「REVOLUTION+1」を観た。

安倍晋三を殺したい。

俺もそう思ったことがある。

「安倍さんが住みよい日本にしてくれた」と思う日本人(が本当にいるとして)の対極に俺はいる。安倍晋三が生きづらいほどめちゃくちゃにしてしまった日本にこれ以上生きていたくない、俺が日本から出ていくか、安倍を日本から追放するか、どっちかしかないと思っていた時期もある。
もちろん安倍は日本から出ていかない。それどころか死ぬまで何十年も総理大臣を続けるかもしれない。どんな犯罪に値する疑惑があっても国家権力、すなわち司法と警察を味方につけ、絶対に逮捕されないまま、金持ちだけが肥え太り庶民がどんどん生きづらくなる政治を行い、やがて憲法すらも変えてしまうだろう。そこには絶望しかなかった。

だが、安倍晋三を殺すことはできなかった。

2019年の参議院選挙で東京選挙区から立候補した丸川珠代。唯一の政治公約がタピオカの容器統一。そのJR中野駅前での応援演説に安倍晋三が来たことがある。当時、各地で、特に東京周辺で「安倍は辞めろ」コールが盛り上がっていた。そのカウンターの一員になるべく俺は中野駅に降り立った。すでにアンチが周辺を取り巻き、自民党支持者は圧倒的少数だった。丸川の演説が始まってしばらく経ってから安倍晋三が到着し、街宣車に登った。途端に怒号のような「帰れ」コールと「安倍は辞めろ」コールが始まった。俺も大声で叫んでいた。目の前のかなりイケメンな若手SPがずっと俺たちを睨んでいたので、俺も睨み返した。このときのSPは10人近くいたと思う。小雨の降る中、傘を持ってコールしながら、いったいどこから銃撃すれば安倍を殺せるだろうかと考えた。

だが、安倍晋三を殺すことはできなかった。

仮に銃を入手できたとしても、厳重な警戒をくぐってどう撃てば確実に殺せるか。銃ではなく爆弾ならどうか。そうすれば周囲の人間も巻き込んでしまう。それを割り切れるのか。もちろん殺せば、いや未遂でもその瞬間に未来はなくなる。その覚悟はあるのか。ない。もう何も未練はないと思っていても、いざそのことを考えるとできなかった。

だから、残りの人生を棒に振ることを覚悟して安倍を殺しに行った山上徹也には、俺は後ろめたさを感じている。
そして、密かにそう思っている人間は少なくないと思う。

1939年生まれの映画監督・足立正生が2週間足らずで撮った「REVOLUTION+1」は、山上をモデルにした映画だ。
本来は1時間超の長さらしいが、安倍の「国葬」に間に合わせるため、30分ほどの短縮バージョンで、9月26日に歌舞伎町プラスワンで初公開された。
チケットが発売されたばかりで予約したのが功を奏し、整理番号は38番。満員札止めだった。
主人公の「川上」は拘置所にいる。部屋の中に雨が降っている。
父親と兄は自殺し、母はよく知られているように統一教会へ多額の献金をして一家を崩壊させた。
そんな地獄図のなか、映画は同じ宗教二世の若い女と川上の交流を描く。
ふたりはブルーハーツを口ずさみキスをする。まるで青春映画のようだ。
山上は実際にブルーハーツのファンだったという。
彼はいま42歳、ブルーハーツの全盛時代はまだ小学生だったはずなので、後追いだろう。
俺はもう大人だったが、「人にやさしく」なんて青臭いというか、民青(共産党の学生組織)っぽくて当時は好きになれなかった。
だが、このシーンでふたりが歌うブルーハーツは心にしみる。
(そして、考えてみればブルーハーツの解散も新興宗教絡みである)

監督の足立正生は日本赤軍のメンバーだった(よく連合赤軍と書かれているが両者は別物である)。
1997年にレバノンで逮捕され、2000年に刑期満了となって帰国。
その帰国第一作「幽閉者 テロリスト」も観たが、全ての監督作を観ているわけではない。
足立が脚本を書き、若松孝二が監督した「犯された白衣」「新宿マッド」「狂気情死考」、大島渚監督の「新宿泥棒日記」などは好きだが、シネマヴェーラで観た「鎖陰」という監督作はあまりに難解過ぎて耐えられず、途中で席を立って帰ったこともある。
そうした1960年代の作品と今回の「REVOLUTION+1」を比べると、とてもわかりやすくなっていて、それが不満だという意見もあるようだ。
でも俺は、それが今の足立正生なのだからそれでいいと思う。
83歳が撮ったとは思えない、瑞々しい青春映画のようだと思う。
40代の男が主人公で「青春」はおかしいだろうか。
「青春とは恋と革命よ」と瀬戸内寂聴が言ったように、
人が悩み、苦しみ、恋をする。そして行動する。その姿はまさに青春だと思うからだ。

この映画でもうひとつ重要なことは、山上を決して英雄にはしていないということ。
彼を英雄に祭り上げることは、俺達の後ろめたさをごまかすものだ。
上映後のトークショーで足立監督自身も言っていたが、そもそも山上はテロリスト(政治的暗殺者)ではない。
むしろテロリストではなかったから、成功したのだと俺は思っている。
この映画で違和感があるとすれば、山上(川上)の部屋の壁に安倍晋三や岸信介、文鮮明や韓鶴子の写真が貼られていたことぐらいだ。
わかりやすさを優先したのだろうとは思うが、恨みに思う人間の写真をベタベタ貼るだろうか、と思う。
それ以外は、足立監督に叙情性を批判された(笑)高間賢治によるキャメラも、俳優も、大友良英による音楽もいい。

年末までに改めて公開されるという「完全版」を心待ちにしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?