アンサンブルした。
舞台上を 手をつないで歩き
いっしょに おじぎする。
子どもが レッスンをやめたあとには
私とSTAGEAが 残された。
私は 子どものためと言いつつ
EL90を STAGAに買い替えていた。
***
もうひとつ 残されたものがある。
発表会に出演した という実績だ。
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レッスンに復帰して以来
発表会は 固く遠慮していた。
大勢の前で ひとりでステージに立つなんて
緊張して 弾けないに決まっている。
でも
子どもが習い始めて間もない頃に
たまたま 発表会があり
お母さんといっしょに出よう
という話を 断れなかった。
十数年ぶりの発表会で弾いたのは
ごく簡単な 曲だった。
「久しぶりの発表会だから
これくらいがいいと思う」
子どものことだけでなく
私のことも考えて
先生は 曲を選んでくれた。
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2回めの発表会は ソロでも出た。
先生に うまくのせられてしまった。
けれど 演奏にはのれなかった。
エレクトーンを弾いていて 落ちると
致命的に 分かりやすい。
舞台上を レジストだけが流れていく。
聞いている子どもも
恥ずかしくなってしまうくらい
ぼろぼろだった。
演奏のあと 1番後ろの席で泣いた。
家に帰って 弾いてみる。
数日前から 弾けなくなっていた
速弾きのところが弾けて また泣いた。
発表会の翌週のレッスンは 休み。
しばらく エレクトーンのふたは
閉めたままだった。
***
発表会後 最初のレッスン。
「次 何弾こうか」
先生の明るい声は 切なる祈りだった。
もう 発表会には出ないなんて 言わないでね
「発表会に出たこと 後悔してない」
私は かろうじてそう言った。
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